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[中止中]伯爵の次男に転生したけど旅に出ます。  作者: 椎茸 霞
「長いチュートリアルは面倒だと思う」
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二人の手合わせ…1

明け方には「アルマナ」を後にした。


だってさ、また魔獣が来ても困るし。

それと、昨日「竜甲虫(ドラグーンスカラベ)」との戦闘の後にアニスと話をし、

ある薬をマリシテンに使う事になった。


その薬とは、俺が「経験値薬」服用時に使った「限界激突破薬」を混ぜた「回復薬」だ。

俺が薬の服用による副作用で倒れていた時に、成分実験をアニスは行っており、その副産物として出来た回復薬の限界を越えた「超絶回復薬」。


おそらくマリシテンの傷口に塗れば、一瞬で治るだろうと言っていた。


マリシテンの傷が治ると言うことは、約束の手合わせをする事になる。


すでに昨日昼まで寝てしまった事もあり、若干ながら予定が遅れているのだ。


まぁ1日くらいは誤差の範囲だろうけど、予定がズレるのはちょっとねぇ…。


なんだろ。

元の世界の「会社勤め」の感覚が抜けてないのか…。

あくまでも「カダルファ」まで手紙を届けるだけなのだが、それでも「仕事」という認識だからな…。


脱線したな…。

つまり、マリシテンとの手合わせの時間を設けるとしたら時間が更にズレる事になる。

なので、少しでもそのズレを小さくするため、明け方早々に馬車を走らせ始めたわけである。


まだ朝靄がかかっており、ちょっと肌寒い。


「アルマナ」を出て改めて森の街道に出る。

やっぱり靄のせいで奥の方は見づらいな。

視力が悪くなった気がする。


取り敢えず「暗視」スキルと「千里眼」スキルの重ねがけをしつつ、馬車を進めていく。


どの世界もそうだと思うが、やはり安全運転ですよね。


〜〜〜


朝日もそれなりに顔をだし、朝靄も晴れた森の街道の中でそれなりに開けた場所があった。


取り敢えず朝食の為にそこに馬車を止める。


出発の際にまだ寝ていた3人の少女。

アニスはまだしっかり覚醒していないながら、よろよろと起き上がり、桶に水を用意して顔を洗い、

レイラは一度大きく伸びをするとすぐちゃんと目が覚めたようで、アニスの分も含めて布団を畳み、アニスの次に顔を洗いに行く。

マリシテンはゾンビ…いやキョンシーの様にサッと起き上がりと、すぐ椅子に座って静止した。


三者三様ってヤツだが…。

マリシテンは顔洗わねぇのか。


俺はと言うと、適当だが朝ごはんを作っている。


「アルマナ」で買った野菜やハムをパンに挟んだだけ…つまりサンドイッチだ。


「・・・やっぱ金持ちは違うね」


そんな俺にアニスがボソッと呟いた。


「…わりと一般的じゃないのか?」


「マンリキパンは食べるけどさ…フラットパンか良くて黒パンだよ」


黒パンってのは…ライ麦パンの事だっけ?


「フラットパンってなに…?

てかそもそも「マンリキパン」って…?」


「ん?それマンリキパン作ってるんじゃないの?」


こっちの世界じゃ「サンドイッチ」じゃなくて「マンリキパン」なのか…?


「…金持ち出身は分かんない物なのかな?」


呆れ顔のアニスに改めて「マンリキパン」と「フラットパン」について聞いたところ、

「マンリキパン」は予想通り「サンドイッチ」でありった。

「フラットパン」は、

どうやら比較的簡単にでき、材料も安い穀物で出来る貧困層の主食にもなっているパンらしい。

聞いた感じだと何となくインドの「ナン」に近い様に思えた。

てか、多分その予想であってるかも知れない。

たしかパンを買いに行った時、パン屋の店頭に唯一乱雑で大量に置かれてるナンみたいな物があったからだ。


今使っているのは、前の世界の記憶とも近い、わりとメジャーなただの食パンだ。

一応1斤買ったので、55銅貨だったが…フラットパンになると同じ重さで2銅貨くらいなんだとか。

…金遣い荒いのかな?

