武器の調達
「いやぁもともと街を転々としててさ、
国を渡るために一応ギルドにも登録してるし邪魔にはならないと思うんだよね!」
「本音は?」
「兄さんと旅とか面白そう!!」
「と言いつつ?」
「レイラちゃんが可愛いから!!!」
くっそ単純な理由だな…。
でも、正直なところ願ったり叶ったりだ。
能力で見たところ、アニスの保持スキルが以下の通りになる。
保持スキル
・「薬学」7
・「調合」5
・「医学」4
・「鑑定」4
・「算術」5
・「商売」4
・「聞き耳」6
・「暗視」4
種族スキル
・「危機感知」5
・「空間把握」5
「薬学」と「医学」は違うんだな。
だが、旅には必要になってくるスキルだろう。
特に「薬学」は7と高いスキルレベルだし。
加えて「聞き耳」と「暗視」、それに種族スキルの2つ。
種族スキルって事は「猫人族」ならみんな持ってるスキルなんだろうか?
まぁそれは置いとこう。
一応戦闘系のスキルが無いから魔獣討伐とかはキツイだろうけど…やはり医療班は必要だと思う。
なので、彼女のスキルを見た時から旅に誘うつもりだった。
さすがに無理強いするつもりでは無かったが、かなり単純な理由で旅に着いてきたいと言い出してくれて、実のところ自己課題の1つが解消された。
「旅について来るのは構わない、正直俺も誘おうと思っていたからな」
「お!ホントに!?
いやぁ〜ウチら気が合うねぇ」
反応はちょっとウザいが…まぁいい。
それにしても、旅の仲間ってもっといろんな冒険の末に得られるものじゃないんだな…。
事件事故によって相対し、徐々に絆を深め的スペクタクルストーリーを予想していたんだが。
まぁ妄想と現実は違うって事で納得しておこうかな…。
でも、
「伯爵家の次男」「奴隷」「薬屋」ってどんなパーティーメンバーだよ。
〜〜〜
「次はどこの街に行くとか決めてるの?」
「いや、特には…。なにせ、旅に出たのは最近だし情報集めとかの為にキャメリアには立ち寄ったからな。
正確に言えばまだ準備段階なんだよ」
「あれ、そうだったんだ?」
カーテンの向こうのアニスと会話しつつ、俺は購入していた本を読んでいる。
しきりに会話の随所に「魔法」と出ていたから、やっぱ魔法アリアリの世界なんだろう。
なので、読んでいる本も魔法についての本だ。
現在部屋の真ん中には簡易的なカーテンが引かれている。
カーテンの向こうではアニスがレイラの服を見繕っているのだ。
亜人差別の酷いこの国じゃ亜人対応の服は売っていないんだが…あくまでも公の話だ。
アニスは闇市の知り合いやツテを回り亜人用の服を何着か購入してきてくれたのだ。
ちなみに料金は俺持ちだったのだが、1金貨渡して返ってきたのが37銀貨だったんだが…。
60万も何買ったんだよ。
てか、時折レイラの発した「イカガワシイ声」が聞こえてくるんだが…心が穏やかでは無い。
「よっしゃ!!どうよ!アニスさんのセンスは!!」
カーテンが勢いよくスライドした。
何故かドヤ顔のアニス。
その横のレイラは、これまでの麻袋みたいな奴隷然とした服とも言えない布ではなく、
ちゃんとした服を着ていた。
長い黒髪を後ろでゆるく縛っており、
上着は白い、襟がついたシャツに似た服。
その上から革製の鎧…と言っても遜色なさそうな丈の短いベスト、か?
