1
「これでよし。」
店先に綺麗に並べられた花たちを見て、ランスロットは満足そうにうなづいた。
いつもやっていることなのについついそうしてしまうのは、小さい頃からやっていたためなのか。
レイノラント王国の中心地から少し離れた場所にランスロットの花屋はある。
祖父の代から続いているこの花屋は庶民の間ではとても重宝されていた。
それは様々な花があるからだけでなく、出迎える店員の気の良さもその要因の一つだろう。
ランスロットーー通称ランスーーの両親に、幼馴染で看板娘と言われるアレシア、最近では13になったばかりの妹のカレンも手伝ってくれている。
もともと庶民間の繋がりは強い国だったためか、客との関係も薄いものではなかった。
「そろそろ店開けるわよ?」
アレシアがひょっこり店内から顔を出して言った。
「ああ、そうだな。」
そう返事をすると、花の蕾の絵が描かれた看板をひっくり返し、マーガレットが描かれた方を表に向けた。
これがランスの花屋が開店している目印だ。
とても平和な国のレイノラント王国だが、身分の差はとてもはっきりしている国だった。
貴族間の身分も階級によって大きく扱いが違い、庶民に関しては王族の者を見るどころか、城の近くにも近寄ることもできない。
そして、その身分格差は教育にも、とくに識字率に顕著に現れていた。
平民の殆どは字を読むことはできない。
読めるのは貴族たちと有力商人くらいだ。
学校自体が存在しないこの国では、親が教えることが全てだった。
つまり、親が知らない限り子供はもちろん分からない。
数字は読めるし、計算は比較的できる者が多いが、それは商売をするための手段でしかない。
人との繋がりの強さも手伝ってか、あまり字を書こうという気になるものもいない。
直接話した方が早いし、正確だと思う者が多いのだ。
だからこそ、この看板も字ではなく、絵を使っている。
最も、ランスはある理由から字は読めるのだが。