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シーン6

「敵さんおよそ二千から二千五百、といったところでやすぜ」

「それはまた大会戦ですねぇ……」


 竪琴王国がリュング城の戦略的有用性を、どれ程に捕えているかも解ろう。

 その内、一千程が騎兵。それもほぼ騎士、という贅沢な編成だというのだから驚きだ。

 城攻めとなれば騎馬の機動性は潰せるが、それでも甲冑を着こみ、武術を身に着けた騎士の脅威は変わらない。

 しかも、敵の数はそれだけでもあるまい。これからもその数は増えていくだろう。

 一方、獅子王国の側も当然、ただ見ているだけではない。四千からなる大軍勢が逐次、到着予定だ。

 報告を終えたコウを労い、隊に戻らせると、ルリーナは眼下の平原を望む。

 竪琴王国の本陣は、こちらからは見えない位置に展開しているが、主戦場となるだろう平原はよく見える。

 点々と広がる森、村落、中央を縦断する街道と、なだらかな傾斜以外は、特に見るべきところもない。

 地平線の向こうまで、そのような光景の広がるそこは、大会戦に相応しい戦場と言えるだろう。


「おう、隊長は飲んでねぇんすね……」


 頭を抱えたカメが、傭兵らとともに中庭に出てくる。

 どうやら二日酔いの様子で、ふらふらと彷徨い出てくる彼らの様子は、さながら亡者の行進である。


「おはようございますー、まぁ、私はまだやる事がありますからー」


 ルリーナは目を上にやる。太陽は中天に差し掛かる所で、もう昼間だ。


「カメさん達は何をしに?」

「いやぁ、酔い覚ましも兼ねて、ちーっと運動でもしようかと」


 彼らの後ろから少年少女らが、槍を抱えてえっちらおっちら歩いてくる。


「なぁ! 俺にも武器の使い方教えてくれよ!」

「あー、解った解った」


 解ったから騒ぐな、頭に響く。と、バリーに絡まれた傭兵の一人がげんなりとした顔で応える。


「いやぁ、本当に好きですねぇ」


 兵にとっては、休めるときに休むのも仕事である。

 訓練を行うのも良いのだが、いざと言う時にそれでへばっていては意味がない。


「ただ待っている、というのも落ち着かないんですぜ」


 そう言ったのは、一人、酔いの残っていない顔をしているチョーだった。


「そんなものですかねぇ」


 なお、民兵の姿は見えなかった。

 滅多にない、溺れるほどの酒の機会に正体をなくして、倒れっ放しのようだった。


「そういや、歩兵隊はあの装備で行くんですかい?」

「まぁ、使い慣れている物が一番ですからねぇ」


 あの装備、とは、初めに揃えた大きな丸盾に、片手で扱える短槍というそれだ。

 忌憚なく言ってしまえば、数百年ばかり古い。

 盾の壁は確かに歩兵同士でぶつかり合う戦場では、一定の価値があるだろう。

 数百年も前の騎士の居ない戦場であれば、騎兵の投げる投槍や、振るう剣を受け止め、受け流す事も出来た。

 現在は、となると、人馬一体となる騎兵槍突撃を受ければひとたまりもないし、歩兵が両手に持つような長柄武器を相手にすれば、間合いの差から耐え続けるしかない。

 それだけ言うと劣っているように思えるが、重要なのは練度だ。

 例えば昨日今日、斧槍を持った農民に、長く剣に親しんだ騎士が敗れることは滅多にないだろう。そんな状況が起きれば、だが。

 結局は、戦場に持っていくならば、慣れたものが一番良い。どうせ理想的な使い方ができる環境になるかも解らない。


「うん、なかなか見事なものですね~」


 カメの号令一下、盾の壁が一瞬で裏返り、後ろを向く。

 この統制された戦力を、使わない手はないだろう。


「しかし、戦場が近いのは楽なもんですな」

「行軍で消耗、とか考えなくても良いですからねぇ」


 おおよそ、戦となれば、一番長いのは行軍の時間だ。続いて、会敵までの待機時間。

 そして、投射戦が始まり……本格的な衝突、というのは、あっという間に終わる。

 混戦の様相を呈している、と言っても、一人一人が戦っている時間はそう長くはない。

 あっという間に戦力が消耗されるために、避けられるなら避けたいし、実際、一度の会戦でなにもしなかった。という者も少なくない。


「今回もそうなってくれれば良いのですけれどねぇ……」


 戦を本分にしている。と言っても、傭兵と諸侯らには、決定的な違いがある。

 諸侯らは領地を持ち、そこから徴用した兵を用いるために、一度の戦で消耗したところで、多少領地が痩せるだけだ。

 一方、傭兵の場合は、戦力、つまり人間そのものが収入に直結する。建て直せない程の損害を受ければ、そこまでだ。

 三々五々に他の傭兵隊に移れれば幸い。或いは食い詰めて盗賊にでもなるかが落ちである。

 傭兵隊同士が戦力を見合って談合を行う、と言う話もあるが、実際、そうできるものならそうしたい。というのが本音である。


「とはいえ、そうも言ってられませんね」


 ルリーナの目標は、騎士として抱えられること。そうともなれば奮戦するしかあるまい。

 功を焦る気もないが、無様な戦い様を見せる訳にはいかない。

 それに、兵を預かっている以上、その期待には応えなければならないだろう。


「そう、一蓮托生……なのですから」


 明らかに戦の事ではなく、エセルフリーダと運命共同体という方に重きを置いているような言い様だった。

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