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シーン2

「会議、長いですねー」

「大体、いつもぉ」

「こんな、もの」


 ルリーナとニナとナナは、王城の一室で待機していた。王都待機中のエセルフリーダに与えられた部屋の一つである。

 ヨアンもまた王都に来ているが、今は会議場でエセルフリーダの後方に控えているはず。

 未だ、この国では貴族ではないルリーナに、議会へ参加する権利はない。


「気をもんでもしょうがないからぁ」

「お湯でも、飲む」


 ニナとナナのいれたお湯を飲みながら何とはなしに部屋を眺める。

 悪くない部屋だ。帝国時代に作られたものか、床から柱から主要な部分は石造りで、これは獅子王国になってからだろう。調度品は無骨ながら重厚な作りとなっている。

 鉄作りのシャンデリアが天井で固定され、窓には硝子すら嵌められている。使用人が待機する間にしては、随分と豪奢なものだ。

 この城に来たのは二度目だが、さすがは王城。戦乱のウェスタンブリアであっても典雅さは失われていない。


「でも、確かに今回は」

「一段と、長い」


 これほど議会が紛糾したのは、ルリーナが闘技会に出ていた時ぐらいだという。

 その時はエセルフリーダが貴族に叙任されるなど、いろいろと議題があった。

 前回から連続で、今回の議会が紛糾しているのは、王女がこれを招集しているからだろうか。

 王が倒れているために、今回の議会開催は多少の遅れを見せていた。それこそ、ルリーナの傷が移動できるほどに回復するくらいには。

 未だ包帯を巻いたままではあるが、粗方、傷は塞がっていた。エレインの治療のおかげである。そう、エレインの。

 しかし、あの治療法は何だったのだろうか。こう、ルリーナの心に残った乙女の部分が全力で悲鳴を上げるような……。

 生傷の絶えないヨアンは、毎回あの治療を受けているのだろうか……いや、考えまい。


「しばらく、ミミズは見たくないですねぇ」

「あー、エレイン様の治療」

「効くから、恐い」


 それだけで何の話か解る時点でおかしいし、ナナは珍しく怯えるような顔をしていた。

 こう、魔女的な、いや、魔女そのものから習ったと言っていたか。

 閑話休題。

 今回の議会招集は王女から発せられた。いまだ、王は病床から今なお離れられず、摂政をつけて王女が獅子王国を掌握しているのである。

 戦場であれほどの活躍を見せた王女を無下に扱うことは、誰もできないだろう。

 今回の戦で活躍した、といえば、エセルフリーダとご老体の軍も外せないだろう。

 これにより、それぞれが、議会での発言力を増した形になる。

 エセルフリーダらは、その後の敵の逆襲を誘発したという論点で攻められれば弱いところではあるが、それを防げなかった他の諸侯も突きがたい点ではあるまいか。

 もしも王女がエセルフリーダを援護すればそれが一番ではあるが、というのがルリーナの考えるところであったのだが、ルリーナの思考にも抜けているところはある。

 実際には、王女派と呼べるような家臣団、というにはまだ明確なものではないが、集団が生まれ、エセルフリーダもその成り立ちから潜在的に王女派であると思われていた。

 この国の貴族制度、あるいは議会の内容について知る由もないルリーナには考えもつかないことだった。と、後に思い出すところではあるのだが。

 そうこう考えているうちに、扉が叩かれた。


「はーい」

「エセルフリーダだ」

「今開けます!」


 本来、ニナとナナの仕事だろうが、ルリーナは扉に駆け寄ると、それを勢いよく開けた。

 そこには、少々、困惑気味の顔をしたエセルフリーダが居た。何があったものかと、ルリーナも思わず息を詰める。


「その、この前の件だが、どうにも無理そうだ」

「この前の、というと」


 エセルフリーダに剣を捧げる、という件だろうか。目の前が暗くなる。


「あら、めまいが」


 思わず、貴婦人のような対応をしてしまう。具体的には額に手を当てて倒れるやつ。

 コルセットは付けていないけれど、丁度、この前血を失っているのでうまくやれそう。


「いや……いや、騎士になれるのは確かなのだが少々ややこしいことに――」

「お久しぶり、おねーちゃん」


 エセルフリーダの後ろから顔をのぞかせて、手を振ってみせたのは、さらさらの金色の髪に、蒼玉の瞳をもった少女。

 少女と言っても、ルリーナよりさらにいくつか年下だろう。十台になったばかりか。鈴を転がすような声と言い、華奢な肢体といい、実に可愛らしい子供である。


「あっ、貴女は以前この街で会った……」


 確か名前は――


「アイラさんじゃないですか!」

「覚えててくれたの? うれしい!」


 そう言って笑顔で抱き着いてくる彼女。ルリーナも悪い気はしない。


「やっぱり貴族さんだったのですねぇ」

「うーん、まぁ、そんなものかな?」


 と、そこでエセルフリーダが頭を抱えているのが見えた。酷く疲れているように見える。


「あー、ルリーナ」

「はい?」


 彼女はそこで言いよどむ。どう伝えるべきか悩んでいる様子。一つ溜息をつくと、ルリーナの目を見る。


「君が話しているその御方は、獅子王女殿下その人だ」

「えっ」


 抱き着いてきているアイラの顔を見れば、悪戯大成功、というような、ずるい笑顔でこちらを見上げていた。

 咄嗟に後ろをみると、ニナとナナが最敬礼の姿を見せている。どうやら、本当の事のようだ。

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