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疾風迅雷の魔術師  作者: ヘデメ
『朱』編
15/26

【滞在】

 ロウエンが落ち着いた後、さらに数分ほど話し合い、白斗と澪の滞在を含む諸々のことが決まった。


 滞在については、村長であるロウエン宅の客室にて泊まることになる。


 そしてその際、白斗は別の約束を取り付けていた。魔術の指導である。


 彼の話では度々風属性の魔術が登場しており、尚且つ白斗が修得していないものだったので、「可能であれば」と協力をお願いしたのだ。


 それに対してロウエンは拍子抜けするほどあっさりと承諾した。


 ちなみに白斗の実力については、以前森で多数の魔物たちと戦った機会があったのでわかると思うが、決して弱いというわけではない。やるときはやる男でもある。


 ただ、そのやるとき・・・・というのが中々来ないのに加え、それ以外の時は本当にただの腰抜けと化すため、基本的に役に立たないのだ。


 白斗は「肩代わりの白斗」と呼ばれていることは前にも言ったが、彼はその渾名あだなを撲滅しようと努力したことはない。昔から、自分の置かれる状況を甘んじて受け入れてしまう節があるのだ。


 それは全て自分に自信がないことから来ている。それが災いして、戦闘時にも思い切った行動が取れず、挙句の果てには戦闘に参加することすらしないという状況が出来上がる。


 それを改善するためには、彼の根底にある自信のなさを打ち消す必要がある。その手助けになるなら、と澪がロウエンに指導を稽古を付けてもらうことを提案したのだった。


 そして今、ロウエンの家を後にした一行は村を歩いていた。


 指導を受けるために広場へと向かう途中だ。


 四季があるのであれば恐らく夏なのだが、朝早くということもあって少し肌寒い。


 2人並んで静かに歩いていたが、白斗が澪に話しかける。


「悪いな、勝手に引き受けて……」


 申し訳なさそうに言う白斗に、首を横に振った澪は微笑む。


「いえ、そのくらい大丈夫よ。何となく月無くんらしかったような気もするし?」


「うーん?」


「ま、何でもいいでしょ? ……とりあえず、これからのことを考えましょ?」


「そうだな」


 白斗も納得して首肯する。


 これからのこと。つまり、異世界での行動指針だ。


 以前森で決めた、〈森を抜ける〉という指針は意図せず達成されたので新たなものを取り決めなければならない。これから何が起こるか一切予想ができない状況下に置かれている以上、最低限の方針を決めておくことはいざという時の判断で困ることがなくなるだろうし、また、決断を鈍らせることを防ぐことにも繋がるだろう。


 これは命にもかかわることだ。重要な場面で決断が鈍ったり心が揺らげば、何か致命的なミスを犯すことになりかねない。


 そういう意味でも、これからについて大まかにでも決めておくことは間違いではないだろう。


「とりあえず、街に行かなきゃね」


「街?」


「ええ。この世界の常識を知るためにはここみたいに閉鎖的な村よりも多くの情報が集まって、流行も生み出される街に行った方がいいわ」


 2人が今いるフォレス村は前も言った通り、ほとんど一つで完結している村だ。自給自足できる環境が揃っているために食料を街などで買い求める必要もない。したがって、街に赴く機会は極めて少なく、新しい情報が入ってきづらいのだ。


 それ故に澪は白斗に街に行くべきだと提案する。


「なるほど……確かにその通りか……じゃあ、俺が魔術を教わったら近くの町を目指すか。後で訊いとかないとな」


「ええ、練習が終わったら早速訊いてみましょ」


 実に大雑把ではあるが、次の行動方針も決まった。まず目指すは近くの町。その前に魔術を伝授してもらって白斗の技術を上げなければならないのだが……2人ともこれから異世界であるこの地と深くかかわっていくことになるのだ。


 それから2、3分歩き、村の端にある広場へと辿り着いた。


 そこからは打ち付け合う乾いた音や裂帛の声が響いてくる。


 見れば数人の男たちが木剣で鍛錬をしているようだ。恐らくこの村を守る戦士なのだろう。よく目を凝らせばレイルもいた。そういえば彼もフォレス村の戦士と名乗っていたか。


 レイルがこちらに気付き、鍛錬を中断してこちらに駆け寄って来た。


「村長との話は終わったのか」


「どうもレイルさん。ロウエンさんの魔術師嫌いについての話も聴いてきました」


「そうか……村長はなんか言っていたか?」


「うーん特には……でも、解決したわけではありませんが多少ロウエンさんの心も軽くなったんじゃないかと思います」


「ん? 村長と何かあったのか?」




 不思議そうに尋ねてくるレイルに事のあらましを話すことにした。


 魔術師嫌いの理由を知るにあたってロウエンの過去の話を聴いたこと。


 その上でなぜカレンを助けに行かないのかと責めたこと。


 そして、カレンの救出を可能な範囲で行うと約束したこと。



 それを聞き終えたレイルは酷く驚いた様子で、焦りながら言ってきた。


「あのラコラー子爵に歯向かうのか……!?」


「はい……ですが、今すぐにというわけではないですよ?」


 果たしてそれは弁解になっているのかどうかよくわからない言葉を白斗が返す。


「そういう問題じゃなくてだな?」


 困っている様子だ。それを見た澪が白斗の代わりに弁明する。


「確かに私たちはロウエンさんとそういう約束は交わしましたが、無理をするつもりはありません。ロウエンさんとカレンさんには同情しますが……自分たちの安全を優先しますから」


「そうか……それは当然か。いや、むしろその言葉を聞いて安心した。カレン様を助けようとして村人の命の恩人が命の危機に晒されるようなことがあれば……申し訳が立たない」


 そう言って本当に安堵した様子を見せるレイルに2人は苦笑を禁じ得ない。


 なんたって、自らの村の長であるロウエンの孫娘・カレンと白斗たちを同列に扱い、心配しているのだ。こんなことを他の人に聞かれたら問題になりそうなものだが大丈夫なのか。


 何にせよ、レイルは無表情な戦士ではあるが、根は優しいのだろう。


 それからもしばらく立ち話をしていると、ロウエンが姿を見せた。


「客人指導に来た。準備はいいか?」


「はい、お願いします」


「そっちの君は指導を受けなくていいのか? ……1人も2人も大して変わらないのだが?」


「はい大丈夫です。月無くんには早く強くなってもらいたいので、私の分も厳しくお願いします」


「そうか、わかった」


「では始めるとするか。まずは実力を測らせてもらう。気合を入れろ」


「はい!」


 こうしてロウエンによる白斗の訓練が始まったのだった。

頑張って短く纏められるようにします。

そうすれば定期更新ができるように! ……なるかもしれません。


では次回もお楽しみに!

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