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ウエスタン・ドレスコード

 一行は鉄道を使わず、リッチバーグで馬を借りてマーシャルスプリングスへと移動することにした。

「列車は止まるって話だが、もしマジで犯人がいたら、俺たちの動きに気付かれるかも知れないからな」

「ええ。鉄道から離れて向かう方が無難ね」

 西部暮らしの長いエミルと器用なアデルは平然と馬上におり、何の苦もなく馬を操っている。

 しかし今回の事件で初めて西部に足を踏み入れたサムに乗馬経験があるわけも無く、真っ青な顔で馬にしがみついている。

「す、すいません、アデルさん」

「いいって」

 当然、手綱を操ることもできず、サムの乗る馬はアデルに曳かれていた。

「しかし……、お前さんの格好、西部を歩くにゃキメすぎだな」

 マンハッタン島やワシントンであれば――童顔のサム自身にはいささか不釣り合いとは言え――いかにもホワイトカラー、高級な職種の人間に見える上下紺色のスーツ姿も、そこら中にタンブルウィードが転がり、赤茶けた土や砂がどこまでも広がるこの荒野においては、あからさまに浮いて見える。

「そうね。ここだと勘違いした旅芸人一座のマネージャー、って感じ」

「ドレスコードを考えるべきでした」

「ぶっ……、ねーよ、そんなもん」

 サムのとぼけた言葉に、エミルとアデルは笑い出す。

「あはは……、いいわね、ドレスコード。

 ウエスタンシャツをインナーにして、トップスには牛革製のジャケット。アウターにはダスターコートを羽織り、ボトムスはジーンズ。後はブーツを履いて、カウボーイハットを被る。仕上げにバンダナを首に巻けば、完璧ね」

「大事なもん忘れてるぜ」

 アデルは腰に提げた小銃の台尻を、とんとんと叩く。

「これが無きゃあ、西部のドレスコードとは言えないな」

「ふふ、確かに」

 エミルもポン、と拳銃を叩いて返す。

「……ごめんなさい。全部無いです」

 一方で、サムはしがみついた姿勢のまま、申し訳無さそうにつぶやいた。

「マジで? いや、服装は仕方ないが、拳銃も無いのか?」

「怖くて……」

「仕方無いわね」

 エミルは馬をサムの横に寄せ、予備のデリンジャー拳銃を差し出した。

「えっ?」

「何があるか分かんないでしょ? 持っておいた方がいいわよ」

「は、はい」

 馬にしがみつきながらも、どうにかサムは手を伸ばし、エミルから拳銃を受け取った。


 昼過ぎに出発した一行は、どうにか夕暮れまでにはマーシャルスプリングスに到着した。

「ああ……、怖かった」

「ま、帰りはお前さんだけ列車に乗りな。俺たちは馬を返さなきゃならんし」

「お手数おかけします」

 程なく、三人はサルーンを見付けて馬を降り、中に入る。

「いらっしゃいませ」

 出迎えたバーテンに、アデルが尋ねる。

「泊まりたいんだけど、部屋はあるか? 3人なんだけど」

「ご一緒に?」

「あー、と」

 アデルはくる、と後ろを向き、エミルとサムに顔を向ける。

「いいわよ」「あ、はい」

「じゃあ一部屋で。うまやはどこかな」

「店の裏手です」

「つながせてもらうぜ」

「ええ、どうぞ。ご案内します」

 バーテンがカウンターを出て、アデルを案内している間に、サムが不安そうな目を向ける。

「良かったんですか?」

「ここ小さめだし、他に客もいるみたいだから、1人1部屋ずつって余裕は無さそう。他を探すとしても、もうこんな時間だし。あんまりうろうろ出歩いて目立ちたくないもの。

 ま、今夜くらいは我慢するわ。……って言っても、そんなに寝てる暇は無いでしょうけどね。あんたが言ってたところに行かなきゃいけないもの」

「あ、そうですね。……でも僕、結構ヘトヘトで」

「寝てていいわよ。時間になったら起こすから」

「ありがとうございます」

 と、いつの間にか戻ってきていたアデルが口を尖らせている。

「なんだよ、エミル。随分サムに優しいな」

「あんたより紳士だもの」

「じゃ俺も紳士になろうか? お嬢さん、今宵はわたくしと語らいませんか?」

「語らない。あたしもできるだけ休みたいし。あんたも疲れてるでしょ?」

「……ごもっとも。そんじゃさっさと寝るとするか」

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