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疾風迅雷の魔術師  作者: ヘデメ
プロローグ
1/26

【遥か遠い、夢の記憶】

 遥か遠い夢の記憶。


 見たはずの夢の記憶。


 忘却の彼方へと失われた夢の記憶。


 そして――――全ての始まりの夢の記憶。










『――様、どうなさいましたか?』


 自分を呼ぶ声がする。


 酷く懐かしい。だが、誰だったか。


 ずっと近くにいたはずなのに、名前も顔も思い出せないが――――。


 まぁ、いい。


 ひとまず言葉を返すことにしようか。


『何でもない、――よ。心配するな』


『そうですか……』


『おーい、――様達! 早くこっち来てくれよ! 結構押されてんぞ!?』


 また別の声がする。


 懐かしい。


 それにしても……耳を済ますと何かがぶつかり合う音がしているな。


 剣か?


『なぁ――と――、今って戦闘中か?』


『え……? そうですが……ふふっ。寝惚けているんですか?』


 そうか、戦闘中だったか。


 そういえば――が攻め混んできてたんだったけ。


 なぜ忘れていたのだろうか……いや、考えるのは後にしよう。


『そうか、では行くとするか』


『はい!』


 目を開く。


 眩しい。


 光を遮るように手を翳す。


 ついでに声の人物を確認しよう。


 これで顔も見られるはず……そう思っていた。


 だが、違った。


 夢は移り変わる。


 見る人も気づかないままに。


 不自然でそれでいて自然に。


 見えたのは懐かしい顔ではなかった。


 視線の先は、黒、黒、黒。


 視界を埋め尽くす黒の軍勢。


 蠢く黒の大地。


 周りには、自分が大切に思っていた者たちが無惨に転がっている。


 顔はなぜか靄が掛かったように見えない。


 だが、悲しみだけは流れ込んでくる。


 こんな気持ちいつ以来だったか……。しばらく敗北をしていなかったせいで久しく忘れていた。


 頭に浮かび思考を埋め尽くすのは、絶望(・・)のたった二文字。


『負けた……のか?』


 何にかはわからない。


 ただ、負けて失ったのだと直感で悟った。


 誰かの笑い声が聞こえる。


 自分を嘲笑う声が響いている。


 あぁ、負けたのだ。


 負けて全てを失ったのだ。


 奴に全てを奪われたのだ。


 だから――――奪い返そうと思った。


 何があろうとも、どんなに時間が掛かろうとも、全てを取り返そうと。


 そして、自分の力の全てを使って。


 自分が絞りカスになるまで絞り尽くして。


『――――、‘‘――’’』


 力を使った。


 凄絶な力の波は、豪風を巻き起こし暴虐の限りを尽くす。


 木々はへし折れ。


 大地は砕けて、剥がれ落ちる。


 蠢く黒の軍勢も、巻き上げられて吹き飛ばされた。


 やがて力の本流は一点に収束し、取り込まれる。


 身体が薄く輝き始めた。


『今は、この場から消えよう……だが次に会ったときは――――貴様の最後だ』


 宣戦布告をする。


 しかし消える直前。


 最後に聞こえた声は。


 侮蔑と嘲りの笑い声だけだった。












「――は」


 少年はガバッと起き上がった。


 何か酷い夢を見た気がするが、とっくに記憶から消え去ってしまった。


 顔も寝間着も汗でぐしょくしょに濡れている。


 額の汗を拭おうとして、気づいた。


「……涙?」


 少年は知らないうちに泣いていたようだ。


 それほどまでに辛い夢だったのか。


 わからないがこれで同じ様な起き方は今週に入って6度目。


 つまりは今のところ毎日だ。


 今までこんなことは無かったはずだが……とりあえず。


「準備しなきゃな」


 ベッドから起き上がり、少年は部屋から出ていった。

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