魔獣の襲撃
◇いつもより長いです
イベント発生ってヤツですか?
「手合わせって…一体何するつもりだよ」
「言葉の通りだと何度言えば理解されるのですか?」
何とゆうか、いい意味で言えばこのヤバそうなシスター、裏がない。
ただ、その所為で言動が突拍子もない…。
「武器は何を使っても構いません。私も何でも使います」
「待て待て!
なんで手合わせをしたいなんて話しになるんだ!」
「ヤマトさんに興味を持ったからだけです。
認識外から放ったはずの私の右手を、いとも容易く、それも私自身が認識出来ない速度で止めた。
これ以外に理由が必要なんでしょうか?」
そもそも手合わせの必要がないだろ…。
「ホント、ヤマトさんからは敵意や害意を感じないのに…何故そんなに「人ならざる存在」の雰囲気を感じるのでしょうか?」
背中に冷たいものが走った。
相変わらず輝きの感じられない闇のような瞳がこちらを見ている。
その顔に表情の彩りはない。
無色。
端正で、まさに「人形」の様な綺麗な作りの顔がその無感情さを更に引き立てている。
「人ならざる存在」なんて、現状俺の記憶にあるとしたら…あの自称「死神」しかいない。
あのやたらフワッとした死神からの恩恵である俺の能力に勘付いているのか?
少なくとも能力の内容は分からない…と言うか「能力」を持つのかさえも分からないが、何かしらの雰囲気…「残り香」的な物には気付いている?
「何を考えてるかは知らないけど、戦うつもりは無いぞ。
揉め事は俺から最も遠くに置いててくれ」
「頑固なんですね」
ペン回しの様な軽やかな手付きで、マリシテンはナイフを取り出した。
それどこから出してるのマジで。
「私は執着心が強いんです」
レイラやアニスから見たら「目にも留まらぬ速さ」というヤツなんだろうが、俺にはちゃんと見えていた。
マリシテンの持つナイフが俺の喉元数ミリの所で静止している。
「…避けもしないんですか?」
マリシテンは無表情なりにも怪訝そうな声で問いかけてくる。
「まぁ…「危機感知」に反応なかったし」
「危機感知」スキルについてだが、正直1番実験がしやすかった。
俺、もしくは俺が仲間と認識している人間に対する明確な「害意」「敵意」「殺意」に対して、この「危機感知」スキルは反応する。
ちょっと治安の悪い街中を歩いただけでその効果を確認する事は出来、
スキルが反応する相手は須らく、スリや恐喝をしてきた。
それなのに現状のマリシテンの行動に「危機感知」が反応しなかったという事は、
単純に「殺るつもり」はなかったわけだ。
「そこまで人を信頼出来るんですか?」
「いや俺が信頼したのは自分のスキルだ」
マリシテンは静かにナイフを納めた。
「その気になったらいつでも言ってください。すぐに刈り取りますから」
だから何をだよ…。
それだけ言うと、マリシテンはもはや完全に人形になった様に馭者台の空いたスペースにちょこんと座り、一切動こうとしなかった。
…こいつ何してんだ。
あ。
森まで送るって言ったからそれ待ってるのか?
…この一連の流れでよく未だに「送ってもらえる」と思えるな。
逆に感心する…。
「ちょ、ちょっと兄さん!何なんですこのシスター!!」
やっとの事で思考が追いついたアニスが、馬車を進めようとした俺に突っかかってきた。
「な、何って言われても…正直俺にも分かんないよ。
ただ、森に魔獣討伐に行くとか…」
「討伐じゃありません。殲滅です」
急に喋んなよ、ビックリするだろ!
「…らしいけど?」
「魔獣を殲滅するシスター…ってまさかとは思うけど「シスターインセイン」?」
アニスが俺に確認する様に耳打ちしてきた。
ただ、すまんアニス。
通り名とか俺は知らん。
「誰だよそれ…」
「知らないの?
