始まりの「終わり」
小学生の頃から特撮が好きで、
その中でもバイクに乗って敵と戦う仮面の戦士がお気に入りだった。
成長しても趣味嗜好は特に変わりないが、
中学生の頃の友達に勧められて見始めた、日常と非日常が交錯する少し頭を使う感じの萌えアニメを見てから、
特撮よりもアニメを見る様になった。
ただ、相変わらずバイクに乗る憧れは消えなかったわけで、20代後半に差し掛かった今でも、友人に改造してもらった「CBR1000RR」に乗り、週末は夜の走りを楽しんでいた。
今日も、
帰宅後に数本の撮り貯めたアニメを見て、食事の後に風呂を終え、馴染みのライダースジャケットに袖を通した。
〜〜〜
バイクを走らせて1時間程。
コンビニに立ち寄り軽く休憩する。
まだ夜の8時くらいだ。
今日は少し遠くまで行ってみるか。
幸い明日は休みなわけだし、多少帰りが遅くなったとしても問題は無い。
家で待つ人も居ない独り身故に出来る、ちょっとした冒険である。
スマホの地図アプリを開き、適当に目的地を選ぶ。
方向だけを把握して後は思うままに道を走るだけだ。
最寄りの峠を越えて少しした場所にある展望台まで行ってみるかな。
〜〜〜
峠を登っている時に小雨が降り出してきた。
こーゆーのが1番危ないんだよなぁ…。
ちょうど崖沿いの道が続くところでもあったため、ほんの少し気を引き締める。
スリップに気をつけつつバイクを走らせ、下りに差し掛かった時、後方から車の音が聞こえてきた。
それもなんと言うか…バカが載っていそうな…と言うか…。
品の感じられない、ただただバカでかいマフラー音に、これでもかとウーハーを効かせて、まるで威嚇するかの様に洋楽が鳴り響く。
道幅は2車線程あるのだが白線は無い。
と、ミラーに後続車が見え…うわぁ。
分かりやすく「DQN」が載っていそう…と言うか。
ウーハーの重低音に混じって、やはり品の無い爆笑が聞こえてくる。
どんなテンションだよ。
あ〜あぁ、
関わり会いたく無い感じですわ。
それに今走っている場所はまだ、右手が崖だ。
後続車のスピードは明らかに違反レベルの物だし…。
事故るなら勝手に事故ってくれ。
そう願いつつ俺はバイクを左にギリギリまで寄せる。
まぁやはりと言うか、後続車はアホみたいなスピードで俺を追い抜いて行った。
通り過ぎる瞬間に「ヒャッハー!」とか聞こえたが、
世紀末なのか…?
モヒカンでは無かったが…。
俺もバイクを中央に戻そうとした瞬間、
200〜300m先の左折カーブでDQN車が事故った。
ハンドルを切るタイミングを間違えたのか、カーブより手前で曲がり、そのまま土砂崩れ対策のコンクリート壁に激突した。
破片やら何やらがいろいろ飛んできた。
だが…それ以前に、俺もなかなかのヘマをやらかした。
俺はハンドルを右に切っていたのだ。
慌てて急ブレーキをかけたがそれもマズかった。
小雨のせいで綺麗にスリップしてくれた俺のバイクは一直線に崖へと向かう。
咄嗟にハンドルから手を離したため、バイクから落ちゴロゴロと体が転がるが…
不運は連続する。
落下防止用にあるガードレールのお陰で、なんとか崖ギリギリで止まった俺は、倒れたままの体勢でガードレールを破壊しつつ崖下に単身ダイブする「CBR1000RR」を見つめる。
あぁ、赤塗りのバイクが綺麗な放物線を…てかガードレール脆くね?
自分の身体を止めてくれたガードレールも、根元に錆が目立っているし、
そもそも俺が激突した衝撃で歪んでいるくらいだから…バイクの激突には耐えられなかったんだろう。
これって市役所とかに言えば良いのかな?
軋み、痛む身体をなんとか動かし、妙に冷静な考えを巡らせながら上体を起こそうとした。
思ったよりも身体が重く感じ、首を動かすのがやっとだ…。
瞬間、
目の前にDQN車のブレーキランプがあった。
それも結構な速度で迫って来る。
あ、これ、ダメだ。
鈍い衝撃と一瞬の激痛。
そして俺の視界はブラックアウトした。