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第二章 その四 真実三

   その四 真実三


 戻ってきたガイルに連れられて、雷斗とこのははホークナイト家へとやってきた。着いてすぐ、雷斗もこのはもいろいろとあって疲れていたのか、すぐに眠気におそわれてしまった。ガイルはすぐに二人を客人用の寝室に通した。今日はもう遅い、うちのものへの挨拶は明日にしようと言って、ガイルは二人を案内したあと自らも自室に戻っていった。雷斗たちはお言葉に甘えて、それぞれ案内された部屋に入った。雷斗は今日起こった出来事をいろいろと思い出しながら、しっかりとした大きいベッドに寝転ぶといつの間にか深い眠りの底に落ちていた。特に何かきっかけがあったわけでもなく雷斗は目を覚ました。目を覚ましたとき、昨日のことを思い出し、そのことが夢であればよかったのにと思いつつ、これからどうしようかと雷斗は考えていた。そのとき、雷斗の使っている寝室の扉がノックされた。雷斗がどうぞと言うと扉が開き、燕尾服の老紳士が一人入ってきた。


「失礼します、ライト様。おはようございます。お着替えをお持ちしました。お着替えが終わりましたら、私めにお声かけください。朝食のお部屋までご案内いたします。申し遅れました、私はホークナイト家に仕えさせていただいている執事のジークと言うものです。気軽に爺とでもお呼びください」


 そう言ってジークと名乗る老紳士は服を置き、部屋から出て行った。扉が閉まると同時にあっけに取られていた雷斗の意識が戻ってきた。とりあえず、用意してもらった服に着替え、着ていた服はどうすればいいかをジークに尋ねるとそのままでいいと言われた。とりあえず脱いだ服は畳んでベッドの上に置いたあと、部屋の前に待っていたジークに声をかけ、ジークの案内で大きな部屋、ダイニングルームまでやってきた。中からはおいしそうな食事の香りが漏れ出てきていた。

 ジークは扉を開け、雷斗を席に案内し、その後ダイニングルームを出て行った。案内された席のとなりには既に、用意された服を着たのか昨日とは違う服装のこのはが座っていた。上座にはガイルも座っていた。向かい側には初老の男性と女性が座っていて、こちらを見てうれしそうにしている。一目見たときから分かっていたが、雷斗の実の父と母である。一度体験してしまうと少しは慣れるが、この現象というものは手っ取り早いが少々厄介なものでもある。初めて会ったはずなのに何年もともに暮らしてきたかのよう感じて、何とも言いようのない懐かしさと恥ずかしさを感じる。雷斗は何とも居心地が悪かった。このははこのはで、初めて会う人ばかりだからか、それはそれで居心地が悪そうだった。雷斗が席につくと、ガイルが話し始めた。


「さあ、全員そろったところで朝食の前に話があります。父上、母上、もう気が付いているとは思いますが、目の前にいる少年は我が双子の兄であり、あなたたちのもう一人の息子ライトニング・ホークナイトです。今は迷い込んだ世界にて、育てていただいた方々につけていただいた立花雷斗という名前です。その隣の少女は、兄の育った家でともに生活していた妹の立花このはです。この二人は昨日この世界に来たばかりで、いろいろ大変だと思うがしばらくはここに住んでもらうことになりました」


 そう紹介されて、雷斗とこのははアイコンタクトを取ったあと、よろしくお願いしますと頭を下げた。その様子を見届けてすぐ、ガイルは続けた。


「そして、ライト、このは、あなたたちの向かい側に座っているのは我が父上と母上だ。分かっているとは思うが、ライト、お前にとっては血のつながっている両親である。お互いに話したいことがあるかもしれない。朝食がてらゆっくり話すといい」


 すると、ガイルに紹介された父上と母上は二人に声をかけた。


「会えてうれしいよ、ライト。生きているうちに会うことが出来てよかった。この老いぼれにはうれしいことだよ」

「あなた、うれしいのは分かりますがこんなうれしいときに泣かないでくださいよ。このはさん、ライトの妹と言うのなら私たちの娘と思ってもよろしいですか? 私、娘が欲しかったもので……」


 かたや泣いている父上とかたや喜んでいる母上の姿を見て、言葉に困っていた雷斗とは対照的に、このはは笑顔で言葉を返した。


「そう思っていただけるとうれしいです。それと何か出来ることがあればさせていただきます。ただお世話になるだけでは申し訳ないので。改めてこれからよろしくお願いします、お父様、お母様」


 そういってこのはは丁寧にお辞儀した。雷斗はその光景を何気なく見ていたが、何か違和感を覚えた。よくよく考えると、このははこちらの世界の言葉を理解できていなかったはずだ。だが、会話は成立している。気になった雷斗は食事をとり始めたこのはにこそこそと聞いた。


