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疾風迅雷の魔術師  作者: ヘデメ
『朱』編
8/26

【実力】

 魔術には、人によって属性の得手不得手がある――――のだが、この説明をするために前提として、魔術の属性についての話をしておこう。


 まず、魔術というのは〈自然に干渉する〉ことができる魔素の性質を用いているものであることは以前すでに説明しているので、理解してもらっていることだろうと思う。


 〈自然に干渉する〉という性質上、この世界における最低限の自然の摂理に則して魔術は行われる。そこで考えなければならないのはこの世界を構成する要素についてだ。つまり、自然を構成する要素について考えるということだ。


 これに関しては様々な考え方があり、果たしてどれが正しいのか、はっきりとはわかっていない。しかし、確定しているわけではないにせよ、一応、現在はこれが最有力であるというものはある。それについて説明しよう。


 現在までの研究によって行われた無数の考察によって生まれた世界の考え方は、四大元素と呼ばれるものだ。今の時点ではこれで世界は構成されていると考えられている。


 これは正解に近からずも遠からずといったものだ。


 というのも、確かに四大元素と呼ばれる、火・水・風・地の四元素はこの世界を構成する中心的要素といっても過言ではないのだが、これとは別に、どうしても分類できずに‘‘その他’’に入ってしまう要素があるのだ。


 例えば、四大元素に並ぶほどの独立した属性、聖と魔。


 例えば、独立した属性で数えられたり、場合によっては四大属性である水の上位属性とも言われる、氷。


 例えば、身体強化などや体力回復など、どの属性の下につくかよくわからないもの、または無属性などなど……。


 この理論は穴だらけであり、どう頑張っても正解とは言えないのだ。


 その数も馬鹿にはできないほど多く、とてもではないが四大元素が絶対に正しいなどと言うことはできない。それゆえに、日本を含む数々の先進国は熱心にこれについての研究を続けている。


 それはさておき。


 四大元素はこの場では正しいものとしておく。実際、魔術を説明する上では大した障害になりえないので。


 では魔術の属性についての話に戻るが、結局のところ、何度も出てきた四大元素、火・水・風・地がそのまま魔術の属性でもあるのだ。


 故に、世界の本質を知ることは、魔術を極める上で避けては通れない道なのである。



 何はともあれ、そんな特徴がある魔術だが、冒頭でも言った通り、人によって魔術の属性に得手不得手が存在する。


 例えば、澪。


 既に気づいている人も多いだろうが、彼女の得意属性は雷だ。


 その人物の得意属性は他のどの属性よりも威力が高くなり、消費するエネルギーが減少する。その割合は個人差が顕著に表れるが、とにかく燃費が良くなるのだ。


 そのため人は皆自分の得意属性の魔術を多用し、慣れることでさらに威力が上がっていく。ただ、これがあるせいで、得意属性ばかりに使用頻度が偏りすぎて、戦闘時に臨機応変に対応するための手札が少なくなってしまう人が多発してしまうという弊害も生まれている。やはり、場合にもよるが、バランスをよく考えて魔術の実力を伸ばすことが大事なのだ。


 とりあえず、そんな理由があって、澪は雷属性の魔法を頻繁に使っている。


 では、白斗はどうか。


 今のところ誰も彼の戦闘を見たことはないので知らないだろうから、予測の範疇を出ないことだろう。


 そこで早速、白斗の戦闘を見ることにしよう。やっとではあるが、もとのシーンに視点を戻そう。





 白斗の眼前に佇むのは複数の牙狼と大鼠。


 そしてその先には、彼らが狙う、獲物と化した数人の男女。


 魔物たちは彼らに夢中で、白斗と澪の2人には気が付かず、低いうなり声を上げながら今にも飛び掛からんと後ろ足に力を溜めている。かなりの危機的状況だ。

 当然だが、このまま放置していれば、まもなく彼らのことごとくが魔物たちの餌食となるだろう。


 白斗は目の前の人々が喰い散らかされる未来を想像して――――頭を振った。


「何を今さら弱気になってるんだ……!」


 戦闘に慣れていないにもかかわらず、いきなり人を守るというのは非常に難易度が高い。


 勢いで澪に大見えを切ったものの、対処法を思案しているうちに、自分は思っていた以上に難しいことに挑戦しようとしていることに気づき、また、人の命が自分に掛かっているという重大な責任に、弱気になってしまったのだろう。


 だが、白斗はそんな弱気な自分を追い払う。


 そして静かに闘志を燃やす。気合を入れる。そして――――紡ぐ、力の言葉を。


「生み出すは風、強大な風、吹き荒れ、吹き抜け、吹き飛ばさん、‘‘吹風’’!」


 白斗の前方約10m。魔物たちの直前。


 強風が巻き起こり、牙狼たちを大きく吹き飛ばす。


「月無くん! こっちは大丈夫よ!」


「よし!」


 澪の言葉を受けて、第一段階が成功したことを確認する。


 ‘‘吹風’’によって魔物たちを吹き飛ばした結果、追いつめられていた人々と魔物たちの距離が大きく離れ、彼らの間にすかさず澪が入り込み、ひとまずの安全確保に成功したのだ。


