表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疾風迅雷の魔術師  作者: ヘデメ
『朱』編
23/26

【この世界】

やっと国の名前を出します。

……忘れてたわけじゃないんですよ?

 白斗と澪が置き去りにされたこの世界には特に名前がない。それは元の世界と変わらないことだ。


 しかし、それ以外のことはかなり違う。当然だ。

 この世界は繋がるはずのなかった、関わりを持つはずがなかった、完全な異世界なのだから。


 さて。

 そんな異世界であるこの世界。

 広大な海には東西南北にほぼ同じ大きさの四つの大陸が浮かんでいる。

 それら全てがそれぞれ独自の進化を遂げており、大まかな共通点を除けばそこに生息する生命体や環境は大幅に異なる。



 東。人族の大陸。

 その名も、【ヒューマンエデン】。


 西。獣人族の大陸。

 その名も、【ガルルシス】。


 南。妖精族の大陸。

 その名も、【フェアリル】。


 北。魔族の大陸。

 その名も、【デストピア】。



 そして、そんな中でも特に白斗と澪が現在滞在している大陸。

 東の大陸、【ヒューマンエデン】。

 白斗たちが出会った少女クレア・ヒューマンエデンの名からも推測できる通り、大陸最大の国家がそのまま大陸の名前となっているのだ。


 大陸最大の国家は代表国家と呼ばれ、文字通り大陸の代表としてその存在を世に知らしめることとなる。


 そんな代表国家はここ数百年変わっていない。


 人族のヒューマンエデンは他国がそもそも対立することを憚れる圧倒的な大国であり、どこもここに喧嘩を売ってきたりはしない。


 獣人族のガルルシスは実力主義の国家であり、また獣人族の特性上強者に付き従う。現王族が史上最強とも謳われる存在であるため、謀反を起こそうとしても力で捻じ伏せられ、国家の転覆や代表国家の入れ替わりには至らない。


 妖精族のフェアリルはもともと聖霊王と呼ばれる存在がその地に君臨しており、全妖精が信奉しているために入れ替わりは起こらない。


 そして魔族のデストピアは魔王という絶対支配者によって既に大陸全土が統一されており、他国がそもそも存在しない。


 そんなわけで代表国家は入れ替わることなく維持されているのだ。


 では。

 そんな四つの代表国家であるが、4年に一度、それぞれの代表が集まって会談を行っている。

 四大国会議だ。

 毎回別の大陸で順に行っているこの会談であるが、それが今年、【ヒューマンエデン】にて行われるのだ。


 そして今日。人族の王国ヒューマンエデンの王都ではないある町にて、その会談が行われるのだ。







 日が陰り少し肌寒い風が吹き始めた夕暮れ時。


 人知れず世界を揺るがす権力者たちによる話し合いが行われようとしていた。


 ここは【スラテム】の中心部にある最も背の高い高級ホテルの最上階。


 ヒューマンエデン第一王女クレア・ヒューマンエデンは、護衛と共に王都から離れた町【スラテム】を訪れていた。


 目的はもちろん今年開かれる四大国会議に参加することだ。


 華美な部屋の中央に鎮座する大理石の大きな円卓に座するのは、東西南北それぞれの大陸の代表者たち。


 そのどれもが大陸の未来を担う権力者の一人であり、現在この場にいる人間が世界の命運を握っているといっても過言では決してない。


 そんな参加者の一人であるクレアは落ち着いて視線を巡らし、頭の中で再びほかの参加者について事前に調べさせた情報を思い出す。


 まず向かって左、妖精族【フェアリル】代表、グルセリオン・セイン・フェアリル。

 次代の聖霊王候補だ。


 短い金髪の男である彼は、耳が人族よりも長く尖っており、いわゆるエルフと呼ばれる存在だということがわかる。

 一般にエルフと言われる者たちと同様に、肌は白くまごうことなき美青年だ。

 腕を組んで目を瞑っているだけで一言も発さない彼の表情からは何も読み取れそうにない。


(次に……)


 正面。円卓を挟んで対岸に座するのは獣人族【ガルルシス】代表、ティガー・イエロー・ガルルシス。

 獣王国【ガルルシス】の現・獣王であり、獣人族最強の男である。


 所々が切れた半袖短パンで、その盛り上がった筋肉が空気に晒されている。虎の獣人である彼は人族にある耳の代わりに頭頂部に虎耳が生えていた。

 彼はこういった堅苦しい場所は苦手なのか、脚を円卓の上に投げ出しいびきをかいて寝ている。


(そして……)


 向かって右、魔族【デストピア】代表、イヴァ・デストピア。

 第五代目魔王にして初の女魔王だ。


 艶のある漆黒の髪が腰近くまで伸び、顔は幼いながらも整っている。

 余分な装飾のない闇色のドレスを身に纏う彼女の頭からは、彼女が魔族であることを証明する短い角が2本生えている。

 魔王にしてはまだまだ若く、とても一国の王女には見えない。が、しかし彼女の放つ、魔力に起因するオーラは間違いなく魔王のそれである。

 イヴァもまたクレアと同じように他の代表を観察している。


(さてと……)


 丁度一通り見渡したところで、この会議の進行役としてゆっくりと口を開いた。

 会議中は代表者とその護衛一人の合計8名だけしか部屋には入れない。

 また、進行はその年の会場となった大陸の代表者が務めるのだ。


「本日はお集まりいただきありがとう。感謝する」


 軽く会釈をするが頭は下げない。


 この場に集ってはいるが仲間ではないのだ。国の代表、大陸の代表、種族の代表として嘗められるわけにはいかない。クレアの頭はそう簡単に下げていいほど安くはないのだ。


 ともあれ。続ける。


「お初にお目にかかる。妾は【ヒューマンエデン】第一王女のクレア・ヒューマンエデンじゃ。――今をもって第76回四大国会議を開催する」


 散発的な拍手といまだ眠りこけている獣王のいびきだけが場に寂しく響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