下はスネくらいまでの真っ黒なロングスカートで、尻尾用にスリットがある。
「まぁ…ドヤ顔ほどじゃない普通なセンスだな」
「ふ、普通ってなによ!!結構良いものなんですけど!」
んんん…なんだろ。
確かに良いものみたいだが…ある意味町娘っぽいと言うか、マンガで見たことあると言うか…。
ま、ザックリ言うと麻袋よりは全然可愛い。
「てか、そのベスト…?って革鎧か?」
「まぁそれくらいに丈夫ではあるよ」
なるほど…。
でもなぁ…レイラにも戦闘スキルはないんだよなぁ…。
まぁ奴隷だからってのもあると思うけど。
保持スキル
・「言語:龍」4
・「暗視」5
・「危機感知」7
・「空間把握」4
・「逃走」2
種族スキル
・「自然治癒」7
・「耐性:闇」5
・「耐性:火」5
・「耐性:土」5
・「耐性:水」5
・「耐性:風」5
・「耐性:物理」5
なんか種族スキルがすごい気がするんだよなぁ…。
「自然治癒」が7。
それに「耐性:物理」。
まぁ鞭で打たれてた割に、部屋に戻った頃には普通な顔してたのは、このスキルのお陰だろう。
「危機感知」7ってのは…まぁ奴隷として売られてた時に嫌でも成長したんだろうし。
気になるのは「言語:龍」だな…。
スキルレベルは4…これがどの程度なのか…。
種族スキルの数ある「耐性」からして、戦いになったとすれば、そのタフさからかなり優位になるとは思うんだが…現状肝心の戦闘スキルが無いので、実質的には壁だ…。
いくら「奴隷」とは言え、壁…盾として扱うのは出来ません。
ええ、良心の呵責ってヤツです。
正直なところ、このスキルを見た感じだと革鎧なんて不要な気もするが…それを言うのは止めておこう。
相手のステータスも分かるなんて600レベルと同等くらいにはマズい気がする。
アニスも「レベルを聞くのは失礼」って言ってたしな。
あ、そう言えば…自分自身の装備を買ってない。
俺の装備ってあの弓矢だけだし!
「ん?どうしたの急に変な顔して」
大事なところでは発揮されないのかよ「ポーカーフェイス」スキル!!
…いや俺が油断し過ぎてただけか。
「あ、いや。
この街を出発する前に武器とか改めて買いに行こうかと」
「あぁ〜、それもそうね。
いくつか良い武器屋を知ってるから案内するよ」
最初の街に来て約2週間。
ようやく初期装備を整えます。
おい。俺を転生させた自称死神さん達よ…。
俺のチュートリアル、長くねぇか?
〜〜〜〜〜
露店大橋は相変わらずいつでも賑わいを見せている。
あと長い。
はぁ…帰りもここを歩くと思うと、既に疲れが…。
「 はい、着いたよ兄さん。
とりあえずこの店ならそれなりに武器は整うね!」
「ビスマルク武具店」
なんか異世界で急にドイツっぽいなぁ…。
結構外目にも大きなお店だな。
さすがにギルドほどじゃ無いのだが、周りの様々な店に比べれば大きい方だ。
ちなみにアニスは闇市であった時の様に赤い布で顔を隠している。
まぁ亜人差別の国だしな…無理も無い。
「らっしゃい…おお、アニスくんか」
「どぉも〜。お客さん連れて来たよ」
店内に入ると、ちょうど入り口から見えるところに陳列された剣のホコリを払っているおじさんが声をかけてきた。
店主かな?
見た目はかなり厳つい上に、スキンヘッドで筋肉質なのだが、
喋っている感じはかなり気さくそうだ。
アニス「くん」って事は、この人もアニスを男の子だと思ってる口なんだろうな。
「ほぉ、お客さんか。ありがたいね!」
「ノルバ・ビスマルク 43歳 Lv21 人間」
ノルバさんか…。
店名は名前からなんだな。
「兄さん、この人は店主のノルバさん。一代でこの店を待ち1番の武器屋にした凄腕だよ。
んで、この人はヤマト・クロードさん。
旅をしてて、最近ギルドに登録したんだよ。
魔獣討伐用の武器が欲しいんだって」
アニスがすらすらと俺と店主のノルバさんに紹介をする。
「なるほど、魔獣討伐か…確かに最近やたら物騒だしなぁ。
兄ちゃん、どんな武器が欲しいんだい?」
「えっと…取り敢えずまずは、片手剣とか見てみようかと」
「なるほどねぇ…」
そう言ってノルバさんは顎に手を当てながら、俺の身体を頭の先から足の先まで観察してきた。
なんか…おじさんにこんな見られる事はなかなか無いので、変な緊張感がある。
「ザッと…170…いや、175cmか。
よし、いくつか見繕ってやるから商品でも見ててくれ」
そう言うとノルバさんは意気揚々と店の奥に入って行った。
目測で身長を確認してたのか…?
すげぇな。何かのスキルだろうか?