そこまでマイナーじゃないと思うんだけどなぁ…まぁウチも詳しいわけじゃないし…。
ギルドじゃ有名なギルド非登録者で、勝手に現れては目の前の魔獣をことごとく肉塊に変えていく修道女が居るってゆう。
原型を留めないほどに魔獣を殺戮するので、討伐目標を横取りされた冒険者からはかなり嫌われてるね。
本当に討伐目標なのかが確認できなくなるくらいだし」
「うぅわぁ…それって失敗にカウントされるのか?」
アニスは首を横にふる。
「だって目的は魔獣の討伐だから結果としては目的達成はできているんだもの。
だからそれを逆手に「急に修道女が現れて目標を横取りされた」ってゆう虚偽発言で失敗のカウントを減らそうとする人もいるくらいで、ギルドでもちょっと問題になってたり」
あぁ…そーゆーヤツっているよねぇ。
相変わらず微動だにしないマリシテンに視線を向ける。
寝てるんじゃねぇよな?目、開いてるし…。
まったく、気苦労が増えたよ…。
「とりあえず、この先の森までは今夜中に行く。
コイツもそこまで乗るから…それまでちょっと奥の方に座っとけ」
ここで止まって話をしててもどうしようもないからな。
「あ、レイラ。
さっきはアニスを庇ってくれてありがと。
ちょっと危険だが、森に着くまでもう少し注意しててくれないか?
どうも馭者台からじゃすぐには動けそうにないから」
「…はい!」
なんか言葉尻が嬉々としてるのは何でだよ。
アニスが馬車の中、マリシテンから1番遠い席に座りその横にレイラが座ったのを確認し俺は馬車の歩みを進めた。
〜〜〜
森の手前、街道から少しズレた原っぱに馬車を止めた。
荷台部分と馬を離し、手綱を近くの木に括り付ける。
んんん…こいつらの名前どうしようかなぁ。
「いい馬ですね」
突然背後から声をかけられ変な声が出そうになった。
「あ、あぁ。一応何となくで決めたんだけどな」
「筋肉のつき方が良いです。力強く、そしてしなやかです。
魔獣だったら解体して直接見てみたいところですが」
何言ってんだよコイツ…。
馬車の中では、アニスが寝息を立てている。
レイラは起きている様だが、さっきの俺の言葉を守ってくれているのかマリシテンに注意を注いでいる様だ。
「さっきアニスから噂を聞いたんだが、ギルドに登録してないのか?」
「はい。独自に動いています。
何せ、我が身は私の神のものですから。誰かの指図を受けたり、規則に縛られるのは許されません。
神への愚行です」
おぉっふ。
唯我独尊か傍若無人か…我儘放題か…。
「そろそろ私と手合わせする気にはなりましたか?」
「ならねぇよ」
「…そうですか」
取り敢えず、草をのほほんと食べてる馬にブラッシングをしてやる。
こいつらを買った時にある程度手入れの方法は習っていたからな。
ふと思い出しスキルを確認する。
ふぅ…。
特に「ブラッシング」とかスキルは付いていない。
さすがにそんなスキルは範囲が限られるよな。
ただ代わりに「反射」とゆうスキルが付いてた…。
なんだこれ…あ、いやアレか?
さっきマリシテンの腕を掴んだ時か?
「反射速度」のスキルって事かもな。
その時、ふと寒気を感じた。
「危機感知」スキルも警鐘を鳴らす。
咄嗟にマリシテンを見た。
彼女はいつの間にか両手に手斧を持っており、
その目は鋭く冷たい眼差しに変貌している。
が、「危機感知」はマリシテンではなく、彼女の視線の先…つまり森の方に向けられていた。
て事は…まさかイベントって立て続けに起きるものかね…いや。違う。
マリシテンはフラグだ。
本命はこっちか!!
マリシテンがどこからその力を出しているのか分からない強さで地面を蹴るのと、
森から脅威が出現するのはほぼ同時だった。
森から飛び出してきたもの。
「暗視」スキルによってその姿はハッキリと見て取れた。
体長は2mほどだが、4足歩行のため全高は低め。
グレーの毛並みは月明かりを浴びて軽くキラキラしている。
そして目を引くのが頭に被っている様な角の生えた骸骨。
部位ごとに説明すると分かりづらいだろうな。
まぁ最も似ている動物をあげるなら…
「狼…なのか!?」
「ご主人様!」
突然の魔獣出現に、レイラも馬車から降りてきた。
いや、降りてきても戦闘スキルないでしょうに…。
まぁ奴隷の性と言うべきか…主人を守らなきゃとか思ったんだろう。
森から飛び出して来たのは、角の生えた髑髏を被った狼だった。
いや、アレは被ってるのか?
