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三重のがっかり

 今回の仕事に取り掛かった時点で、エミルはまず、3度落胆した。

 まず1つ目は、同行する捜査官が、お世辞にも優秀とは言いがたい青年だったからである。

「はじめまして、クインシー捜査官。俺はパディントン探偵局のアデルバート・ネイサン。こっちはエミル・ミヌーだ」

「よろしく」

 駅ではじめて顔を合わせた際、相手の捜査官はコチコチとした動作で、手を恐る恐る差し出してきた。

「よ、よろしくお願いします。ぼ、僕は、えっと、サミュエル・クインシーと、はい、申します、……ど、どうも」

 吃音癖があるのか、もしくは極度の上がり症らしく、サム捜査官はこの短い挨拶でさえ、噛み気味に述べていた。

 アデルは相手の差し出した手を握りつつ、やんわりと尋ねてみる。

「まあ、そんなに緊張なさらず。……失礼ですが、お仕事は何年ほど?」

「実は、あの、これが、はじめてで……、すみません」

「あら、そうなの?」

 相手の頼りない返答に、エミルとアデルは目配せする。

(特務局って、何考えてんのかしらね? 重要な仕事って言ってたクセして、寄越すのはこんな若造?)

(連中も匙投げてんだろうな。『もうどうでもいいや』って感じが見え見えだぜ)

「あ、あのー……?」

 その様子を伺っていたサムが、心配そうに二人を眺めてくる。

「ああ、いえ、何でも。

 まあ、これから一緒に仕事するんですし、まずは肚を割って話しましょう。……敬語とかも無くて構いませんから」

「は、はい」


 まずは打ち解けるため、三人は近くのサルーンに入った。

「コーヒーでいいかしら?」

「え、あ、はい」

 依然おどおどとしているサムに、アデルがあれこれと尋ねる。

「で、サム。歳はいくつだ?」

「に、22です」

「へぇ、そうは見えないな。てっきり高校を出たてのハイティーンかと思ってたが」

「よく言われます」

「特務局に入ったきっかけは?」

「大学でスカウトされまして」

「大学? 何を専攻してたんだ?」

「えっと、あの、犯罪心理学って言って、何と言うか、その」

「いや、内容とかは別にいい。まあ、この業界向けのことをやってたってワケだ。

 しかし大学で勉強してたってのと、あんたの性格からすれば、どっちかって言うと内勤向けだと思うんだがなぁ……? どうして俺たちと組むことに?」

「本当はそのはずだったんですけど、部長が『一度くらい現場を見た方がいい』って、それで、だから、ここに……」

「なるほどな。ま、そう言う事情なら、今回の事件はそこそこ安心して当たれると思うぜ。上も半分諦めてるような捜査だ。そこいらをうろついて、手がかりがありゃ報告して、無けりゃそれでおしまいだ。

 そう考えりゃ、ちょっとした旅行みたいなもんだ。あんまり気負わなくていいぜ」

「は、はあ」

 その後も1時間近くアデルはあれこれと話しかけていたが、サムの態度には結局、あまり開放的な変化は見られなかった。


 いつまでもサムに構っていられないため、三人は本来の目的である、スターリング&レイノルズ鉄道本社へと向かった。

 しかしそこで受けた対応もまた、エミルをがっかりさせるものだった。

「あぁん? パットン鑑定団と、連邦国富調査局?」

「パディントン探偵局と連邦特務捜査局です」

「知らねえなぁ。めんどくさそうだから、他当たってくれや」

 社長と面会したところ、かなりぞんざいにあしらわれたからである。

「いえ、ですから御社の鉄道網においてですね……」

「知らねえなぁ」

「被害が出ていると……」

「うちにゃなーんにも盗まれたもんなんかねえ。他人が泥棒に遭ったとか言われても、関係ねえ」

「いや、しかし御社の鉄道網が不正に使用されて……」

「知らねえなぁ。うちんとこの通常運行にゃ、問題ねえらしいからなぁ。

 なあ、あんたら。もう話すんのめんどくさいから、帰ってくれや」

 取り付く島もなく、三人は憮然とした顔で応接室を後にした。




「何あれ? ふざけ過ぎでしょ」

「自分さえよけりゃ、って感じだな。反吐が出そうだったぜ」

 先程のサルーンに戻り、エミルとアデルは憤慨する。

「態度からして、金だけ出してるみたいね」

「ああ。『寝てりゃ金が入ってくる』みたいな雰囲気だったな」

「どうしようもないわね。そのうち潰れるわ、あんな会社」

「同感。勝手に潰れりゃいいんだ」

 と、サムが恐る恐る手を挙げる。

「これから、どうするんですか?」

「……どうしようも無いさ。社長があんな様子じゃ、現場の保全なんかもやっちゃいないだろう。手がかりはまず、残っちゃいないさ」

「つまりおしまいってことよ。もう帰るだけね」

「えっ、……えぇー……」

 エミルが落胆した3つ目の理由は、今回の仕事があまりにも、馬鹿馬鹿しく感じられたためである。

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