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ウェスタンブリア傭兵伝記~成りあがって結婚したい!(百合)  作者: 皐月 海裡
第6話 チキチキ! トーナメント 後編
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シーン5

 さっくり、と。

 剣を振り下げたルリーナは目を白黒させた。

 木を張った床に剣の先が刺さっている。

 地面に剣を当ててしまったのは、長さを見誤ったルリーナのせいであったが、それでも跳ね返って切り上げられるだろうと踏んでいた。

 が、実際には何の抵抗もなく、剣を引き抜いて一歩下がれば、床には深々と傷が残っている。

 思わず刀身を確かめるが、刃に欠けは見当たらなかった。


「随分と良い剣使ってたのですねぇ……」

「何をぼそぼそと言ってやがる!」


 開いた間合いを一歩で詰めて、風を巻いたメイスが迫る。

 ルリーナはそれをさらに一歩飛び退って避けると、振り下げられた腕の上から小さく切りつける。


「つっ!?」


 撫でるような一撃で、防御力を高めるためか腕に巻かれた鎖に阻まれた斬撃だったが、弾かれたように男が下がる。

 見れば鎖帷子の袖に、切れ込みが出来ていた。たらり、と、血が一筋手を伝う。

 傷は浅いようだが、男は警戒感を強める。間合いを詰めれば、という訳にはいかない。


「そういえば」


 そんな男に、ルリーナは軽く血振りをすると話しかける。


「例の鉄兜とか、お仲間さんは来ないんです?」

「……さて、どうだろう、なっ!」


 攻める機会を与えないような、男の連撃がルリーナを襲う。

 数合打ち合ううちに、時にぱっ、と血が舞った。それは全て男の物だ。

 男はメイスだけでなく、時に掴み、蹴り、殴ろうとするが、ルリーナは最小限の動きでそれを切り払う。


「ふーむ。鉄兜程ではない。と」

「うるせぇ!」


 反撃に転じたルリーナに、男は徐々に追い詰められていく。

 ここが攻め時、と、ルリーナは少々力任せに男のメイスを弾くと、横面を狙って一撃を繰り出す。

 確実に獲った。そう思える一撃だったが、ルリーナの予想外に、その剣は男の顔のすぐ横で止められる。


「ぬっ?」


 男が右手に持ったメイスの柄頭から鎖が伸び、その先は左手に握られている。

 何時の間に解いたか、手首に巻いていた鎖は、メイスに繋がった武器の一部だったらしい。

 ピンと張った鉄の鎖は、それでも柔軟に斬撃を受け止める。

 冷たい物を感じて、ルリーナは一歩引き下がった。


「避けんな!」

「っ!?」


 追撃で鎖の先に付けられた分銅が襲いかかる。

 恐らく、間合いが近いままであれば、その鎖で首か腕を狙ってきただろう。

 廊下に倒れている衛兵たちが血を流していなかったのも納得だ。


「変な物使いますねぇ……」


 変わり武器というのは、一対一の戦いではそれだけで脅威になる。

 手の内、とは言ったものだが、高い基準の戦いであればあるほど、相手がどのように動くかの読み合いとなる。

 幾ら変則的にしたとしても、同じ武器を効率的に振るう以上、似たり寄ったりの技となるが、それが見た事のない物となると、動きが読めないのだ。


「まぁ、そんな事は関係ありませんがねぇ!」

「くそっ」


 ルリーナは、今まで以上に苛烈に切りこむ。

 要は相手のペースに巻き込まれず、自分の土俵まで引きずり降ろしてやればよいのだ。

 屋内では、思ったように鎖分銅を振り回す事もできまい。それを男は体術で補うつもりのようだったが、そう易々とそれを許すわけがない。

 男は鎖で剣を受け止め、あわよくば巻き取ってやろうと、あの手この手と小手先の技を繰り出すが、ルリーナはその全てを力任せに振り払う。

 防御をかなぐり捨てた姿勢の末、遂にメイスの一撃がルリーナの脇腹を襲った。


「ごほっ!」


 息が詰まり、目の前が一瞬暗くなる。肋骨が一、二本折れたか。

 さらには首を狙って繰り出された鎖が絡み、何とか差し込んだ左手と共にぎりぎりと締めつけてくる。

 しかし、その瞬間には片手打ちにしたルリーナの剣が男の肩から胸までを切り下ろしていた。

 引き伸ばされた一瞬。確かに命を奪った感触、筋線維を切り裂き、臓腑を食い破る手ごたえをルリーナは感じる。

 びちゃり、と、水を詰めた革袋を壁に叩きつけたような音を立てて、事切れた男が倒れた。


「ごほっ、ぐ、うぅ、生かして捕えるつもりだったのですがねぇ……」


 鈍く強い痛みを歯を食いしばってこらえ、ルリーナは片膝をついた。

 許容量以上の痛みがあると、人間動けないものである。

 まぁ、ここにカメやチョーが居れば『隊長も人の子だったんだな』等と失礼な感想を抱いただろうが。

 息をするたびにキリキリと痛む脇腹を抱えて、浅く呼吸を繰り返す。

 痛みの波が寄せては返し、意識は寧ろ明瞭に研ぎ澄まされる。

 自らの鼓動が耳に五月蠅い。鋭くなった聴覚の端に、どたばたと大勢が廊下を走る音が聞こえた。


「こ、これは!?」


 扉が開かれたその先には、衛兵達と何処かで見たような鎖帷子にサーコートを纏った貴族風の男が立っていた。

 漂う血の匂いと、部屋の惨状に目を見開いて唖然としている。


「王城を血で汚してすみませんねぇ」


 ルリーナの言葉に、サーコートの男は顔を引き攣らせた。

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