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第二章 その一 真実一

 第二章

   その一 真実一


 雷斗はこのはの質問を聞いたときその意味を一瞬理解できなかった。そして思わず聞き返しそうになったが、よくよく自分たちのおかれている状況を雷斗は考え直してみた。いつのまにか見たこともない場所にいた。そして、ここの人とおぼしき人々は自分たちとは違う格好をしていた。冷静に考えれば、相手は絶対に日本語がしゃべれるわけではないから言葉が通じるわけではない。それに英語でもなさそうだ。一応英会話程度の英語を雷斗は話せるが、英語を話している感覚はなかった。そのうえ、立花家では教育熱心なのかなんなのか小学生の高学年位から英会話を勉強させられるため、雷斗よりも流暢に話せるこのはが理解できていない時点で英語ではない。それ以外の言語はだいたいこのはのほうが熱心に勉強していたため、会話はできずとも何となくの内容くらいはこのはは理解できるだろう。それにそもそも語学力はこのはのほうがあるはずなのだが、なぜ雷斗が流暢に話せてこのは理解すらできないのかという疑問が湧き出てくる。今度は雷斗がおそるおそるこのはに質問した。


「……本当にエリーたちが何を言ってるのか分からないの……?」


 このはは難しい顔のまま頷いた。そのことで一番の疑問が出てきてしまった。なぜ雷斗は何の不都合もなくこの国の言葉が理解できるのか。それどころか話すことすらできるのか。ちょうどそのとき、騎士に連れられてエリーが戻ってきた。


「すみません、またまたお待たせしてしまいまして……」


 戻ってくるなりエリーは申し訳なさそうに謝った。


「だからあれほど騎士団長様に勝手に何処かへ行くなと言われているではありませんか……」


 騎士はあきれ気味に諌めた。雷斗はおそるおそるエリーに質問した。


「あの、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


 エリーは気を取り直してこちらに向いた。


「はい、何でも聞いてください」


 雷斗はあまり期待せずに質問した。


「えっと、妹がこちらの言葉を理解できないといっておりまして……」


 それを聞いてエリーは不思議そうに言った。


「へー、珍しいこともあるんですね。そういえば、この国のことも知らないっておっしゃってましたよね?」


 これを聞いて雷斗が頷くよりも先に、騎士が驚きの声を上げた。


「なんですと! この国はこの世界で五本の指に入るほどの大国でありますのに……」


 この言葉に同意するようにエリーが続けた。


「この国で使われている言葉も大国ではだいたい使われている言葉なんですよ? この世界では常識ですよ。この世界では……」


 そういいながら、エリーは何かに気付いたように大声を上げた。


「ああっ! もしかしたら、神現しかも知れません!」


 その言葉に騎士ははっとして頷いた。雷斗は聞き慣れない言葉に思わず聞き返してしまった。


「かみあらわし?」


 それにたいして、エリーは説明しようと口を開きかけたが、少し考え直してから口を開いた。


「詳しくは城でゆっくり説明しますが、簡単に言うとそうですね…… あなたたちは異世界に迷い込んだというところですね」


 雷斗にとってはただ疑問が増えてしまっただけだった。


 それからほどなくして、雷斗たちは城に到着した。まだ何が何やら分からないままではあったが、とりあえず通された部屋に雷斗とこのはは入った。それからしばらくして、ドレスに着替えたエリーが部屋に入ってきた。


「すみません、お待たせしてしまって」


 とりあえず今のところは、この世界の言葉をこのはは分からないので雷斗が受け答えする。


「いえいえ、少しでも落ち着ける時間があれば、それにこしたことはありません。それより着く前に言っていた、かみあらわしというのは何のことなんですか? それに俺たちがここにいることが異世界に迷い込んだこととどういう関係があるんですか?」