まぁそんな事は今は良い。
問題はそれが1匹じゃない事だ。
ザッと見ただけで10匹居るかどうか…。
既にマリシテンが髑髏狼の群れに飛び込んでおり激しい格闘が始まっている。
執着心が強いと言っていたが…なるほど。
1匹に狙いを絞って執拗にその1匹を攻撃し続けている。
周りから別の髑髏狼が攻撃しても、避けて躱して去なして受け流す。
狙いはただ1匹。
「に、兄さん!あれ「骸鎧狼」だよ!!ギルドじゃ討伐依頼はランク3以上に指定されてる!!」
どの程度ヤバイのか正直パッとしないな…あんまギルドランクについては理解できてないし。
ステータス表示も「骸鎧狼」で当たっている。
種族が「魔獣」ともなっている。
種族の組み分け雑だな…。
動きを見てて思うのは、あの群れの統率力と俊敏さは厄介に思える。
そこからくる爪と牙、角の攻撃は結構ヤバそうだ。
ヤバそうだけど、マリシテンに至ってはかなり易々と攻撃を回避している。
見た感じ、全体的に狼共のレベルは10〜13ってとこだし、彼女のレベルなら大丈夫なんじゃないか…?
ああ…でも優勢ってほどでもない…。
彼女のいつもの戦闘スタイルなのか、1匹に的を絞って攻撃している状況なのだが、
狼の方も頭が良いらしく、マリシテンがその1匹以外に目もくれない事を理解すると、
その1匹を囮とし、残りのヤツらが連携で攻撃を繰り出していた。
俺は一つため息を着くと、「アイテムボックス」から「虎断」を取り出した。
それを見てアニスが声を張る。
「い、いつの間に…?
ってかそうじゃなくて!加勢する気なの!?」
「いや、見て見ぬ振りも出来ないでしょ」
「アレは見て見ぬ振りをすべきでしょ!」
「仮にアイツが狼共に殺られたら、次の狙いは俺たちだ。
逆に狼共に勝ったとしても、それはアイツに借りができてしまう…」
「あぁ…」
正直後者の方が嫌なのだ。
借りを作ってしまうと、それを理由に「手合わせ」とか言われそうでならない…。
「レイラ、アニスを守っててくれ!」
「はい!」
俺は狼の群れに向かって全力疾走する。
走りつつ脳内で有用そうなスキルを確認する。
取り敢えず「危機感知」と「暗視」「索敵辺りは…あ。
走ってて気付いたが、この数秒の内に「疾走」スキルが付いてる…。
ドタンバで速度アップですか。
加えて「追加スキル」という物がある事に気付く。
どうやら「虎断」にエンチャントされているスキルが反映されている様だ。
ただ、そっちはレベル表示じゃなく大・中・小の表示だ…ちょっとちゃんと数値化してもらって良いですか!?
ちなみに現状
「加速:大」大
「威力増加:居合」大
「空間把握」大
が追加されている。
「加速:大」大って分かりづらい事この上ない。
まぁ速度アップは大事だね。
取り敢えず1番近くにいた「骸鎧狼」の横を通り抜けざまに、抜刀する流れで切り裂いた。
尻尾の付け根から口までを横一閃。
向きのおかしい開きの様だ。
断末魔もなくその「骸鎧狼」はその場に崩れ落ちる。
かなり容易く切れたな。
これが「威力増加:居合」か?
俺の参戦に気がついた狼共が数匹おり、狙いをマリシテンから俺に変えたのが分かった。
1…2…3…
4匹か。
最初の1匹目が飛び上がり、大きな口を開けて噛み付きに来た。
それをサイドステップで横に避け、着地した狼の首を切り飛ばす。
次に来たのは他の狼と比べると角の長いヤツだ。
その背後には他のヤツより小柄な狼。
「長角」の方は飛びかかってくる事はなく、じりじりと間合いを測っている。
その後ろで「小柄」がタイミングを伺っている様な形だ。
「危機感知」スキルが右側に警鐘を鳴らす。
目線だけ向けると尻尾のが長めの狼が飛びかかってくるところだった。
咄嗟に袈裟斬りで、飛びかかって来た狼野郎を切り伏せる。
そのタイミングを見計らった様に「長角」が距離を詰めて来た。
その長い角で俺の腹部を狙っている様だ。
袈裟斬りの動きの流れのまま体を捻り、回し蹴りを「長角」の側頭部に打ち付ける。
「ギャイッ!!」
と短く苦痛の声を上げた「長角」は、数メートル地面を転がった。
体勢を立て直した所で、「小柄」が他より小さいその体躯を生かしたハイジャンプの後、噛み付きを繰り出してくる。
タイミングを見計らって「小柄」を頭から一刀両断にしようと思ったが、
直前で刃こぼれを懸念し刀を反転させた。
つまり峰打だ。
バキャシャ!!
