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疾風迅雷の魔術師  作者: ヘデメ
『朱』編
24/26

【四大国会議】

「――第76回四大国会議を開催する」


 数百年前から続く四大陸会議が開始された。


 この会議で行われるのは主に3つ。


 ・それぞれの国や大陸での異変の有無の確認

 ・多種族に対する意識調査

 ・互いの種族での交流計画について


 といったものだ。


 基本的に同様の内容を踏襲して行われるこの会議は、今回も例年通り国や大陸での異変の有無の確認から始まった。


 はじめに、向かって左に座る男に視線を向ける。


「まずは妖精族【フェアリル】の。異変はあったか?」


 エルフの男グルセリオンは目を瞑り腕を組んだまま静かに口を開く。


「……特にない」


 次に獣人族【ガルルシス】のティガーに目を向けて……後回しにすることにした。いまだ彼は思いっきり寝ていたからだ。

 護衛の男も主を起こそうと揺すっているが当分起きそうにはない。


 とりあえず次。

 魔族【デストピア】のイヴァに向き直り問う。


「魔族の。どうだ?」


「私のところも問題はなかったぞ」


「うむ。わかった」


 そして残るは獣王だけだが、正直言ってめんどくさいので放っておく。


 前回までは父親の現国王がこの会議に参加していたが今回からはクレアが参加することになった。それにあたって今までの会議については軽く聞いていたのだが、獣王の態度に関してはいつも通りだそうなので完全に無視する。後回しだ。恐らく自国も自分の大陸も、何も問題は起きていなかったのだろう。


「では最後に妾であるが……ちと、厄介なことになったやもしれん」


 そう言って、かなり深刻そうな表情を浮かべる。


 それを目ざとく捉えたイヴァがクレアに疑問を投げつける。


「む? 【ヒューマンエデン】では何かあったのか?」


「うーむ、何かがあったというよりは……何かがこれから起きそうというほうが正しいかのう……」


 何と説明するか迷っている……というよりは、言いづらいことをどうやって伝えようか……と悩んでいる様子のカレン。


 場を静寂が支配する。


「……おい! さっさと続きを話しやがれ!」


 しかし、突然起きた獣王・ティガーがもう辛抱たまらん! とばかりに怒鳴り散らす。ついさっきまでいびきをかいて寝ていた奴が何を言うか……とクレアとイヴァからジト目を向けられるが気にした様子はない。因みにグルセリオンは腕を組んで目を瞑り、黙ったままだ。


 ティガーがずっといびきをかいて寝ていたという事実を今つついても、さらに面倒くさい展開になりそうなので、カレンは大人しく本題へと移ることにした。


「こほん。では皆よ、心して聞くのだ」


 緩んでしまった空気を引き締め直すために一度間を取る。


 そうして数秒溜めて、充分にピリッとした空気に戻してから、再度口を開いた。


「――『(あか)』が動き出した」


 重々しく放たれた言葉は、『朱』。


 誰もがそれを受け止め三度(みたび)静寂が場を制する。


 が。


「ぷっ」


「……?」


「ぷっくくく……がはははっ!!」


 唐突に、獣王・ティガーが大声上げて笑い出した。


「『『朱』が動き出した』だあ~? ――冗談にしては笑えねえなあ」


 そして真顔になって言及した。表情が無いようにも見えるが、間違いなく怒りに満ちているのがわかる。


 いびきをかいて寝たり、突然笑い出したりとだらしなくて訳がわからないと感じる人間も多い。


 だが、彼は間違いなく大陸の王であり、大陸で最強の存在なのだ。


 その彼から一心に怒気を放たれ打ち付けられるカレンは、一瞬、意識が飛んだ。カレンでなくただの兵士であれば最低数時間は気絶、一般人であればそのまま死に至っていたかもしれない。

 なぜカレンが一瞬だけで済んだのかと言うことについて、この場では言及しない。


 とにかく。

 それほどまでに彼の怒りは凄まじい。


「ああ。彼の言う通りだぞ、カレン・ヒューマンエデン殿。それは質の悪い冗談、何て言葉ではすまぬぞ」


 魔王・イヴァもまたカレンを責め立てる。わざわざフルネームで責めているのは、「あなたは一国の、また、一大陸の代表なのだから、そのような冗談は慎むべきだ」という意味が込められているのだろう。その責任を追求しているに違いない。


「……」


 エルフのグルセリオンは沈黙を選んだようだ。しかし彼の眉間には皺が寄っている。恐らく彼も他の二人と同様の気持ちを抱いているのだろう。


 『朱』――その一文字、たったその一文字で、これだけの反発が生まれた。



 しかし冗談ではなかったらしい。二人から責められたカレンは苦虫を噛み潰したような表情を変えぬまま、言葉を続けた。


「こんな冗談を軽々しく垂れるほど、妾は腐ってなどおらぬわ! ……ここ数ヵ月、魔物が急激に減少しておる。間違いなく『朱』が動き出す、その予兆であろう」


「……しかし、カレン殿。しかしだ。『朱』はつい150年前に出現したばかりだぞ? 出現周期の1000年までは、あと残り850年。到底、及ばん。何かの間違いじゃないのか?」 


「……俺もそう思う。他に、予兆と呼べる根拠は?」 


 イヴァもグルセリオンも、ひとまずカレンの話を聴くことにしたようだ。ティガーもまた、苛ついた様子を態度に表しながらも静かに黙っている。


 とにかく。

 内容が事実か、話の隙を突いて正誤の判断を行う。

 だが、その話し方や表情には「どうか、何かの間違いであってほしい」という感情がありありと浮かんでいて、何でもいいからその理論を打ち破ろうと躍起になっている。


「出現周期については何も言えぬが……根拠なら他にもある」


 そう言って続ける。


「まず魔物や魔獣がClass3以上を含めて一気に居なくなったということ。次に、その居なくなる現象が大陸の中央に近い所から順に引き起こっているということ。さらに――

「もういい」


 ティガーがカレンの言葉を切った。


 カレンは三人の顔を見渡す。


 カレンの返答を聞いたからだろうか。……恐らくそれが原因で正しいのだろう。

 いつの間にか、イヴァとグルセリオン、そしてティガーまでもが揃って暗い顔になっていた。


 カレンの言葉の饒舌さは、彼ら他の三人の怒濤の質問攻め全てを一つ残らず潰すことができるという、この場では誰も望まぬ自信から来ている。

 そのことがよくよく理解できている全員が、カレンの話の続きを聞かずとも、もう既に「『朱』が動き出した」のは間違いない、ということを嫌々ながらも信じることにしたのだ。

 否。信じざるを得なかったのだ。


 ――彼ら四人には嫌というほどによく伝わる隠語、『朱』。


 白斗と澪の預かり知らぬところで、世界は急激に動き始めていた。

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