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疾風迅雷の魔術師  作者: ヘデメ
『朱』編
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【異世界転移】

 異世界転移門が日の目を見た後。未だ、会場の熱気は収まることを知らなかった。


 なぜなら、転移門の発表、それ自体が今回の目玉ではないからだ。事の中心は、まだ先にある。


「では、当選者の皆さま。ステージ上までお越しください」


 呼ばれるのは、白斗含む10人の当選者たち。


 そう。何を隠そう、当選者たちは、この転移門のために呼ばれたのだ。


「ついに来たわね」


「そうだな」


 白斗と澪の両名も、緊張した面持ちで、ステージへと続く階段を上っていく。


 司会者が全体に向けて言葉を放る。


「皆さまもご存じのとおり、本日は当選者の皆さまによる、実践使用が行われます!」


 当選者。幾度となく発せられた言葉だ。


 そもそも当選者とは、一体、何の抽選に当選したのかをそろそろ説明しよう。


 約1年前。世界5か国にてその抽選は行われた。


 名目は、〈世界最速異世界訪問〉。文字通り、世界最速で異世界の地を踏む権利を獲得できるということだ。それも、年齢制限なし、料金全額無料で、だ。


 インターネット上で唐突に現れた公式サイトを誰も信じはしなかった。異世界に行けるなど、西暦4000年近くなった日本においても突拍子もないことで、とにかく胡散臭かった。実際、詐欺なのではないかと何件もの通報が警察庁に寄せられた。――――が、抽選が行われた5か国において突然、それぞれの政府が大々的にその抽選について発表したのだ。つまり、国家主導の特大プロジェクトだったというわけだ。


 急激に信憑性を帯びたその抽選に、数多くの人々が参加した。


 おふざけで参加していた人を含めて200名ほどだった序盤の参加者数から、一気に億にも達した。


 その後も人数が増え続け、周辺国から抽選に参加可能な5か国へとわざわざ訪れる人や資産家の中には、多額の資金を用いて人を雇い、当選確率を上げようと画策する者までいた。


 世界中に大混乱を招き、莫大な金が動いたこの抽選は、3か月間続き、最後には10名の当選者の発表によって終わりを告げる。


 そして選ばれた当選者たち。その中には白斗と澪もいたのだった。


 では、話を戻そう。


 当選者である10名は、本日この世界を旅立ち、異世界の地を踏むことになる――――そして、すぐに帰ってくる。


 〈異世界訪問〉と聞いて、一体、何人の人々が異世界を歩き回って旅をし、文化に触れることだと勘違いをしたことか。


 しかし実際は、転移門を潜り抜けてしばらくしたら、すぐに地球へと帰還するのだ。


 というのも、これはあくまで実践的な調査であり飽くまでも実験の延長、言ってしまえば人体実験なのだ。決して旅行などと言えるものではない。これが発明・完成してからいまだ、一度たりとも使用されたことはないのだから。


 短時間の利用に留められているのは、未知の地を訪れることへの危険性を考慮し、また、不足の事態が発生する余地を可能な限り減らそうという考えから来ている。


 その為、すぐに帰還するというのは、安全を確保するためには仕方がないことなのだ。


「さっそく、始めましょう。当選者の方々にも心の準備というものがあるでしょうから、転移門を潜る順番は、希望者から、ということに致しましょう」


 不安そうな表情を浮かべる当選者がいることに気付いた司会者が、気を利かせてそんな案を提案し、実行する。


 後ろに並んでた人々は、当然、並んだ順番で転移門を潜るものだとばかり思っていたため、逆に不安が増してしまったようだ。


 だが、言ってしまったものは仕方がない、と司会者は見て見ぬふりをすることにしたようだ。果たしてこの司会は有能なのか、それとも無能なのか、微妙に判断がつかない。


「それでは、トップバッターを希望する、勇気ある少年はいますか?」


 勇気ある少年(・・)。この列に並ぶ男は何故か白斗だけだ。つまり司会者は暗に、白斗をトップバッターに推薦しているのだ。というか、失敗して不安を煽ってしまった責任を白斗に押し付けようとしているのだ。


 白斗もそこまで馬鹿ではないので、意味に気がつき苦笑する。


 何か新しいことに挑戦するときには、多大なるエネルギーを要する。それを無意識に人は回避するためなのか他人よりも先に挑戦することを嫌がり、押し付けようとする。


「はぁ……」


「月無くん大丈夫?」


 澪も意味に気付いていたようだ。


「ああ、大丈夫だ、桜庭さん。こういうのには慣れてるから」


 白斗の言う通り、彼はこの手の押し付けに慣れている。プロフェッショナルと言ってもいいかもしれない。巷では「肩代わりの白斗」などと呼ばれていたくらいだ。


 白斗自身は特に積極性があるわけではない。だが、人に押し付けられることが多く、誰よりもリーダー職に就いた回数が多い。


「よし、いくか」


「ほんとに行くの?」


 澪の問いかけに、力強く頷く白斗。覚悟は決まったようだ。


「さあ、誰かトップバッターを希望する方はいませんか?」


 司会者が明らかに白斗の方を見ている。


 軽く溜め息を吐き、手を挙げた。


「はい、行きます」


 そして、立候補した。


「ありがとう! 皆さま、勇気ある少年に、盛大な拍手を!!」


 歓声と拍手に会場が包まれる。


「こちらへどうぞ」


「はい」


 やって来たスタッフに促されるままステージに上がり、転移門の正面に立つ。


 離れて見ても気付いていたことだが、転移門は相当に大きい。首が痛くなるほど見上げなければ全貌を見られないほどである。


「では! どうぞっ!」


 実に、軽く言われた。


 戸惑いながらも、改めて転移門を見上げる。


 門、という名ではあるが、枠組みがあるだけでそれらしくはない。それに加えて、枠組みの中は丁度シャボン玉が日の光を反射したときのように様々な色に輝いている。


 その様相に圧倒され、直前になって不安が首をもたげてきた。


「どうかなさいましたか?」


「いいえ、問題ありません」


「……ああ、そういうことですか。そうならそうとおっしゃってくださいよ」


「はい?」


 司会者は何かに気付いたようで、白斗をからかうように笑う。


「彼女さんとご一緒がよろしいんですよね? すみませんでした、気が回りませんで」


「彼女……?」


 にやにやしながら言う司会者の言葉に、理解できないといった表情を浮かべる白斗。その表情に、勝手に盛り上がっている司会者は全く気付かない。やはり調子のいい無能の方だったか。


「ほら、彼女さんもこちらへどうぞ!」


 そう言う司会者の視線が向かう先。


「へ? 私?」


 桜庭 澪だった。


「いや、彼女じゃ……」

「いや、彼氏じゃ……」


「スタッフの方ー!」


 2名の言葉は完全に無視され、澪もステージに上げられる。


「さあ、今度こそ!」


「うおっ!」

「きゃっ!」


 背中から押された白斗と澪は、勢いよく転移門へと飛び込んだ。


「いってらっしゃい! 異世界へ!!」


 2人は異世界に転移した。






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