と異様な音が鳴ったのだが、単純に「小柄」の頭がその特徴的な鎧の様な骸骨諸共、砕け潰れた音だった。
おぼつかない足取りながら体勢を立て直した「長角」が頭を振っていた。
その間に俺は「虎断」を血振りし、一度納刀する。
腰を落とし、
そして攻撃を仕掛けてくるより早く居合斬りで「長角」の首を刎ね飛ばした。
数秒遅れて、俺の後方から「長角」の首が落ちるドサリという音が聞こえた。
「ふぅ…」
一息ついた後にハッとする。
完全に無意識レベルで今の戦闘を行っていた。
実戦経験はコレが初だ。
しかし頭が勝手に判断し、身体が動き、さも歴戦の勇者の様な手際で狼共を一掃したのだ。
スキルレベルオール10の恩恵…って事なのか?
確か東南アジアの国に友人と大学の卒業旅行で行ったが、友人の好奇心に引っ張られ見学に行った古いタイプの屠殺場。
機械などではなく人の手で生きた牛を捌いていたんだが、あんな感じの血みどろな状況が周りに広がっている。
「グロ耐性」がなきゃ引くわ。
あ、そうだ。
ふと思い出しマリシテンの方を見る。
十数メートルほど先でマリシテンは2匹目の「骸鎧狼」を相手にしていた。
その少し奥には「挽き肉」という表現が似合う「狼だった物」が散らばっていた。
俺が見てないとこで何してたんだよあいつ…さすがに「グロ耐性」でもキツイぞありゃ。
俺は「虎断」の刀身に残る血を適当に拭った。
〜〜〜
俺がマリシテンに加勢した後、
マリシテンと俺が1匹ずつ「骸鎧狼」を屠った所で、残りの狼は森に逃げて行った。
マリシテンはそれを追って森に走り出そうとしていたがさすがに止めた。
「何故止めるんですか!!私は魔獣を殲滅しなくてはならないのです!!」
「怪我してるだろうが!」
どのタイミングで付けられていたのかわからないが、彼女の左足には深々と狼の爪撃の跡があり、真っ赤な血がとめどなく流れていた。
「こんなもの怪我のうちに入りません」
「だとしたらどんなものが怪我になるんだよ」
「…頭を無くしたり」
「確実に死んでるじゃねぇか!!」
ツッコミを入れてしまった隙にマリシテンは俺が掴んでいた腕を振りほどき、かなりの高さまで跳躍した。
「あ!!」
空中に鮮血の軌跡を作りながら数メートル先に…マリシテンは落下した。
そして動かない。
「おいおいおい…死んでねぇだろうな、寝覚めが悪いぞ!!」
すぐに駆け寄り、確認した。
息はしている。
若干胸を撫で下ろしつつも、なんでこいつの事を心配しなきゃいけないんだ、と軽く自分にイラっとした。
取り敢えず抱き上げて馬車のところまで戻ってきた。
「アニス!コイツの傷を見てくれないか」
「うぇ?!ウチが??」
「お前しかそうゆう知識ないだろ…」
「わ、わかっとよ…」
まぁ一度殺意を向けられた人間を助けるってのは、正直いい気分じゃ無いだろうけど、
ほっとく事もできん。
俺も意外と善人なのかね…。
アニスは「医学」スキル持ちなだけに手際よくマリシテンの傷を確認し、自分のあのやたら大きな鞄の中からいくつかの薬や包帯などの器具を取り出し、応急処置を施し始めた。
「ったく。助けた人に殺されましたとかごめんだからね」
「これは貸しにしてやるから」
「薬が染みても襲って来るなよ」
など、絶賛気絶中のマリシテンにブツブツ文句を言いながらもやるべき事はちゃんとやっている様だ。
横で万が一マリシテンがアニスに攻撃した時のために俺とレイラは佇む。
「そうだ、レイラ。さっきは軽い感じになったが、アニスを咄嗟に庇ってくれたてありがとう。
今度何か欲しいものをあげるよ。何がいい?」
「え!?あ、え、そんな…あの」
「あ!ズルーイ!!ウチも今仕事してるんですけど!!」
アニスから文句を投げつけられる。
「アニスにも何か買ってやるから、そのためにもちゃんと処置してやれよ」
「了解!!」
現金なヤツだ…。
「私は…特に欲しいものなど…」
「ん?そぉ?