「……なんで言葉がわかるんだ? 昨日寝ずに勉強でもしたのか?」


 それを聞くと、首に下げた彩り豊かな石のはめ込まれたペンダントをこのはは手に取って見せた。


「……朝起きたらメイドさんに無理矢理付けられたんだけど、これを付けてるとこっちの世界の人と普通に会話できるようになるんだって。何でもこれに付いてる石が特別な鉱石のうちの一つなんだってさ。昨日王女様が付けてたペンダントの石みたいなものらしいよ。疑問は解けた? ほら、冷めないうちに早く食べたら?」


 そういうとこのははまた食事を再開した。理解は出来たので雷斗は渋々食事をし始めた。この一連の状況をうれしそうに眺めながら、ガイルは優雅に食事をとっていた。昨日の突然の変化が嘘のように、穏やかに朝食の時間が流れていった。


 その日は一日この屋敷の案内を受けて終わった。雷斗たち二人を案内したのは、メイとセリアという二人のメイドだ。そのうちメイの方はは朝食前にこのはを起こしにやってきたメイドだったようだ。案内されているうちの前半は明らかにこのははメイと会話が多かった。昔からこのはは、少し人見知りなところはあるが、気に入った相手にはそんなに時間もかからず仲良くなる。全く本当に人見知りなのかどうかよくわからない。しかし、この日の屋敷案内が終わる頃にはセリアとの方も仲良くなっていた。おそらく、どちらもこのはと気があったのだろう。割とこのはの気に入るタイプの範囲が狭かった気がするが、この二人はその狭い範囲にちょうどはまったみたいだ。

 案内されているとき、この屋敷だけでなくその他のことも雷斗はいろいろ聞いてみた。この大きな屋敷の割に雇っている使用人は意外にも、メイド二人と執事一人の三人だけのようだ。父上と母上のよく行く別荘には、そちらにはそちらで別に使用人を雇っているようだが、こちらとそう変わらないみたいだ。そもそも、こんなに大きい屋敷ではあるものの、暮らしているのはガイルと使用人の3人だけで、父上と母上はたまに帰ってくる程度だそうだ。それ以外にも話をしたが、ほとんどメイド二人と会話していたのはこのはだった。

 あまり疲れてはいなかったが、翌日も案内に連れて行ってくれるようなので早く休むことにした。翌日はこの屋敷の案内しきれていない部分を少しと、少し行ったところにある商業区の方を案内してくれるようだ。案内を受けている間は難しいことを考えないようにしようと雷斗は思った。とりあえず、こちらのことがある程度分かってから、いろいろと考えることにしようと。そんなことを思っているうちに雷斗は眠りに落ちていた。


 雷斗たちがこの世界に来てから三日目。この日は商業区の方を案内してくれるとのだった。前日とは違ってメイドのメイが服を持ってきてくれた。それと食事部屋までの案内は必要かどうかを聞かれた。何でもこの屋敷の決まりで、使用人に任せる仕事は最低限度の家事と客人の世話だそうだ。その客人粗世話もある程度は客人の自主性に任せるようだ。雷斗は食事部屋までの案内を断った。どこにあるかはもう覚えていたからだ。朝食のあと大急ぎで屋敷の残りの部分の案内をされ、その後商業区へ行く準備のため、雷斗とこのはは少しの間屋敷の表門の前で待っていた。そのわずかな間にどこから嗅ぎ付けたのか、エリーがやってきた。このはと改めて自己紹介し合ったあと、これからの予定をうっかり話してしまい、エリーはノリノリで付いてくると言い始めてしまった。戻ってきたメイとセリアは、エリーの姿を見てあきれつつも大急ぎでエリーを連れて屋敷の中に戻っていった。しばらくして戻ってきたのはメイド服姿が三人だった。どうやら、王女であるエリーがそのまま行ってしまうと混乱を招く恐れがあるらしく、雷斗たちを案内するメイドと言うことで渋々連れて行くことになった。エリーのメイド姿は、メイド服ではあるものの少し隠しきれていない気品が育ちの良さを伺わせるものだった。雷斗はその姿に見とれていたが、このはに耳をつままれたことですぐに現実に引き戻された。

 商業区まで向かう道中でエリーがはぐれそうになる度、メイドの二人が迅速かつ的確に連れ戻していた。なんとか商業区までたどり着いた。この世界の街というものは、行政を行う城を中心としている。貴族や役人の住む貴族居住区、騎士が住み騎士団等の騎士に関連する施設がある騎士居住区が周りを囲んでいる。さらにその周りを市民の生活の中心部である市民居住区、生活のすべてのもの作る生産区、騎士や貴族など市民以外の街に住むものや他の街からやってきたものなどが利用する商業区が囲む形になっているらしい。商業区の様子自体は都会の繁華街のようなもので、現代と比べると機械的なものがないくらいで、それ以外はあまり変わりない。食事をしたり、買い物をしたりしながら他愛もない会話を楽しんでいるのは、元の世界もこちらの世界も変わりないようだ。商業区に付いてからも、所々でエリーがはぐれそうになるが、そのときも慣れた様子のメイド二人に連れ戻されていた。前日も前日で楽しくはあったが、エリーがいるとさらに楽しかった。変に雷斗のテンションが上がり過ぎると、このはによって現実に引き戻されていた。

