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半役人

「前回の事件のおかげで、連邦特務捜査局とパイプができたんだ」

 パディントン局長はニコニコ笑いながら、アデルとエミルに話し始めた。

「ま、向こうにしてみたら、弱みを握られたと思っているかも知れないがね。

 それはともかく、彼らから合同捜査を打診されたんだ。建前上は今後の業務提携を目して良好な関係を築き……、とか何とか言う話だったが、ま、実際のところは業を煮やした末の、苦肉の策と言うところだろうね」

「どう言うこと?」

 尋ねたエミルに、パディントン局長は肩をすくめて返す。

「3年ほど前から、西部の鉄道網を悪用している輩がいるらしい。

 街で盗みを働き、その盗品を列車に載せて、そのままとんずら。それを何度も繰り返しているそうだ。

 当然これは、窃盗と言う犯罪のみならず、正規の列車運行に悪影響を及ぼす、大変迷惑な行為でもある。ゆえに合衆国政府も、彼らの存在を極めて悪質なものとして憂慮しており、その直下にある連邦特務捜査局にとっても第一に検挙すべき相手だ。

 ところが、だ」

 パディントン局長はデスクに地図を広げ、各鉄道会社の路線図を示す。

「現在、西部には1万マイルを超える距離の鉄道網が敷かれている。これをつぶさに監視することは、捜査局の人員と権力では不可能だ。

 そのために、『優先的に処理すべき案件』と決定されながらも、最初の事件発生から現在に至るまで、捜査に本腰を入れることは不可能だったわけだ。

 で、今回の件についてだが。依然として、捜査局は我が探偵局の存在を疎ましく思っていることは間違い無いだろう。その上、捜査官の汚職と言うスキャンダルを握られてすり寄られては、うっとうしくて仕方が無いはずだ。

 しかし対応を誤れば、捜査局の醜聞を公表される危険がある。そう考えた彼らは、この事件を我々に回してきたんだろう」

「なるほど。うまく行かなければ逆に我々を非難して縁を切れる、うまく行けば自分たちの手柄にできるし、『どうだ、自分たちはあんた方のお役に立つだろう?』と示すことで、手を切らせないようにおもねることができる、ってわけですね。

 やれやれ、つくづくお役人ってのは!」

「厳密には『半』役人と言ったところだろうが、確かに同感だ。

 一応、向こうからも人員を出してくれるそうだが、……人数を聞いて愕然としたよ」

「何名だったの?」

 エミルの問いに、パディントン局長は手を開いて見せた。

「50名? 鉄道を見張るにしちゃ、少なすぎない?」

「5名だ」

「……冗談よね?」

「私は冗談が大好きだが、これは冗談じゃあないんだ。

 彼らが長年、合衆国から認可されない理由が分かった気がしたよ。この広大な合衆国を網羅しつつある鉄道網を見張る人員を、たったの5名しか用意できないとは!

 私のつかんでいる情報によれば、彼らの規模は最低でも300名程度のはずなんだ。その中から、たったの5名! 『第一に処理すべき案件』に対する捜査人員がこの程度じゃあ、彼らの捜査能力が疑われても仕方が無い。

 いや、実際に私も今回ばかりは、唖然としてしまったよ」

「バカな質問で恐縮ですが、残りの295名は何を?」

 尋ねたアデルに、パディントン局長はかぶりを振る。

「州警察とほとんど変わらん。事件が起こったと聞けばそこへ行き、近隣を捜索して犯人を探す。違いは捜査範囲が州をまたぐと言う程度だ。

 はっきり言ってしまえば、我々とほぼ変わらん。いや、我々の方が自由が利く分、まだましな働きをしているよ」

「……で、さっきから嫌な予感がしてるんだけど」

「その予感はきっと当たりだよ、エミル」

 顔を見合わせたエミルとアデルに、パディントン局長がニコニコと笑いながら、鷹揚にうなずいて見せる。

「うむ。君たちには捜査局の人間と共に、まずはスターリング&レイノルズ鉄道の本社に行ってもらう」

「本社ってどこ?」

「西部C州のリッチバーグにある。つい先日にもその街が襲われたばかりだから、まだ何らかの手がかりも残っているだろう」

「だといいけどね」

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