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疾風迅雷の魔術師  作者: ヘデメ
『朱』編
7/26

【二人の関係】

2016/9/6 色々修正

 あれから数日。


 異世界転移して、この世界に取り残されてから数日経過した。


 初日に遭遇した魔物・牙狼と魔獣・大鼠の後も、何度か戦闘する機会が訪れていた。


 予想通りというかかなんというか、基本的に戦闘は澪が行っていた。


 だが、白斗の名誉のためにも念のために軽い擁護をすると、牙狼の群れと大鼠の時とは違い、澪の後ろの方に隠れながらではあるものの、一応魔術による援護をしていた。


 白斗の戦いっぷりについてはここで言及しないが、あまり期待できるものでないということだけは追記しておく。


 さて、現在は朝である。


 異世界での生活――というよりは森の中での生活なのだが――にも慣れてきた白斗と澪は、未だ森の中をさまよっていた。


 少し霧がかかっており、空を見ることはできない。


 薄暗い場所で、2つの影が動いていた。


「ねえ、白斗くん」


 朝露に濡れた草を踏みしめながら歩く中、澪が白斗に話しかけてきた。


 近からずも遠からずな距離を歩く白斗は、ちらと澪を視界に入れる。


「なに、桜庭さん?」


 澪は何かを思い出すように目をつぶりながら呟くように言う。


「本当に、こんなことになるなんて夢にも思わなかったわ……」


「異世界に取り残されたこと? それは俺も予想してなかったぞ」


「ああ、そうじゃなくて……いや、確かにそれも予想してなかったのだけれど……ほら、私たちってこんなに話すこととかなかったじゃない?」


 白斗も過去を思い出す。


 ここ数日の内容が濃かったということもあり、かなり昔のことのようにも感じるため少し時間が掛かった。


 思い浮かぶのは高校での自分と澪の関係、距離感。


「あぁ……確かにそうだな……」


 高校で同じクラスで学んでいた2人であったが、関係性としてはそれ以上でもそれ以下でもなく、これといって何も関わり合いにはならない、という典型的なクラスメイトの男女といった関係性であった。


 別に避けていたり嫌っていたりしたわけではなかったし、話を全くしないわけでもなかった。それでもやはり、会話の内容は事務的なものがほとんどで、今みたいに話したり、ましてや2人だけで旅をしたりなどということは思いもよらぬことだった。


「でも、よかったわ」


「桜庭さん?」


 どういうことなのか、と聞こうと彼女の名前を呼ぶ。


 澪は手を後ろで組み、白斗の方に向き直る。


「月無くんはあんまりできることないし、頼りないし……なんというか、本当に、ほんっとうに情けないのだけれど……」


 そう言いながら澪は。


「月無くんと一緒でよかったわ」


 花が咲いたように笑った。


「うっ……」


 あまりに可愛らしいその笑顔に白斗が一瞬鼻白む。見惚れてしまうほどであったが、すぐに持ち直して「俺の方こそ……」――――


「俺の方こそよかったよ、桜庭さんと一緒で。おかげで楽しいし、心強いから。そして何より……俺ってできることが少ないから、1人だったらすでにこの世にいなかっただろうしな……」


「確かにそうね。月無くんって女の子を1人戦わせて自分は隠れているような人だものね」


 ちょっと怒ったような表情を浮かべて、白斗を責めるように言う。


「その節は申し訳ございませんでした」


 澪の怒りももっともなので、白斗は素直に深々と頭を下げる。


「ふふっ」


 だが、澪も本気で怒っているわけではないらしい。


 白斗の行動に笑う。


「ひっでぇな桜庭さん。これでも真面目に謝ってるんだが……」


 と言いながらも、頬が緩んでいる。


 ほとんど関わりがなく、突然一緒に行動することになった白斗と澪の2人ではあったが、今のところ関係は良好なようであった。

 と、その時――



 ――――きゃあああああッッ!!



 森の奥から女性の悲鳴が聞こえてきた。


「――ッ! 桜庭さん、今のは!?」


「悲鳴だった!」


「行こう!」


「ええ!」


 白斗と澪の両名は気持ちを瞬時に切り替え、悲鳴の聞こえた方角へと駆けだした。






 数分後。


 魔術のひとつ、‘‘樹精の囁き’’によって悲鳴を上げた人物の大雑把な位置を確認した白斗たちは、何とか対象のすぐそばまでたどり着いた。


 ――――く、くるなあああっ!


 何かから逃げるような声が聞こえる。


「あっちだ!」


「急ごう!」


 2人も追いかける。


 そして、たどり着いた先。


 3人の子供たちと大人の女性1人に男性2人。その周囲に魔物と魔獣の大群が押し寄せている。


 どうやら、必死に逃げ回っていたが大樹を背に追い込まれてしまったらしい。魔物も魔獣も基本的に知能が高く、もしかしたら「逃げている」と思っていた彼らはうまく誘導されてここに追いやられたのかもしれない。


 何はともあれ状況は良くない。


 周囲を囲む魔物の中心は牙狼であり、初日に白斗と澪を苦しめたものであった。群れにつかまってしまい、それから逃げている途中で他の魔物や魔獣を釣ってしまったのだろう。


 今にも人に飛び掛かろうとしている先頭の牙狼に、澪が焦りながらもしっかりと状況を確認する。そして取った判断は、「範囲攻撃が有効」だった。


 澪が力の言葉を紡ぐ。


「生み出すは雷、鮮烈の光、駆ける閃光にて――――」

「駄目だ、桜庭さん!」


 白斗が澪の詠唱を遮る。


 言葉によって集まっていたエナルギーが何もなかったかのように霧散する。


「どうして止めるの!? このままじゃあの人たちが!」


「桜庭さん! 落ち着けって!」


「落ち着いてられるわけないじゃない! 急がないとっ!」


「‘‘電撃網’’なんて使ったら、あの人たちまで燃えちまうぞ!」


「――あ」


「ね、だから一旦落ち着いて」


 冷静に状況を分析していたように見えて、澪もやはり焦って冷静な判断が下せていなかったようだ。前回、牙狼を撃退できた魔術がとっさに頭に浮かんで、安直に決めてしまったのだろう。


「ごめんなさい……」


「落ち着いた?」


「ええ……」


 澪も今度こそ冷静になったようだ。


「でも、じゃあどうしたら……」


 不安な声を上げる。


 それに対し、白斗はどんっ、と自分の胸を叩き。


「――ごほっ」


 せき込んだ。強く叩きすぎたようだ。


 本当は頼りになる男を演じたかったのだろうが……情けない。


 気を取り直して咳ばらいを一つ。


「と、とりあえず……ここは俺に任せて」


 白斗は言った。


 自分で胸を叩いてせき込んでるような奴に何を頼れというのか。ましてや今は人の命がかかっている。


 だが、澪は何も心配している様子はない。


「わかったわ。月無くんにお任せします」


「おう」


 白斗と魔物たちの戦闘が始まろうとしていた。

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