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狙撃

 風にかき消されながらも、パン、パンと言う破裂音が、線路上で轟く。

「うひょおっ!?」

 下で作業していたロドニーが、悲鳴じみた声を上げる。

「大丈夫か!?」

「お、おう! 気にせず撃ってくれ!」

「分かった! ……っと!」

 相手からも銃撃が始まり、アデルのすぐ右、炭水車の端から火花が散る。

「気を付けろよ、エミル!」

「了解!」

 6900改も相手も、相当のスピードで線路を駆けているはずだが、双方から放たれる銃弾は、互いの車輌に着弾しているらしい。

 エミルたちの周りでしきりに火花が散る一方、敵機関車の方でも、あちこちで光が瞬いているのが確認できる。

「当たってるっちゃ当たってるが……、いまいち狙い通りのところには当たってないな」

「これだけ風であおられてちゃ、ね。でもいいとこ行ってるみたいよ、どっちも」

 そう返すエミルのすぐ側で、石炭が爆ぜる。

「弾、あと何発ある?」

「40発ってところかしら? あんたは?」

「30発、……も無さそうだ」

「あんまり無駄撃ちできそうにないわね。運良く停められたとしても、逃げられる可能性もあるし」

「かと言って応戦しなきゃ、リーランド氏がヤバい。石炭積み込む時間も考えると……」

 と、そのロドニーの声がする。

「こっちはオーケーだ! 後は軽く小突きさえすりゃ外れる! 石炭を載せてってくれ!」

「分かった!」

 アデルはライフルを下ろし、弾と一緒にエミルへ渡す。

「手伝ってくる。悪いが、頼む!」

「オーケー」

「すぐ戻る!」

 そう言うなり、アデルは炭水車と客車の間に降りていった。


 一人になったエミルは、被っていた帽子をぱさ、と石炭の上に置いた。

「……すー……」

 自分の拳銃をしまい、アデルのライフルを取り、エミルは深呼吸する。

「(久々に、……本気出してみましょうか、ね)」

 エミルは英語ではない言葉をつぶやきつつ、立ち上がってライフルを構えた。

「Pousse!」

 パン、と音を立てて、ライフル弾が1発、放たれる。

 その銃弾は若干、風にあおられながらも、後方の敵機関車の側面――幅わずか3~4インチのエアブレーキ管を、ものの見事に貫通した。


 敵機関車の側面からバシュッ、と空気が抜ける音が響き、相手の騒ぐ声が聞こえる。

「……やべ……爆発……!?」

「……落ち着け……大したこと……!」

 その一瞬、相手全員の意識が6900改ではなく、自車の破損箇所に向けられる。

 その一瞬を突き――。

「せ、え……」「の……っ!」

 連結器を外し、石炭を載せ終えた客車を、アデルとロドニーが蹴っ飛ばした。

「よっしゃ、上に上がるぞ!」

「おう!」

 アデルたちが炭水車をよじ登る間に、客車は敵機関車へと、相対的に迫っていく。

「……止まれ……ブレーキ……!」

「……駄目だ……動か……!」

 エミルによってブレーキを破壊された敵機関車は時速1マイルも減速できずに、そのまま客車に衝突した。

「うわああああーっ!」

 悲鳴が一斉に、荒野に響き渡り――敵機関車は斜め上へと飛び上がり、そのまま線路の左前方へと落ちて、ぐしゃぐしゃと言う鈍い金属音を立てながら、ごろごろと地面を転がっていった。

「やった……!」

 炭水車の側面に張り付いたまま、アデルが歓喜の叫びを上げる。

「……っと、こうしちゃいられねえ! こっちも停車しねーとな」

 ロドニーが炭水車から機関部へ移る間に、エミルがアデルに手を貸し、引き上げる。

「上手く行ったみたいね」

「ああ。……いててて、安心したら痛くなってきたぜ」

 アデルがうずくまり、再度スラックスの裾を上げる。動き回っていたためか、白かった布は半分以上、赤く染まっていた。

「巻き直した方がいいわね。思ってたより、傷が深そうだし」

「だな」

 炭水車の上でエミルがアデルの手当てをしている間に、6900改は停車した。

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