 それに対して、エリーは落ち着いた口調で返した。


「きちんと確かめる前に、話しておくべきことがあります。少し長くなりますがよろしいですか?」


 雷斗はそれに対して、頷き話すことを促した。


「では、この世界に伝承として伝わる現象のお話をさせていただきます」


 その現象は、この世界がこの世界だけで反映することが難しいと判断したから始まったのだとある人は言った。この世界には時折特別な力を持った赤子が生まれる。それ以前はどうだったのか分からないが、その現象が始まってからは時折生まれたばかりの赤子がその姿を消すことが起こった。それはまるで神が赤子を何処かに隠してしまったかのようであったため、神隠しと呼ばれた。しかしそれ以上に奇妙なことが起こるようになった。稀に神隠しを受けて居なくなったはずの赤子が成長して戻ってくるというのだ。特別な技術や特別な能力を備えて。これは、神の力によって突然現れるように感じることから、神現しと呼ばれるようになった。しかし、ここに疑問が生ずる。なぜ、突然現れたものがかつて神隠しを受けた赤子であったと分かるのかということだ。それは実に簡単でとても不可思議なものだった。かつて神隠しを受け、成長し、戻ってきた者と血縁関係にある者は、見た瞬間に理解し確信するそうだ。それは神現しとして帰ってきた者も同様に理解し確信するという。つまり、神隠しを受け、神現しとして帰ってきた者はその血縁者とあった瞬間、互いに血縁であると理解する。


「今では、神現しを受け帰ってきた者その者をさして神現しと言うそうです。それにこの世界とあなた方のいた世界のどちらもが医療が充実していなかった時代には神現しとして帰ってくる者はごく少数だったようです。それとだいたいの場合は、神現しとして帰ってくる者はその血縁者と近しいところへ現れるそうです」


 エリーは自慢げに話している。このはに内容を伝えながら雷斗は何か予感をした。しかし、今はそのことについて考えないことにした。エリーは「ですが」と言って続けた。


「いくら血縁者の近くに現れるとはいえ、必ずしも血縁者に見つけられるわけではありません。血縁者でなくても、神現しを見分ける方法があります。それがこれです!」


 そういってエリーは、首にかけたペンダントを雷斗たちに向かって差し出した。そのまま、雷斗たちの反応を見ることなく話を続けた。


「このペンダントに埋め込まれている石には特別な力があります。今は黄色ですが、これは今身につけているのがこの世界で生まれ、この世界で育った私だからです! これを神現しの方が持つと色が変わるんです! まあ、正確にはもう少し細かい判別の基準はあるんですが……」


 とても楽しそうに明るく話すエリーにところどころ見とれそうになる雷斗であったが、そうなるたびにこのはに現実に引き戻され話を伝えていた。エリーは「さてと」といって雷斗の目の前にやってきていた。


「さあライトさん、これをもって見てください」


 そういってエリーは雷斗にペンダントを渡した。雷斗はその黄色の石がはめ込まれたペンダントを慌てて受け取った。そのとき、不思議なことが起こった。さっきまで黄色をしていたペンダントの石の色が、徐々に緑色に変わっていったのだ。それを見て雷斗より先にエリーが反応した。


「ああ、やっぱり!」


 雷斗は思わずエリーに尋ねてしまった。


「えっと、これってどういうこと?」


 エリーは優しく答えてくれた。


「この石が緑色になるのは神現しの方が持った場合です。だから、それはライトさん、あなたが神現しの方だという証です」


 こうまではっきり言われてしまえば、雷斗は認めないといけないのだろう。自らが元々こちらの人間であるということを。認めたくない事実を知ってしまったが、とりあえずこのこともこのはに伝えた。


「俺はさっきの話に出てきた、神現しってやつらしい。つまり、元々はこの世界の人間なんだって……」


 それを聞いたこのは思いのほか、驚いていなかった。


「そう。あんたがこの世界の……。……なるほど、だから……」


 何かつぶやいているこのはをよそに雷斗には疑問がわいてきていた。しかし、その疑問を振り払いたくて、このはにペンダントを渡すことを考えた。


「このはもペンダント持ってみたらどうだ? 色は緑から変わらないかもしれないけど」


 これを聞いたこのはは一瞬はっとしたような表情になったがすぐに真剣な表情になった。


「あんたは、どんなことがあってもそれを受け入れる覚悟はあるんでしょうね?」


 雷斗は目をとじ、冷静になるように意識してから頷いた。このはは、その反応を見て覚悟を決めたように、雷斗の手からペンダントを受け取った。すると、このはの手の上でペンダントの石は、緑から徐々に青く色を変えていった。それを見た雷斗は、少しの間呆然としていた。少しの間続いた沈黙を破ったのはこの空気に耐えきれなくなったエリーだった。


「あの、この空気の中で言いにくいのですが……」


 話し始めたエリーが言いよどんだ空気を感じたこのはは、態度でエリーに話を続けるように促した。


「ええっと、その、この石が青くなるときは元々こちらの世界の人ではないときです。つまり、ライトさんの妹様は元いた世界の方ということになります。あなた方に……血縁関係は、ありません……」


 残酷な真実が雷斗の胸を貫いた。再び部屋を沈黙が包み込んだ。



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