 あらかた商業区の重要な箇所を案内してもらうと、日も暮れてきたので屋敷に戻った。屋敷に戻ると前門のところに、すごく仕事ができそうな女性が待っていた。表情自体は笑顔なのだが、とても恐ろしい雰囲気をあえて溢れ出させていた。その女性が見えた時点で、エリーは逃げ出そうと画策していたが、メイとセリアに両脇を固められて逃げ出せないまま前門に到着した。着くと同時に、エリーはその女性に首根っこを掴まれて連れて行かれてしまった。どうやらその女性は王城のメイド長のようだ。エリーは結構頻繁に城を抜け出すそうだ。エリーは一度言い出すと聞かないらしいので、監視が出来るのであればある程度の勝手は許されているらしい。エリーは幼少の頃からちょくちょく城を抜け出し、ガイルやメイ、セリアのところに遊びに来ていたようだ。その頃はジークが見守っていたが、メイやセリアも扱いを心得たみたいだ。

 雷斗が寝室に戻った頃にようやく疲れがやって来た。しかし、眠気が襲ってくることはなかった。ベッドに潜り込んでも、特に眠くはならないので、時間を持て余していると扉をノックする音が耳に入った。扉が少し開き、ちょっといい?とこのはが顔をのぞかせた。少し気分を変えたかった雷斗は、このはとテラスに出た。最初は昨日今日の案内してもらったところであった他愛もない話をしていた。そのうち、元の世界での話に移り、していた部活動の話や学校での話に花を咲かせていた。話していたといっても、基本的にはこのはが話し、雷斗がその話に相槌を打つと言う感じだ。

 元の世界の話の途中で、突然このはが言わなきゃ行けないことがあると言った。


「えっと、それはどういう内容のことだ?」


 雷斗は、このはの声のトーンからある程度、どういう話か覚悟しながら聞いた。すると、このはは言いづらそうに口を開いた。


「あのさ、あんたはこっちに来た日にあたしと血が繋がってないのを知ったよね? あたしは違うんだ……」


 その言葉に雷斗は何かを言おうとしたが、言葉をうまく紡げなかった。雷斗の言葉を待たず、このはは言葉を続けた。


「そのことを知ったのは、あの事故から一年経ったときの二人の一周忌のときなんだ。あんた以外は事故の直後ほどじゃなくなってたけど、あんただけはあれ以来ずっと誰にも心を開かず、会話すらまともにしてなかった。唯一あたしとだけは最低限の会話をしてた。そんなあんたを見かねた母さんがどうにかしようと思ったけど、あんたとは会話できないから最後の手段としてあたしを頼って来たんだ。そのときにあんたが養子だったことを聞いたんだ。まあ、ちょっと口論になってたから、結果的に聞き出した形になっちゃったんだけどね。そもそも見つかったときの状況が特殊だったみたいなんだ。よく親にしかられるときに言われる言葉みたいなので『あんたは橋の下で拾われた』ってあるでしょ? まさにそれだったんだって。あのときは、それは冗談でしょって思ってた。でも、この世界の神隠しの現象を知れば、理解しきれなくても何となく納得しちゃうよね。まあ、最初は信じちゃいなかったけど、他の兄妹や母さん、おじいちゃんやおばあちゃんと似ている部分が、あんただけ以上に少ないから少しずつ本当に血は繋がってないんだなって信じていくようになった。それでも、今までともに育った兄妹だから、今は一人しかいない兄に前を向いて生きてほしいと思うようにもなったんだ。そのおもいが強くなっていくごとに、他愛もない会話でもいいからあんたと交わす言葉を増やしていったんだ。それからだよね、少しずつあんたがあたし以外とも話すようになったのは。それでも、真に心を許せる人はいなかったよね、あたしを含めてね。本当に前を向き始めたのはこっちに来てからだね。エリーと一緒にいるときは、あれから見てなかった顔をするようになったし、それ以前も見たことなかった顔もするようになった。それはちょっと悔しいかな」


 そこまで言うと、このはは一つ大きくため息をついた。雷斗は静かに聞いていた、その言葉一つ一つを受け止めるように。このはは、雷斗をおいて部屋に戻るように窓の前まで行った。しかし、そこでこのはは振り返った。


「聞いてくれてありがとう。溜め込んでたこと吐き出せて楽になった。吐き出したいことがあったらいつでも聞くよ。……でも、あんたが聞いてほしい相手はあたしじゃないよね…… じゃあ、お休み」


 そのままこのはは部屋の中へ戻っていった。雷斗は意味もなく夜空を仰いだ。そこにはついこの間まで見ていたものとは、少し違う星々と月がゆらゆらと煌めいていた。



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