宿屋の特例
カトリーンさんがわかりやすく「何とも言えない」を体現した顔をしてる。
なんと言うか擬音で言うなら「ポカン」だ。
理由は分かってる。
夕食を食べた後に外出し、2時間ほど経って帰ってきた客が「奴隷」を連れてきたんだからね。
「あぁ…少年…いくら金を持ってるからって…奴隷かい?
しかも…亜人じゃないか」
「いや、これは成り行きで買う事になって…」
「それは…まぁ百歩から五百歩譲って良いとしよう」
なにその歩幅。
「けど…さすがに亜人はなぁ…」
おおっと…偏見とゆうか、亜人差別が酷い系異世界か…。
「あぁ…ここの宿は亜人ダメでしたっけ?」
「いや、まさか亜人奴隷が増えると思ってないから説明してなかったけど、
さすがに亜人はどの宿でもダメじゃないかな?
少なくとも国内にはないと思うよ」
国単位での差別か…。
「まぁ…連れて来ちまったのはしょうがないからねぇ…」
今の時間だと既に食堂としては閉店しているので他の客の目は無い。
ある意味幸いだな。
「んんん…分かった。
今回は特別だ、部屋に連れて行きな。
でも日中は部屋から出しちゃダメだな。
他の客に見られて苦情が来るのはゴメンだからね。
すまないけど、外出は夜中か明け方だと思ってくれ」
「ありがとうございます、カトリーンさん。
今度何かご馳走させて下さい」
「はっはぁ〜、かなり無理してるからねぇ〜なかなか豪華な物をご馳走してもらわなきゃなぁ〜?」
「大丈夫ですよ!」
いやぁカトリーンさんってホント良い人だわ。
〜〜〜
さて…さてさてさて…。
さっきから俺の奴隷となった「黒龍人」の彼女は無言でついてきている。
名前は…さすがに「38」とは呼べないし…。
てか名前って変更利くのか?
「えっと…とりあえず座って」
部屋の椅子を引き出し、俺はベッドに座った。
「…はい」
「違いますよドラゴニュートさん!
その場にじゃないです!椅子にです!」
ちょっとビックリして敬語になったわ。
彼女も若干戸惑っていたが、命令として受け取ったのかゆっくりと椅子に座った。
「あぁ…とりあえず名前は?」
「…38です」
ですよなぇ〜。
「そうじゃなくて、元の名前とか無いの?」
「…38です」
「あぁ…」
この頑固者!…なぁんてなぁ。
完全に刷り込まれてるのか?
「じゃぁ…なんか…俺が名前を付けても良いのかな?」
「…38です」
意外に気に入ってるのか?
いやでもさすがに番号呼びは気が引ける。
いや、奴隷買ってるのも引くけどさ。
「・・・「レイラ」とかどうだろう?」
「…レイ…ラ?」
「確かどっかの国の言葉で「夜」って意味があったと思うんだよね。
鱗とか角とか、髪も真黒だし良いと思うんだけど?」
光の元で改めて見る彼女はホント美人だった。
濡羽色と言うのか、とても艶やかな黒髪から、漆でも塗ったような綺麗な黒い角が2本生えており、
端正でクールな綺麗系の顔立ち。
瞳は真紅であり、なるほど「小悪魔」と言われるのも何となく分かるが…正直、厨二心をくすぐられる。
見えている素肌のうち、肩は鱗に覆われている。
脚は見えている分がほとんど鱗に覆われている。
最初会った時は暗い路地裏だったし足枷に目が行っていたから気付かなかったが。
「…レイラ…ですか」
「うん、君の名前にどうだろ?」
さすがに命令として無理矢理受け入れさせる事はしない。
ふと、ステータス表示を見てみた。
もう「レイラ」になってる!!??
シフト早いな!?
「分かりました」
一瞬早く「分かった」の分かってました…。
ん?
なんか、尻尾の先がピクピクしてる…。
「嬉しいのか…?」
「へ!?あ、いや、あのはい!ありがとう…ございます!」
やっぱり尻尾がピククッ!って動いた。
無意識に出てるのか?
なにそれ、可愛いんだけど。
とりあえず「黒龍人」の奴隷さんに「レイラ」と名付け終えたわけで、夜も深いし…そろそろ寝るか。
あぁ…ベッド1つだし。
ま、ここはレディファーストって事で。
「じゃぁレイラはベッド使って。僕は床で寝るから」
「…はい。…え!?」
「ん?!」
「ご、ご主人様が…床で?!」
レイラはさっきから声は小さいんだけど、なかなか反応が面白い。
まぁ床で主人が寝るのはマズイのかなぁ…でも一緒に寝るのわなぁ…。
「わ、私が…床で寝ます」
あ、そゆことか…。
んんん…さすがになぁ…。
〜〜〜
やっぱコイツ頑固者だ。
頑なに床で寝ると言うので、ちょっと首輪の強制力を試してみようと思ってベッドに寝ることを「命令」してみた。
どうやら「命令」したからと言って、奴隷の意思まで操るわけでは無いらしい。
あくまで「命令に背くと首を絞める」とゆう効果だけらしい。
にしても…首が締まってるのに「ご…主人…様…が、ベッド…にぃ…!!」と、白目になり掛けながら言い出した時はマジでビビった。
「わ、わかったから。俺がベッドで寝るから!」
「はぁ…はぁ…ゲホ…はぁ…はぃ」
なんなのこの子。
面白いんだけど。
取り敢えず布団は渡した。
これも拒否しそうになったが、ベッドかほと拒否はしなかった。
さてと…ここ数日でいろんな事があった気がするけど、さすがにレベルは…上がってないよねぇ。
お?
自分のステータスを改めて見てみたわけだが、
なんと、スキルが増えてるじゃないのよ。
・「交渉」4
・「危機感知」3
・「聞き耳」3
それに「索敵」も4から5になっていた。
ちゃんと成長してるのねぇ…。