気を付けてるつもりなんだけども…。


一通り話を聞いた頃に、テーブルなどの準備をしてくれていたレイラがその報告に来たので、

急いでサンドイッチ…もといマンリキパンを作り上げた。


〜〜〜


「…それじゃかけるからね」


「はい」


アニスがスポイトの様な器具で小瓶の中の「超絶回復薬」を吸い出し、

マリシテンの左足に深々と残る傷口に一滴垂らした。


アニスが言うには、実験の検証結果として、薬の効果の増幅は平均的に1000倍近くになるんだとか。

通常の回復薬を、マリシテンの傷に一滴垂らしたところで、痛みが引くとか出血が鈍くなるとか傷口が塞がろうと反応してピクピクする程度なのだとか。

しかしその1000倍。


正直ピンと来ないんだが、アニスは1000倍であれば傷口は塞がる可能性が高い、と言っていた。


まぁアニス自身昨日はああ言っていたが、

やはりまだ未知の部分が多い薬を使うのは薬屋としてやりたくない様で、

初手から全部かける何てことはしなかった。

多分俺ならやる。


スポイトの先端から淡く光る緑の液体が一滴、マリシテンの傷口に落ちた。


瞬間、傷がうねうねと動き出し、もはや「再生」している様な速度で塞がっていった。

なんか微妙に気持ち悪い動きをしてたが…。


「…眉唾でしたが、本当に治りましたね」


「いや、まだちゃんと確認しないと。

今から言う動きをやってみて、何か少しでも普段と違うことがあれば言って」


アニスのお医者さんモードだ。

マリシテンも律儀かつ素直にアニスの指示に従い、屈伸や前屈など行っていた。


数分ほど動きを確認し、最後は触診。


それが終わるとアニスはゆっくり立ち上がり、何とも複雑な顔で俺に振り向いた。


「もぅビックリしないけど…完治してるよ」


「はぁ…了解」


さぁて、完治しちゃったならしゃーないな。

俺が好きだった特撮ヒーローのセリフを使うなら

「ここからは俺のステージだ」。


マリシテンに視線を向ける。

朝日の逆光が彼女の狂気に染まった笑顔に影を作り、なおさら不気味なものを作り上げている。

見ようによっては「後光の差したシスター」なわけで結構神秘的なはずなのに、その笑顔が全てを覆している。


「あぁ…ようやく…ヤマトさんと戦えるなんて…」


無駄に艶かしい声はやめてくれ…。


「はぁ…言っておくが、ルールとかは?

さすがに手合わせなんだから血みどろなのは無しだぞ」


「なら…素手での戦闘はいかがでしょう?」


「あぁ…お手柔らかに頼む」


確か、マリシテンは「格闘」のスキルレベルが5だったな。

それなりに心得があるって事だろう。

少なくとも素人じゃなさそうだし。


問題はその「格闘」術が十中八九、文字通り「型にはまっていない」可能性しかない事だ。

こいつの事だから「空手」とか「柔術」とかボクシング」とかそんなもんじゃないだろうし…そもそもそのカテゴリがこっちの世界にないと思うし…。

何が言いたいかと言うと、こいつの「格闘」スキルはほぼ確実に「魔獣を殺すための格闘術」として独学で会得してそうな感じしかしない。


改めて自分のスキルを確認したが…まぁやっぱりまだ「格闘」スキルはないな。


多分マリシテンとの手合わせ中に獲得しそうだけど。


取り敢えず羽織っていた上着を脱ぎレイラに預ける。

別に格闘スタイルってわけじゃないが、できるだけ動きやすい方が良さそうだしな。


馬車から数メートル離れた所で、俺はマリシテンと対峙した。


「ホントに素手だけなんだろうな?お前の事だからナイフとか急に出しそうで不安しかねぇんだけど」


「約束は違えません。

・・・傷口が開いたのは予想外でしたが」


律儀だな…。


こっちの世界に来る前でさえ、喧嘩なんて小学校以来やってねぇんだが…。


「もぅ我慢の限界です…やらせてもらいますねェ!!」


無機質、無表情、無感情をセットにした様な冷たさを感じる表情が、刹那の内に激情を露わにする。

普段なら病弱そうな真っ白の肌が、今はお酒でもガブ飲みしたのかと思うほどに赤く火照っている。

端正で人形の様な顔も、狂気と恍惚が混ざり笑顔によって歪む。


俺との間の5メートルくらいの距離をたった1歩で詰めてくる。


そして風を裂いて放たれる右脚。


余りの早さにあっけに取られたが、ハッとしてそれを右腕で受け防御する。


早さはある。威力もある。

けど、

目で追えるし、耐えられる。


・「耐性:物理」10


はい。スキル増えたー。


空中で体勢をくるりと回転させ、マリシテンは更に完治したばかりの左足でキックを放つ。


「反射」スキルによるものだろうけど、そのキックも動きが見える。

つまり容易に防げた。


「…??」


マリシテンはすぐに2メートル程あとずさる。


「一撃目と二撃目で、手応えが違いすぎます。

何かしましたか…?」


「耐性:物理」のスキルは即座に反映されていたらしい。

さすが戦闘狂。伊達に戦いに身を置いてないわ。


「さぁな?俺に勝ったら教えてやるよ」


マリシテンの口角が更に一段上がる。


「それもそうですね」


ちなみにまだ「格闘」スキルはついてない。

うぅ〜ん。

やっぱ能動的に動かないとスキルは付かないのかな?


「それに…始まったばかりですから、存分に楽しまなくてはいけませんよ…ねェ?」


動きといい、声色といい、

完全に敵の狂キャラだぞ…。


まぁ別に仲間ってわけでもないけどさ…。


そんな俺の考えをよそに、

マリシテンは流れる様な動作で連続でパンチとキックのコンボを繋げてきた。

多分本編で書く事は無いかもしれないので補足を…


ヤマトの「耐性:物理」の取得ですが


「能動的に動かないとスキルは取得できない」

とありますが、

「耐性なら受動的な要因(攻撃を受ける)がないとスキル取得にならないんじゃないのか?」

「だとすればもっと早く取得できたんじゃないか?」

と思われるかもしれません。


この点は少々曖昧なものですが、

「耐えようとする」とゆう能動的な動きがスキル取得のトリガーになっています。

前回の「竜甲虫」に対して、

振り落しに耐えようとしていましたが、あれは物理攻撃でも何でもなく、

「竜甲虫」が身をよじっていただけなので、「耐性」取得に至っていません。


ちなみにレイラの「耐性:火」などのスキルですが、これは種族スキルになるので自然と持っています。


まぁ奴隷だったので「耐性:物理」持ってなくても獲得したと思います

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