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[中止中]伯爵の次男に転生したけど旅に出ます。  作者: 椎茸 霞
「長いチュートリアルは面倒だと思う」
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巨体の甲虫

屋根の上で取り敢えずマリシテンを下す。

疲れはしないが肩が痛くなってきたからだ。


「ヤマトさん。あの魔獣は殺らないんですか?」


「あんなデカイのに向かっていく方がアホだろ…」


「私の事を言っているなら刈り取りますよ」


刈られてたまるか。

でも…さすがに放って置くのもなぁ…。


くそ。

我ながら相当お人好しだよな…。


「おい、マリシテン…」


「あの魔獣について聞きたいんですか?」


先ほどとは違う印象だが、それでも狂気が滲んだニヤけ顔でマリシテンはこちらを向いた。


「…お前読心術とかできるのかよ」


「そんな便利なスキルは持っていません」


先読みが凄いんだよ…それも経験則ってヤツか?


「まぁ当たりだ。あいつと戦った事あるか?」


「2度ほど。

目の前のものの半分くらいに小さい個体でしたけど」


「強いか?」


「全然。所詮「虫」ですね」


こいつがそう言うなら、何とかなりそうだな。

そう考えつつ、「アイテムボックス」から片手剣…「オールファイター」を取り出し、左腕に盾付きのガントレットを装備し、剣を握る。


「…昨日と違いますね。それにどこに持っていたんですか?」


「お前もスカートから手斧を出してただろ」


「…まぁ良いですけど」


「オールファイター」を選んだのは、刃こぼれを懸念したことと、「虎断」より刀身が厚かったからだ。

エンチャントされている効果はないが、まぁいけるだろ。

狼は所詮「肉」だが、あの虫は硬さがいまいちわからん。

巨体も相まって硬そうだし。

脆いとこがわかるまでは「オールファイター」で様子見だ。


「マリシテンはここでお留守ば…」


「動けなくても出来る事はありますよ」


そう言うと、マリシテンの両腕の袖口から勢いよくナイフが出てきた。


「一応「投擲」スキルがありますから」


「あぁ…分かったよ。援護頼む」


「貸し1ですね」


「よし。援護は要らない」


「・・・貸し借り無しでいいですから、戦わせてください」


そんなにかよ…。

本当に戦闘狂だな…。


移動は必要ないとの事なので、

取り敢えず屋根伝いに「竜甲虫(ドラグーンスカラベ)」とやらに向かっていく。


「疾走」と「跳躍」のスキルのコンボはヤバいな。

かなりの距離を一気に移動出来る。

「虎断」装備だとこれに「加速」が付くんだよなぁ。


さてと。

カブトムシのいる場所から3件ほど手前まで来た。


竜甲虫(ドラグーンスカラベ) Lv19 魔獣/巨殻虫」


種族はただの「魔獣」ではないようだ。

レイラの「亜人種/黒龍人」とかゆう表記と似た様なものかな。

まぁ19レベルなら問題ないか。


振り向いてマリシテンを確認したが…遠いな。

あいつ、あそこからナイフ投げるのかよ。

威力死なない?


まぁいいや。


「虫なら取り敢えずお決まりは…」


竜甲虫(ドラグーンスカラベ)」の一点を見つめて全力で「跳躍」する。


「関節でしょぉ!」


落下の勢いを交えた剣の振り下ろしは、真っ直ぐにカブトムシの6本ある脚の関節をとらえた。


ザシュァ!!


『ヴォォォォオオオオオオ!!!!』


カブトムシの左中足を一太刀で斬り飛ばせたのは、ちょっと驚いた。

何とゆうか…発泡スチロールを切っているみたいな軽い感触だったからだ。


昨日の狼の方が手応えあったぞ。

虫ってそんなに弱いのか?


すぐにカブトムシの腹の下を走り抜け、反対側の中足を切りつけた…が。


キイィィンッ!!!


「うぇ!?関節以外だとこんな堅いのかよ!?」


もはや鋼鉄と言っても過剰表現じゃないだろ。


さすがにレベル差と筋力故か擦り傷は付いていたのだが、それだけだ。

600以上のレベル差を擦り傷程度で耐える堅牢な外殻。

初手を「オールファイター」にしたのは正解だわ。


「やっぱ関節狙い一択かッ!!」


体勢を立て直し、その場で上空に向かって飛び上がり中足の関節をすれ違いざまに両断する。

うん。

やっぱり関節はバカみたいに抵抗力がない。


そのままカブトムシの背中に着地した。


「さてと、こうなったら次は何処の関節を…ん?」


「竜甲虫」の背中、実際のカブトムシで言う所の、胸部と腹部の間辺りから、先ほど見えた尻尾の様な物が伸びていた。

その尻尾はかなりの多重関節になっており、グネグネと動いて、周囲の建物を破壊していた。

関節の構造上、前方には動かせない様だ。


「じゃまだな」


付け根からその尻尾も切断する。

中足の関節より抵抗はあったが、

発泡スチロールではなく、重ねたダンボールを切っている感じだ。

それも力を込めたらすんなりと切れた。


『ヴォォォォオオ!!!』


続いて胸部と腹部の間に刃を突き立てた。


『ヴォォォォオオオオオオオオオオ!!!??』


「うぉ!やっぱ暴れるか!」


足や尻尾を切られた以上に「竜甲虫」はその巨体を上下左右に振るい始めた。


深々と突き刺さる剣に掴まり、何とか振り落とされない様に耐える。


「うおぉ!?あぁっ!!

