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捜査続行

 その日の晩、三人はサルーンの1階に集まって夕食を取っていた。

「あのー」

 と、サムが恐る恐る尋ねてくる。

「どうした?」

「本当にもう、調査は……」

「ああ」

 アデルは一瞬周りを見回し、サムに目配せした。

「えっ?」

 しかし、要領の悪いサムはきょとんとしている。

 見かねたエミルが、サムの椅子を蹴っ飛ばす。サムは椅子ごと、床へ横倒しになった。

「おわっ!?」

「ごめんなさいね、引っ掛けちゃったわ」

「あいてて……、ひ、ひどいですよ」

 立ち上がろうとしたサムを、アデルが助け起こし――ているように見せかけ、彼の耳元で囁く。

(勿論、これで終わりなんてことは無いぜ)

「えっ?」

(バカ、声がでかい)

「……あ、すみません」

「ったく、大丈夫かよ、お前さん」

 サムが椅子に座り直したところで、アデルは口元をフォークで指し示した。

(詳しいことは部屋で話す。後でお前の部屋に集まろう)

「……」

 口の動きだけで示したアデルに、サムはぎこちなくうなずいて返した。


 夜遅く、三人はサムの泊まる部屋に集まった。

「明日早く、S&R鉄道の車輌基地に忍び込むぞ」

「え? ど、どうしてですか?」

「ちょっと気になってな。お前さんも、あの社長がバカそうだってことは感じただろ?」

「え、ええ、まあ、そう言う言い方は、えっと、……まあ、でも、はい」

「あの社長の態度からすると、S&R鉄道の管理体制はかなり甘そうだ。

『らしい』だの『めんどくさい』だのこぼしてたし、あのバカ社長は恐らく、人員や車輌とかの細かい管理については全部、人任せにしてるんだろう。

 となりゃ、実際に管理してる奴なり外部の奴なりが、何かしらピンハネできるんじゃないか? 俺はそう考えた」

「『何かしら』? それってつまり……」

 尋ねたエミルに、アデルは深々とうなずいた。

「ああ。考えてみりゃ、そこいらの泥棒が列車を1輌まるまる手に入れられるなんてこと、そうそう有るわけが無い。あそこみたいに、よっぽど管理の緩い鉄道会社から盗んだのでもなけりゃな」

「そもそも、あの社長の態度も怪しいわよね。さっさと帰って欲しそうにしてたし。いかにも『秘密を抱えてます』って感じ」

「確かにな。もしかしたら、もしかするかも知れんぜ。

 で、その裏付けのために明日、車輌基地を調べる。……と言うわけでだ、今日はもう寝ちまおう」

「わっ、分かりました!」

 ようやく「らしい」仕事ができると分かり、サムは嬉しそうに敬礼する。

「おいおい、大げさだなぁ」

 アデルも笑いながら、敬礼を返した。




 日付が変わり、未明頃。

 エミルたち三人は密かに、S&R鉄道の車輌基地前に集まっていた。

「見張りは?」

「いないわ」

 最も身軽なエミルが基地の外壁に登り、双眼鏡で安全を確認する。

「本当、管理がなってないわね。守衛所みたいなのがあるけど、中で2人、ぐっすり寝てるわ。酒瓶抱えて」

「とんでもない会社だなぁ。マジで潰れるぜ」

 エミルが先んじて中に入り、内側から門を開ける。アデルとサムはそのまま、門から侵入した。

「他に見回ってるらしい人影も無し。調べ放題ね」

「よし、じゃあちゃっちゃと回っちまおう」

 三人はまず、倉庫へと向かう。

「ん……、と」

「それらしいのがあったぜ」

 入って間もなく、アデルが箱を棚から下ろす。

「『18XX下半期 車輌管理リスト』。……はは、こりゃひでえ」

 アデルが中の書類を確認し、顔をひきつらせる。

「どうしたの?」

「大当たりだ。3年前の9月、ユニオン・パシフィック鉄道から蒸気機関車8輌を購入してる。

 だが月末に、『7輌の間違い』って訂正されてる。しかし9月の半ばまでには、8輌分の運行記録が付けられている。

 いくらなんでも、こんなもんでごまかせないっつの」

杜撰ずさんもいいところね。社長は気付かなかったのかしらね?」

「あの調子じゃ、気付いちゃいないだろうな。それともグルだったか」

 その他の資料を確かめれば確かめるほど、この会社がいかに放漫な管理体制であるかが判明していった。

「この3年間でちょくちょく、機関車の予備パーツやら保安部品やらの数が合わないことが起こっているらしい。

 明らかに盗まれてるが、……ま、社長にバレたらまずいってことなんだろ、無理矢理帳尻合わせてごまかしてるな」

「ここまで来ると、恐らく社長は無関係ね。もし一枚噛んでるなら、ここの管理記録に残る前にガメるでしょうし」

「だろうな。そしてここの奴らも無関係だろう。……関係するまでも無いからな。外から堂々盗めちまうし」

 流石のサムも、「これはひどいですね、本当に」とつぶやいていた。

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