 ただ――――。


「近いな……っ!」


 後方に大きく飛ばされた魔物たちは必然的に、白斗との距離を大きく縮めることとなった。


 そこで作戦の第二段階へと移行する。


「作戦の第二段階。それは……」


 白斗が限られた時間で足りない頭を必死に働かせて立てた作戦。その第二段階。


「『頑張って倒す』!」


 結局思いつかなかったのだった。


 やはり白斗は、情けない……が、やるしかないのも事実。


 大勢の魔物に囲まれて、今度は自らが絶対絶命の大ピンチに陥ってしまったわけだが、こうなればさすがの白斗でも腹を括るしかない。このまま一方的にやられるわけにはいかないのだ。


 それは当然自分のためでもあるし、何よりも、魔物たちの奥に見える人々をこれ以上の危険にさらさないためにも、戦うという選択肢しか残されてはいない。


 両頬をパンッ! と打ち、気合を入れなおす。


「いくぞ!」


 右の掌を前方の魔物たちに向ける。


 放つのは広域魔術。


 頭に明確なイメージを浮かべて、放つ。


「渦巻く風、木の葉を運ぶ旋風、自然の刃で、敵を討たん、‘‘旋風刃’’ッ!」


 言葉を締めくくる。


 大気中のエネルギーが移動するのが何となく感じ取れたのか、魔術とはわからずとも何か攻撃が来る、と本能的に身構えていた牙狼たちだったが、何も起きないことに怪訝そうな表情を浮かべる。


 そんな魔物たちの前方に小さな旋風が起こる。


 「まさかこれが……?」とでも言いたげな牙狼たちだったが、何も起こらないとわかると、侮蔑や嘲りの視線を向けてくる。


 が、直後。


 急激に巨大化した旋風は、落ち葉や木々に茂る葉を巻き込み、巻き上げる。


 加速した葉はだんだんとその姿が引き伸ばされるように加速する。


 やがて旋風は竜巻と見紛うほどの大きさまで至り、その身には、葉でできた鋭利な自然の刃を伴った。


 完全に不意を突かれた魔物たちは、一匹残らず旋風に取り込まれ、体に傷を付けられていく。


 ほとんどの魔物はそれによって致命的な傷を負い、死を待つだけの存在となった。


 しかし、中にはそこから飛び出し、果敢にも白斗に飛び掛かるものもいた。


「生み出すは風、塊の風、我が風球にて敵を切り刻まん、‘‘疾風球’’!」


 それでも、それにも確実に魔術を放ち、命を刈り取っていく。


 だが、全部が全部白斗へと攻撃を仕掛けるわけではない。


「しまった……!」


 魔物たちも愚かではない。


 この時点で自分たちが白斗よりも弱いと認識し、攻撃を仕掛けるのは不利であり悪手だと気づいた魔物たちは、白斗よりも弱い、もともと獲物として狙いを定めていた人々の方へと駆け出した。


 しかし、そこで白斗は思い出す。「俺は今、一人で戦ってるわけじゃないんだ」と。


「生み出すは雷、鮮烈の光、駆ける閃光にて敵を焼き飛ばさん、‘‘電撃網’’」


 そう。魔物たちが向かう先には、白斗よりも強い澪がいるのだ。


 澪の近くにいる人々に向かった複数の魔物たちも、広域魔術の餌食となった。


「これで最後だ」


 旋風の消えた地に残る、息絶え絶えとなった魔物たちに、トドメをさす。


「放つは風、切り裂く風、敵を刻んで地へと返さん、‘‘風刃’’!!」


 鋭く洗練された風の刃が、魔物たちを切断した。


「……ふぅ」


 戦闘が終わり、白斗はため息を吐く。


 体がだるい。思ったよりも疲れているようだ。


 この疲れは、体を動かしたことと人の命を預かっていることから精神的に、というのもあるだろう。


 しかし、この他にも、魔術の使用による疲労もある。


 魔術の使用による疲労の原因は、使用によって消費される体内のエネルギー、いわゆる魔力の減少である。


 人が必ず体内にもつ魔力は、魔術を発動する際に必要不可欠なものだ。


 しかし、発動するたびに体内の魔力は体外へと排出される。そのため、カロリーなどのエネルギーの消費と同様、疲労を感じるのだ。


「おつかれさま、月無くん」


「おつかれ、桜庭さん。さっきはありがとう、助かった」


 一瞬何のことを言われたのかわからなくて首を傾げる澪だったが、すぐに魔物の打ち零しのことらしいとわかり、苦笑しながら白斗に返した。


「お互い様よ。月無くんには、それ以上の魔物をたくさん倒してもらったのだし……こちらこそありがとう。おかけでみんな少しの傷があるくらいで、無事だったわ」


「そうか、それはよかった」


 そう言って、白斗は安堵の表情を浮かべる。


 作戦と呼べる作戦ではなかったが、全員が無事に済み、間違いなく救助は成功したのだった。

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