くっそ!暴れんなよ!!!」


そんな俺の声は虚しくカブトムシが暴れた破砕音に掻き消される。

数秒後に、俺は勢いに負け宙を舞っていた。


「跳躍」スキルのおかげか、空中に飛ばされても体幹が崩れる事はなく、すぐに体勢を立て直す事は出来た。


さぁて…関節が弱いから倒すのは簡単だと思ったんだけどなぁ…。

身体がデカイってのは、ある意味それが武器なんだよねぇ…。


ふとマリシテンが視界の端に入った。


「何やってんだ…?」


目を細めて見たが…何かキラキラしたものを…振ってる?

直後、遠くのかなり小さく見えるマリシテンがハッキリと見えた。

一瞬驚いたが、まさかと思いスキルを確認する。


・「千里眼」10


あぁ…やっぱそーゆー…。

やっぱ、特定の行動でスキルは習得できるんだな。

俺の場合、その取得するためのハードルがかなり低くなってる様だが…。


改めてマリシテンを確認する。

彼女は心底楽しい事を考えているのか、かなりニヤニヤしながら、細めのチェーンをくるくると回していた。

物騒なのが、その先端にナイフが付いているところだな。


「まさかと思うけどさ…」


そのまさかだった。

マリシテンは一歩踏み出すと、そのチェーンナイフを「竜甲虫」に向けて投擲した。


一直線にナイフは空を裂き、数秒のラグの後「竜甲虫」の頭部と胸部の間の、極僅かな関節に深々と突き刺さった。


うぅわぁ…やりよった。

距離にして約数百メートルはあるんだけど…そのチェーンはどっから出したのよ…。

よく見ると、袖口からチェーンは伸びてた。


もうわけ分からん。

戦闘においては、俺よりあいつの方がチートじゃね?


ナイフが刺さると同時に、マリシテンはそのチェーンを強引に引っ張り始めた。

ちょうど甲殻に引っかかっているのか、ナイフが抜ける事はなく、「竜甲虫」は一瞬よろめく。


あぁ…こりゃマリシテン、後でアニスに怒られるな。

あんな事して、傷口絶対開いてるだろ。


はぁ…だとしたら、早めに終わらせないとな。


マリシテンが引っ張っているため、カブトムシもそれに対抗し、動きが止まっている今がチャンスってやつかな。

てか、よく拮抗できるな、あの小さい身体で。


俺は「アイテムボックス」から「虎断」を取り出した。


魔獣って言っても生き物だし、頭を落とせば何とかなるでしょ。

来たる衝撃に備えて、軽く体をほぐす。


よし。


数メートル程後ずさった後、その短距離を走るのに「疾走」スキルと「虎断(とらたち)」の「加速」スキルを重ねる。

「反射」スキルで屋根のギリギリを見極め、全力の「跳躍」を発動し、落下地点を上昇中に計算し体勢を整える。

「暗視」と「千里眼」によって「竜甲虫(ドラグーンスカラベ)」の頭部関節を見定め…


「剣」スキルで洗練された必殺の一太刀を放つ。


ドヤ。

このスキルのオンパレードは。


「竜甲虫」の頭部は呆気なく胴体とおさらばし、薄紫色の気持ち悪い液体を飛ばしながら地面に落下した。


かなり盛大に土煙が上がっているが、「暗視」スキルはそこらへんもカバーしてくれるらしい。

いやそれとも「千里眼」か?


取り敢えず「竜甲虫(ドラグーンスカラベ)」の表示が、


「竜甲虫の亡骸」


に変わっているから、倒せたってことでしょう。

まだ一応神経は微妙に生きているのか腕がピクピクしてるけど…。

虫特有のコレ、気持ち悪いよねぇ…。


…てか、これって武器とかの素材にならないか?

…多分なるよね。

こんだけゲーム風なファンタジー異世界なら。


俺は取り敢えず「竜甲虫の亡骸」を「アイテムボックス」に収納した。


かなりデカイから入るか不安だったが、何も問題なく収納出来た。

多分容量は減ったな。

時間がある時に小分けにしよう…さすがに町中じゃ無理だけどさ。


「さてと…」


俺は、かなり使い勝手の良さを感じ始めた「跳躍」スキルで近くの建物の屋根に飛び上がり、

そこからマリシテンのところまで戻った。


〜〜〜


「思ったより苦戦していませんでしたか?」


魔獣が居なくなり、元の死んだ目になったシスターがずいぶん退屈そうに、屋根のヘリに座って足をプラプラさせていた。


「あんなにデカイのと戦うのは初めてだったし、そもそも実戦は今日で2度目だからね」


「…冗談ですよね?」


まぁそうなるよね…。

取り敢えず、一旦馬車に戻らなきゃな。


「おぉっわ!!??


な、なんだ!?」


不意に足元が滑ったせいで変な声が出たじゃねぇか!

見てみたが…水?

「暗視」スキルで再確認っと…わぁ…真っ赤だ。


すぐそこで足をプラプラしているシスターを見る。


おい…左足の包帯が真紅に染まってますぜ、シスターインセイン。

そりゃあんなデカブツと綱引きしたらそうなるよ…。


俺は無言で再びマリシテンを肩に担いだ。

また抵抗されるかと思ったが、自分でもいろいろ理解しているようで、マリシテンは抵抗しなかった。


はぁ…アニスの怒る顔が目に浮かぶよ。

あいつも気苦労が絶えないね。

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