二人の手合わせ…3
さて、第二ラウンド的何かを始めるとしますか。
「格闘」スキルのおかげか、身体も軽い気がするしな。
「とても…今ヤマトさんを切り刻みたい気分です」
「それは辞めてくれ」
ホントにやりそうだから。
「それに、わかっただろ。
俺に攻撃は聞かなかっただろう。これで諦めちゃくれないかね?」
正直なんであんなに攻撃が効かなかったのかは知らん。
まぁ…多分だが、「耐性:物理」のスキルレベル10なのに加えて600近くレベル差があるからな。
車にテニスボールがぶつかった程度なんだろう。
「諦める以前に、ヤマトさんには…し、しし、下着を…見られていますから。
確実に刈り取ります」
何をだよ。
まさか俺のムスコとか言うんじゃねぇだろうな、あのシスター。
会話の流れからしてそうだろうけど、
あんな体を張ったラッキースケベで刈り取られて堪るか。
とりあえず…
「そもそも「負け」はなんだ?どうなれば「負け」だ?」
「どちらかが死ぬまで」
それは世間一般じゃ「手合わせ」と言わん。
「あほか。
ちゃんと明確に「勝敗」は決めろ」
「…だからどちらかが死ぬまでと」
「却下に決まってるだろ…。
少なくとも「気絶」とか「立てなくなる」とかあるだろ」
「ならそれで良いですよ。その代わり、武器の使用を認めてもらいます。
でなければ死ぬまで素手です」
うぅわぁ….バカだぁ….。
てか、こうなったら一発キツいヤツをコイツに叩き込むしかないかな。
そう思い、暫く思考を巡らせる。
…うん。
よし。これでいこう。
「わかった。それじゃ「武器あり」で「気絶」した方の負け。
後腐れなしだ」
マリシテンの瞳に殺意と害意が灯る。
同時に「危機感知」スキルが警鐘を鳴らし始めた。
てことは…やっとヤル気って感じか。
おかしいと思ったんだよね。
さっきから「危機感知」スキルも多少なりと反応はあった。
でもどちらかと言えば「反射」を促すために…つまり瞬発的に攻撃を回避するために「反射」スキルの補助をしている感覚。
だが、今は違う。
明らかな敵意がマリシテンからは感じられる。
文字通りにスキルが「危機」を「感知」して、脳内で全力で「ヤバイ!」と叫んでいる。
マリシテンは相変わらず笑顔だ。
さっき一瞬見せた可愛らしい乙女な反応はなんだったのかと首を傾げるくらいにはヤバイ笑顔。
「あぁ…さすがヤマトさん。
戦いの何たるかをよくご存知ですね…そうです。
死と隣り合わせであるが故に、戦いは本気になり、
本気がぶつかるからこそ、それは美しさを増すわけです…!
武器がない状態での手合わせと言う安心感は本気を霧散させます。
魔獣相手だとこうはならないのに…。
私はヤマトさんの本気が見たい…!!
さぁ!私に本気をぶつけてください!!
ヤマトさん!!!!」
なぁんか今まで以上の饒舌さが、更に気持ち悪さに拍車をかけてやがるな。
もはや絶叫に近い声量でマリシテンはその思いの丈をぶつけてくると同時に、スカートの中から手斧を取り出す。
…さっきそれスカートの何処に有ったっけ?
全然見えなかったんだけど…?
「はぁ…はぁ…さぁヤマトさん…いつでも良いですよ?
私の準備は…出来ていますから…はぁ…しっかりと受け止めてあげますから…!」
おいおい、愛が重いぜ…。
それに肩で息して、そんな恍惚の表情で言うなよ…無駄にエロいし。
俺はアイテムボックスからある物を取り出す。
「竜甲虫の尾針」
ちなみにこれは武器じゃない。
アイテムボックスの中にあるのを、昨日の晩に見つけた。
どうやらあのカブトムシの尻尾見たいなヤツ。
アレの先端に生えている棘…というか針であり、長さとしては1.5mくらい。
見つけた時にアニスに聞いたら、あのカブトムシは尻尾のこの針を飛ばす能力があったらしい。
まぁ飛ばされる前に切り落としたから知らなくて当然か。
「…武器ですか?それ?」
マリシテンも若干首をかしげてるが、正直殺傷能力で見たらコレしかないだろ。
だって他の武器だと殺しちまう。
あと、あの薔薇剣は使いたくない。
「俺の本気が見たいんだよな?
…後悔しても知らないからな?」
俺は「尾針」を構える。
「まぁいいです…ちゃんと本気を出して頂けるなら、私は構いません!!!」
よぉしよく言った。
俺は数秒力を溜め…
次の瞬間には勝負が終わった。
目の前には白目を剥き、口から様々な吐瀉物を垂らしながら膝から崩れ落ちるシスター。
完全に俺の方が悪役見たいな絵面だな…これ。
「え、えっと…兄さん?殺っちゃってないよね…?」
「さすがに殺ってないよ…。
一応普通のでいいから「回復薬」でも飲ませてあげてくれ」
〜〜〜
ご主人様が凄い速さで距離を詰め、直後にシスター様が倒れてしまいました…。
物凄い速さで…それも何というか、瞬きよりも速いような…そんな速さで…
神速…と言っても過言ではない気がします。
「あ、あのご主人様…いったい何をされたのでしょうか?
速すぎて…全く見えませんでした…」
アニスさんにシスター様を任せたご主人様が戻ってきて水を飲み始めたため、畏れながら声をかけました。
「…あぁ何をしたって言うか…正直何もしてないんだけどね…」
どういう意味か…分かりません。
「んんっと…そもそも見えてた?」
「いえ…その。踏み込んだ事と、シスター様が倒れた事以外…ほとんど正確には見えていませんでした。
残像がかろうじて…」
「なるほどねぇ…一応マリシテンか「全力」とか「本気」とかって言うから、試しに全力で飛び込んでみたんだよ。
スキルとかも全部使ってさ。
で、コレを振ってマリシテンの腹の前で寸止めした。
これでレベル差を理解してビビってくれたら良いと思ったんだけど…まさか本当に気絶するとは…」
「当てて…ないのですが?」
「感触なかったし、当ててないと思うんだけどなぁ…」




