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シーン6

「姐御ぉ、次の休憩はまだかぁ?」

「んー、ここで三分の二くらいですかねぇ」


 街を出てから三日目、旅の始まりは元気だったバリーら少年団も、延々と続く徒歩行軍にうんざりとしてきたようだ。

 疲労困憊とならないようにと、半刻に十分ほどの休憩は挟んでいるのだが、これが寧ろ足に来る。

 リュング城伯領には既に入っていると言う事で村に寄りはしたが、城に近いと言う事で殆ど滞在はしなかった。


「こんなに歩いたのは生まれて初めてだぜ……」

「無理せず荷物はこっちに置いてもいいですよ?」


 いやそれは嫌だ、と彼は言うと歩調を早めて先に行く。どうにも意地になっているらしい。

 まだまだ青いなあ、と苦笑するものの、その意気は悪くない。いや、良くも悪くも、という所か。


「大将」

「その呼び方やめましょうよ……はい?」

「この先も異常はありやせん」

「りょーかい、お疲れ様ですー」


 野外行動の訓練も兼ねて、戦時と同様の動きをさせているため、一部の兵は武具を装備しているし、斥候は出している。

 少年団にも、行軍に慣れさせる意図で馬車に乗る荷物も一部振り分けていた。これは自発的に持つ量を増やしている者も居たが。

 ルリーナ自身は馬車に乗って楽な物ではあるが、いざと言う時の戦力であるし、今更、という所で咎めるような者はいない。

 寧ろ、騎士らを恨めし気に見る者がいるが、


「馬に乗っている、というのも意外と辛いのですけれどね」


 常に手綱を握って、揺れる背に跨り、周囲に気を付けてやらねばならない。

 今も、姿勢よく騎士らは軍馬に跨っているが、これを崩せば目に見えて動きが悪くなる。

 ただ跨っているだけに見えて、意外と体力を削るものだ。勿論、鞍は疲れ難いように工夫されてはいるし、徒歩よりは楽なのは確かだが。

 それも慣れているからであって、徒歩の兵を馬に乗せると、中々に面白い事になる。


「しかしまた、暗い森ですねぇ」

「開拓の手がどうにも進んでいなくてね」


 エセルフリーダ隊の列から下がってきたヨアンがルリーナに答える。


「こっちに下がってきて良かったんです?」

「いやぁ、自分もあの列では居心地が悪くて」


 冗談めかして言ってはいるが、純然たる本音だろう。

 武勇を以てよしとする騎士達の中で、主の筆頭騎士とされているにも関わらず、という彼の負担も推して知れるところではある。


「それはさておき、この森を抜ければリュング城が見えてくるよ」

「あら? もうそこまで来てましたか」

「麓で一旦休憩は入れる予定だけど……」


 そこでヨアンは口をつぐむ。


「だけれど?」

「それなりに厳しい道だから、注意しておいた方が良いかな、と」


 ふむ、とルリーナは頷く。山城と言うだけあって、攻め難く作ってあるだろう。

 騎士達が通れるからには、ある程度は整備されているのであろうが、登山となると確かに辛そうだ。


「おっと、言ってたら森が拓けるな」


 鬱蒼とした森を抜けると、そこには広大な湖が広がっていた。

 視界の左半分を湖が埋め、その奥と右側には高く、壁のような山が聳える。

 山肌を縫うように蛇行した道が走り、頂上近くには、岩盤を削り取ったように城が聳え立つ。

 まだ距離は離れているものの、その風景は十分に壮大だった。


「綺麗な湖ですねぇ」 

「水も綺麗だから、魚釣りにももってこいだよ」


 湖の横には、小規模な村があり、また、桟橋に小舟が浮かんでいるのが見えた。


「ふーん。何が釣れるのですー?」

「トラウトが名産かな。今日の夕飯は、期待して良い」


 それでは、と手を挙げてヨアンが隊列に戻っていく。


「中々……高いでやすねぇ」

「こいつぁ、攻めづらいに違いねぇ」

「運べる荷物も限られそうだ」

「魚料理、最近してませんね」

「隠れる所ねぇでやすなぁ」

「姐御、やっぱり荷物下ろしていいかな……」


 等と口々に傭兵らが言う。ようやく見えた終点と、中々に厳しい上り坂に、複雑な胸中のようだ。

 村の間近に足を止め、各々休憩の準備にかかる。村からは急ぎ足で村長らしき人物が寄ってきていた。


「これはこれは領主さま、お早いお帰りで」

「少々、不穏な動きが見られてな」

「また、国境ですか」


 村長が渋い顔をする。戦ともなれば、村の若い者は連れられ、税は取られる。

 彼の立場からすれば、歓迎はできないものだろう。


「また旦那様の土地を取られるのは御免でございますからなぁ」


 協力は惜しまない、という趣旨の事を彼を述べる。

 意外な事に、と言うべきか、通ってきた村々でも、リュング城伯に対して村人たちは好意的だ。

 どのような統治を行っているかは知らないが、寧ろ、彼女の正当性に言及しているように思えた。

 今も言を重ねる村長の姿には、機嫌取りに嘘をついているような気配もない。


「ふーむ、中々」


 悪くない。これなら領民らの士気も期待できるのではないだろうか。

 それを心配していなかったといえば嘘になる。

 リュング城伯が一帯を統治し始めたのは以前の戦の頃と言うし、鉄兜の言によれば、敵方の領地であったと言う事で、反感を持たれてはいないか。という所だ。

 村にとってはどちらの領土であろうと変わらないとはいえ、直接当たっている可能性もある。

 この様子を見るに、どうやら杞憂であったようだが。


「さーって、ここを登ればエセルフリーダ様の居城、もうひと頑張りですよー」


 道草を食むスリーピーとスケアリーの首を叩いて労いつつ、山頂の城を見上げる。

 しかし本当に難儀な場所に建てたものだ。

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