アニスの心情
ウチは今、ものすっごく迷っている。
師匠の言葉が頭に残っているからだ…。
「アニス、見てごらん。
あの道端に生えている雑草でさえ、使い方によっては薬になるんだ。
そう言った「自然を知る」と言うことが「薬学」なんだ」
「数多の「薬」は「良薬」にも「猛毒」にもなる。
その使い方を知るのが「医学」だよ」
「わたしが言うのも可笑しな話だが…あまり魔法が好きではなくてね。
なんと言うか…自分の、自然の力を信じていない様な気がするんだ。
その考えを押し付けるわけでは無いが…心に留めておいて欲しいとは思うね」
改めてウチは手の中の小瓶の薬に視線を落とす。
薄っすらと光を放つ緑の、半透明の液体。
本来の「回復薬」ならこんな光は放っていない。
パーティーを組んでいる兄さんが持っていた「金の粉」…便宜上、その効果からウチは「限界突破薬」と呼んでいるその粉を、実験を兼ねて混ぜてみたのだ。
「限界突破薬」は手持ちの薬品の、どの成分とも親和性が高く、「極小匙」1杯程度混ぜただけで効果をバカみたいに増幅させた。
この小瓶の「回復薬」はその実験の時に使用したもので…言うなれば、超回復…いや、「超絶回復薬」とでも言える代物に図らずも昇華してしまった物だ。
…ちらっと戦闘狂シスターを見る。
相変わらず死人みたいな顔のまま、人形の様に座って静止している。
包帯はさっき取り替えてある。
まったく…本当にビックリしたよ…。
急に町の人が叫びながら走ってて、何かと思って聞いてみたら「でかい魔獣が出た」って…。
兄さんなら問題無いだろうけど…あのシスターは戦おうとするだろうなぁ…。
お人好しのあの兄さんなら、それを止めるためにも戦うだろうし。
あのシスター、絶対傷口バックリ開いて帰ってくるんだろうね。
…とか思ってたら本当に予想通りだったし。
安静にしてれば、薬草の効果で3日後にはある程度の日常生活なら出来るはずだったのにさ。
完全に悪化してるし。
さすがに怒るどころか呆れたよ…。
新しい包帯を用意してる時にこの「超絶回復薬」を思い出したわけだけど…。
これをシスターに使えば…。
でもなぁ…。
「どうしたんだ、アニス?」
「うわぁ!?急に声かけないでくれるかな!?」
びっくりしたぁ!
そういえば、この「超絶回復薬」は兄さんが持ってた「限界突破薬」で出来たものだし…兄さんに渡して、処遇は判断してもらおうかな。
「ねぇ兄さん。これ、渡そうと思うんだけど」
「ん?なにそれ?」
「兄さんが昏倒してた時に、実験で出来た「限界突破薬」の混ざった「回復薬」だよ」
「…確か効果の確認とかやってたんだったな。
でもなんで渡そうと?いざって時のために持ってたら良いじゃん」
「いやぁ…その、戦闘狂シスターの足に使っちゃおうかと思って」
正直あのシスターは苦手だから、兄さんには悪いけど、ちゃっちゃと傷を治して、ちゃっちゃと手合わせしてもらって、ちゃっちゃとどこかに行ってもらいたい。
だって初見で殺しに来たんだもの。
良い気分じゃ無いよ。
まぁ…咄嗟に助けちゃったのは医学を学ぶ者として…ね?
「・・・。」
顎に手を当てて兄さんがこっちを見てる。
あれ?ウチなんか変なこと言っちゃったかな…?
やっぱ手合わせの事気にしてるのかな…?
「やっぱり、自分を殺そうとした相手は苦手って感じか?」
?!
「な、な、なに?読心術?スキル??」
「違うわ。まぁ普通に考えてそうかなぁ?と思ったからさ。
それに正直、俺も気が気じゃ無いからな。
旅の仲間が殺されるのはさすがに笑えん。
キツイってんなら俺も腹くくって、あいつと手合わせだっけ?やるとするさ。
…どうせレベル差があるし」
あぁ〜なぁんか最後の一文の時の顔がワルイカオだったなぁ…。
それまではちょっとカッコ良いとか思ったんだけど…。
気が気じゃないのはウチも同じだ。
自分がまた狙われるかも知れないってのもあるけど、
逆に兄さんやレイラちゃんが狙われるかも知れない事も心配だからね。
不安要素はできるだけ無い方が良いってのが本音だし。
「じゃぁ…使うからね?」
「あぁ、分かったよ。
明日にでもその回復薬で治しておいて。
流石に今日は疲れた」
この薬は「自然の知識」で作ったものじゃないし、
そもそも、ほとんど「魔法」さえも越えた代物な気がする。
「超絶回復薬」を使うって言っても、自然の力を信じていないわけじゃ無い…仲間の安心のためだし…。
師匠もそーゆー理由なら許してくれるだろうしね。




