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工場跡の夜

 マーシャルスプリングスに到着したその晩、エミルたちは早速、目星をつけていた車輌開発会社跡に潜入することにした。

「何だか僕たち、探偵なのか泥棒なのか良く分からないことをしてますよね」

「言うようになったわね、サム」

 夜の闇に紛れるよう、黒いポンチョと黒い帽子を身につけた三人は、明るい往来で見れば確かに怪しい一団である。

「ここが元リーランド鉄道車輌?」

「はい。詳しく調べたところ、会社自体は8年前に閉鎖されています。それ以来施設や土地の買い手も無く、ずっと放置されたままのようです」

「街もそんなに賑わってなかった感じだし、良からぬ奴らが隠れ家にするにゃ、ちょうど良さそうだな。

 壁にもでけえ穴開いてるし」

 出入口自体は鎖が巻かれ、厳重に施錠されているものの、敷地を囲む煉瓦の壁にはアデルが指摘した通り、いくつか崩れている箇所がある。

「そろそろ口を閉じた方がいいわよ。壁の向こうでたむろしてるかも知れないし」

「おう」

 三人は辺りを警戒しつつ、壁の穴から中に忍び込んだ。

(人影は見当たらないな)

(ええ)

 敷地内に侵入し、壁伝いに注意深く進んでいくが、人はおろか、野良犬や鼠にすら出くわさない。

「……何にも無いわね」

「はずれ、……でしょうか」

「うーん」

 そのまま壁沿いに半周したところで、一行は線路に出くわした。

「……いや、やっぱり怪しいな」

「え?」

「見てみろよ、線路が研いてある。誰もいないし使ってないってんなら、研いてあるわけが無い。

 だが実際、月がぼんやり映る程度にピカピカになってる。ってことは……」

「人がいるし使ってる、ってわけね」

「ああ、そうだ」

 アデルがそう返した瞬間――彼自身も含めて、三人全員が顔を真っ青にした。

 何故ならその台詞が、二重に聞こえたからである。


「う……」

 アデルが恐る恐る振り返ると、そこには先端が拳大ほどもあるモンキーレンチを手にした、20半ばくらいで黒髪の、あごひげの男が立っていた。

「あ、ちょい待ち。何もこいつでボカッと殴りかかろうってつもりじゃねーよ。整備してただけだからな。そう怖い顔しないでくれよ」

「何の整備?」

 ポンチョの内側でこっそり拳銃を握りしめつつ、エミルが尋ねる。

「そりゃ機関車だよ。車輌工場で船の整備する奴はいねーだろ?」

 男はニヤッと笑いながら、モンキーレンチで背後を指し示す。

「あれだ。HKP6900型をベースに改造を施した、俺の特製マシン。聞きたいか、そのすっげーとこをよ?」

「へぇ?」

 エミルは一瞬、アデルに目配せする。

(HKP6900型って……)

 アデルも目で、エミルの質問に答える。

(ああ。S&R鉄道から盗まれたのと同型の車輌だ)

「どこが特製なのかしら?」

 尋ねたエミルに、男は嬉しそうな笑みを浮かべる。

「おお、聞きたいか、そうかそうか。ならば聞かせてやろう。

 まず第一に燃料だ。普通は薪なんだが、俺に言わせりゃ火力に難がある。だもんでペンシルベニアから石炭を仕入れて、そいつで走らせてる。それとシリンダーやらボイラーやら、動力系の部品や機構を各3インチほど大きい物に換えてボアアップし、さらに顔が映るくらいに細かく細かく研磨して、バランスを絶妙に噛み合わせている。さらにブレーキも最新型のエアブレーキに換装した上に俺がバッチリな改良を加えたから、ごうごう全速力の状態からびたあーっと完全に止まるまで、20秒もかからない。極めつけは車輪とフレームに鋼と同張力・同剛性の合金をたっぷり使用して、なんと400ポンドもの軽量化に成功。元のHKP6900の1割増し、いや1割半、いやいや、2割強くらいは速えーぞぉ」

「ご高説、どうも」

 エミルは半ば呆れつつ、男に尋ねた。

「何度か運転してるのかしら?」

「そりゃこんなスーパーマシン、走らせてやらなきゃ意味無いだろ」

「最後に走ったのは?」

「確か、10日くらい前だ。勿論、他の列車と進行がかぶっちゃまずいから、朝方にぐるーっとな」

「S&R鉄道の線路を?」

「……あんたら、さっきからなんでそんなことを聞くんだ?」

 男の顔に、けげんな様子が浮かぶ。

「ちょうど探してたからだよ。S&R鉄道の路線を好き勝手に走り回る、HKP6900の同型機をな」

 男が嬉々として喋り倒していた間に、密かに背後に回りこんでいたアデルが、小銃を男の背に当てた。

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