「アニスは戦えるのか?」
戦闘スキルが無いのは知っているが、とりあえず聞いてみた。
「いんや戦えないよ。
一応護身用にナイフは持ってるけど、使う前に逃げるし」
ま、そうだよねぇ…。
店内にある武器は割と豊富な種類が揃っているようだった。
それに武器ごとにある程度陳列場所が分けられていて、なかなか見やすい。
入り口から入って近くにあるのは剣の類が中心で、
奥に連れて取り回しにクセのある武器…つまり「鎖鎌」とか「三節棍」とか「ヌンチャク」とか。
ただ、やはりどれも本物なわけで、
おもちゃ屋などで見た事がある「模造刀」とはやっぱ違うのは、雰囲気で感じた。
ただ、アニスが言うには、陳列されているのはいわゆる「安物」何だとか。
確かに武器としてちゃんと使えるのだが、新人の鍜治屋が作った物や、量産されている物がほとんどだとか。
さすがに苦情レベルのナマクラでは無いようだが、
お得意さんやVIP客には、店主自ら、店頭に並ぶものより品質の良い武器を見繕ってくれるのだとか。
あ、やっぱり「剣」と「片手剣」は別だ…。
違いはすぐに分かった。
「剣」は文字どおり「剣」なのだが、
「片手剣」は、左腕に盾が付いたガントレットがセットになっている。
ガントレットの盾は小さな物で、だいたい顔の大きさくらいの面積しか無い。
なるほど。手数が多く攻防一体の武器って感じか…。
意外と扱いが難しい気がしてきたぞ…。
うお!なんだこのデカイ剣!
持ち手から刃先までで俺の目線くらいまであるぞ?
「それは「大剣」だね。
力自慢の人が扱う武器で、ホントハンマーとか戦斧とか見たいな一撃かか〜な〜り重い武器」
アニスが目の前の「大剣」を見つつ俺に説明してくれた。
ほんの出来心でその「大剣」を持ってみる。
…ん?
なんか思った以上に軽くねぇか?
普通に片手で持つ事が出来た。
あぁ〜確か、安物が陳列されてるんだっけ。
「大剣」でこの軽さってのはなぁ。安物認定されるだろうよ。
「ちょ、ちょっと…何してんの…?」
「え?」
「た、大剣をそんな軽々…と」
「え?だってこの大剣軽いんだもん」
「…え?嘘?」
俺は怪訝な顔のままのアニス(と言っても赤い布で目元しか見えないが)に「大剣」の持ち手を渡した。
ズンッ!!!
「ふぎぃ!!!???な!!!なにが…!!軽いっっつ…て!!??」
持ち手を握るアニスは、「大剣」の重さをかろうじて支えているのだが、刃先は既に床についており、持ち手も床から20〜30cm程度浮いているだけだ。
余りのリアクションに、俺は慌てて「大剣」を持ち上げた。
ドサリと尻餅をついたアニスが大きく肩で息をしている。
・・・改めて持ってみたけどやっぱり軽い。
「ろ、600レベルって…バカじゃ無いの!?
はぁ…はぁ…筋力どうなってんのさ!!」
あぁ…レベル差か。
…正直なところ筋力上がってるにしても、見た目は全然変わっていない。
むしろ「アルキウス」の柔い細腕のままだ。
生前の俺の方がまだ筋肉あったわ。
元の場所に「大剣」を戻し、アニスに手を差し伸べ立たせてやる。
他に目ぼしい物だと…お、この「長槍」かっこいいな。
カラーリングが真っ黒なのもいい。
厨二心が躍るね。
店内はある程度のスペースがあるので、「長槍」を適当に振り回してみた。
やっぱ、軽いな…。
穂先は金属製だし、持ち手も丈夫な木なんだが、
学生の時に教室の掃除に使っていた箒見たいな感じだ。
「長槍」の隣にあったのは「ランス」だ。
大きな盾と、主に刺突がメインの大きな槍のセット。
なんとなく「片手剣」の上位互換に思えるけど、
「ランス」は盾も大きく刺突も強力だか、取り回しにくく、
「片手剣」はその分機動力が高いものの、一撃での威力はやや劣る…って感じかな。
俺のアニメ知識がそのまま当てはまるかは分からんが。
「ランス」は槍よりも盾の方が重いんだな。
敵の攻撃を防ぎきった上で、隙をついて攻撃って感じなのか。
他にも「戦斧」「棍棒」「双剣」「双棍」「ハンマー」など、気になったものは取り敢えず手にしてみた。
だって「武器」って憧れるじゃん!心惹かれるじゃん!!
内心かなり楽しくなってきた俺を、アニスが呆れた顔で見始めた頃、ノルバさんに呼ばれた。
見繕ってもらった武器は、隣の部屋にあるので見て欲しいとの事だった。
アニスが待ってましたと言わんばかりにノルバさんに着いて行く。
…ふと思ったけど、今のアニスは「女子の買い物に無理矢理付き合わされている男子」的感覚だったのかも知れない。
あ、そう思うと申し訳なくなってきた。
すまん。




