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疾風迅雷の魔術師  作者: ヘデメ
『朱』編
20/26

【冒険者ギルド】

 冒険者ギルドの扉――といっても外から丸見えの小さなものだが――を押し開く。


 白斗と澪のギルドに入ってすぐの印象は、「意外ときれい」だった。


 様々な物語やゲームなどで描写されるギルドであるが、所属している冒険者は一貫して野蛮な人物として描かれている。


 そのため、彼らが日常的に使うギルドは床に酒瓶や食べ零しが散らばり、机や椅子が散乱、悪臭絶えぬ環境のイメージが強かった。しかし、ここはどうだろうか。


 広々とした建物内には背の高い複数の丸テーブルが置かれ、それを中心に冒険者たちが談笑しているだけで悪臭など一切ない。多少汗の臭いがするくらいで、これくらいは許容範囲だろう。


 床には塵一つなく、してや酒瓶や食べかす、ごみなんかが落ちていたりなどはしない。さらに、よくある「昼間から酒を飲む」っていう状況でもない。そもそも、酒類を置いていないようで、冒険者たちが手に持つ飲み物は果汁100%のジュースだ。


「何というか……違和感がすごい」


 粗雑で乱暴なイメージが序盤から覆された2人。


 取りあえず気を取り直し、奥にある受付へと向かう。


 数人しか並んでおらず、すぐに順番が回って来た。


「こんにちは。今日はどういったご用件でいらっしゃいましたか?」


「こんにちは。冒険者の登録がしたいんですが……説明をお願いできますか?」


「はい。ではご説明させていただきますね」


 説明の主な内容は前回の説明同様。


 それに加えて新たな情報がいくつか。


 まず、受注できる依頼は冒険者のクラスと同じように分けられたものの内、同じか上下一つのクラスの依頼だということ。


 次に、クラスを上げるにはそのクラスに応じた規定回数の依頼を達成すればいいということ。ただし、一定数以上依頼を失敗した場合は降格される。また、自己判断でクラスの現状維持も可能。


 そして、冒険者には義務が2つ生まれること。


 一つ。魔物の襲撃などにより国からの要請があった場合、それに従わなければならない。


 二つ。緊急事態においてギルドの職員からの命令に従わなければならない。


 その他は、国の法律に従わなければならない、他冒険者の依頼の妨害をしてはならない、などの常識的な規則だけだ。簡単に一言で言い表すなら、「良識を持って行動せよ」ということだ。


「……以上ですがご納得いただけましたか?」


「桜庭さん何かある?」


「えーっと……依頼失敗の時に違約金とかの義務ってありますか?」


「いいえ、ありません。依頼を受注なさる際に頂く受注金というものがございまして、依頼達成の場合は依頼完了の報告と同時に返金いたしますが、失敗した場合はそのまま頂きます。それが違約金の代わりとなっております」


「えー……他に何かあったかしら?」


「あ、そういえば」


「何でしょうか?」


「登録したギルドから別のギルドへ拠点を変更するのは自由ですか?」


 拠点。自分たちが冒険者としての活動をする際に利用するギルドのことだ。白斗の質問はつまり、ギルドや国の許可なしに別のギルドへ移っていいのか、ということだ。


「はい、基本的に拠点の変更は自由です。ただ、移動する際は冒険者の方に関する資料がないと活動ができなくなってしまいますので、事前に拠点に届け出て必要資料を受け取ってください。また、資料を受け取り忘れた場合でも一応、再登録することは可能ですが、その場合は通常通りClass7からの再スタートとなります。予めご了承ください。……他にご不明な点はございませんか?」


 白斗と澪は訊き忘れがないかもう一度考えて、頷いた。


「はい、大丈夫です」


「では引き続き、冒険者としての登録を行います。こちらの用紙に必要事項をご記入ください。最低、名前だけでも大丈夫です」


 羊皮紙に書かれた項目は氏名、年齢、出身地に始まり使用武器や得意属性までかなり多い。これ全てを律儀に埋める人などいるのだろうか。


 名前と年齢のところだけ埋め、出身地をはじめとした他の項目は空欄にした。できるだけ情報を書かないようにする癖は情報社会の日本で過ごしてきたことで染みついてしまったのだろう。この癖が役立つかはわからないが邪魔にはならないだろう。


 記入が終わった羊皮紙を受付に提出する。


「……はい、ありがとうございます。では少々お待ちください」


 そう言って受付カウンターの後ろに下がった受付嬢が持ってきたのは薄い石製のカードだった。


「こちらがギルドカードです。依頼の際などの簡易的な身分証明書としてお使いください」


「わかりました。では早速依頼を受注したいんですが……」


「依頼はあちら――入り口すぐ横の掲示板に貼ってある紙から選んだ後、剥がしてこちらにお持ちください」


「はい」


 受付を離れて依頼の掲示板に近づく。


 依頼はクラスごとに分かれて貼られていた。一番右がClass7だ。


 上から順に見ていくと……。


「雑用しかないわね……」


「そうだな……」


 Class7の依頼は草むしりや掃除などの雑用がほとんどだ。言ってしまえばこれはClass7、つまりは駆け出し冒険者は実力も人望もないために何も任せることができないことを表しているのだ。


 だが、時々魔物の討伐が依頼として舞い込んでくることもある。しかしそれはお金のない村などが「誰でもいいから来てほしい」と出した依頼であることがほとんどで報酬額が低く、受ける人はかなり少ない。


 また、依頼のクラスを判断するのはギルドだが、依頼料を低額に抑えるために虚偽の報告を依頼者が行い、本来よりも下級のクラスの依頼として張り出されている場合があるので、しっかりと見極める必要があるのだ。


「どれにするかな」


「二手に分かれて依頼をこなしましょうか」


「うーん……お金もないしそうしようか。じゃ、俺は草むしりしてくる」


「わかったわ。私は掃除にする」


「行こう」


「ええ」


 そうして再び列に並び、依頼を受注。


 しばらくの間、この町【ミッドストリーム】のギルドを拠点として、小銭稼ぎに明け暮れることになる白斗たち2人だった。

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