…んじゃ今度なんか美味しいもの買ってきてあげるよ」
「焼き鳥ですか!!!」
目がキラッキラしてるよ…。
「や、焼き鳥かは分からないけど、肉が良いなら買ってくるよ」
「あ、ありがとうございましゅ!!」
可愛いかよ…。
これで肉体年齢、俺より上だぜ…。
「よし、取り敢えず応急処置完了っと」
ちょうどアニスも終わった様で、マリシテンの左足にはキチッと包帯が巻かれていた。
直後マリシテンが上半身だけをむくっとと起こした。
「「「うわぁあ!?」」」
ゾンビ…いやキョンシー的な動きだったわ。
俺もレイラもアニスも同時に驚きの声を上げるわ、そりゃ。
「失礼ですね。人を動く死体か何かだと思ったんですか」
はい。思いました。
ストライク過ぎて更に怖いわ。
マリシテンは立ち上がろうとして体勢を崩した。
慌てて俺とアニスがそれを支える。
「ちょっと!!アンタが思ってるより深い傷なんだから!!
後ちょっとで足首の腱が切れそうになってるんだから!!」
アキレス腱断裂ギリギリって…重傷じゃねぇか。
「人間の成りそこないに指図される謂れは有りません」
「バカじゃ無いの?!魔獣殲滅とか勝手にすれば良いけど、歩けなくなったらどうすんの?!戦うどころか移動もままならないよ!!」
無表情なシスターと猫耳娘の口喧嘩って初めて見たわ。
てか、アニスも何気に心配してるのか?
「素人の応急処置など当てになりません」
「医学も薬学もスキル持ちだわ!!!
医療系のスキル持ちとしては見過ごせないし!」
医者の性的な理由か。
てか、お前医者ってか薬屋だろ。
「・・・人間の成りそこないにそんな高度なスキルが?」
「いっちいち癪に触るなぁ!!!
もぅほら!!ギルドカード!!」
アニスからギルドカードを受け取り、マリシテンはそれをじっくりと見つめた。
「…本当らしいですね。カードも本物ですし」
「当たり前でしょぉが!これ持ってるから入国出来たんだよ!」
「あぁ、なるほど。そういうことですか」
アニス…何気に密入国者扱いを気にしてたのか。
「良い!絶対に3日はあんな戦闘みたいな激しい動きはダメ!
少なくとも明日までは飛んだり跳ねたり走ったりは厳禁だからね!!」
「それだと魔獣を…」
「後の事を考えろよ戦闘狂ぉお!!!」
うぅわぁアニスさんガチギレじゃぁ〜ん…。
殺意を向けてきた相手を治療しないといけないストレスに加えて、
その相手がワガママなせいでかなり頭に血が上ってるな…。
「マリシテン、俺もアンタに関わった以上ほっとく事は出来ない。
ここは俺に免じてアニスの言うことを聞いてくれないか?」
「…「俺に免じて」と言うのは一体自分がどの立場に立っていると認識して発言しているんでしょうか」
うわ。
ムカつく。
ぶん殴りたくなったわ。
「分かりました…言う通り3日は安静にしましょう。
ただ、治った暁にはヤマトさんに手合わせして貰います。
それが条件です」
そぉきたかぁ〜。
「その条件を飲むわ!」
「勝手に決めるな!!」
「ふぎ!?」
もう反射的にアニスの頭部にチョップを放った。
涙目で頭を抑える猫耳娘は可愛いが、罪悪感は無い。
「はぁ…わかったよ…。
ただ「ちゃんと足が治ってから」だ。
それはアニスに判断させるからな」
「…渋々ですが了承します」
はぁ…結局手合わせイベントは回避不可ですか…。
軽く心の中でも実際にもため息を吐きつつ、寝るための準備をだらだら始めた。
アニスとレイラは馬車の中、
俺とマリシテンは外でシートを引いて寝る。
そろそろ夢の中に落ちるかという所で気が付いた。
最低でも3日は安静にし、その後手合わせ。
ってことは少なくともカダルファまでマリシテンは旅の同行者かよ!!??
俺の異世界生活におけるハーレム要因はなぜこう…まともなヒロインが居ないんだよ!!!




