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ウェスタンブリア傭兵伝記~成りあがって結婚したい!(百合)  作者: 皐月 海裡
第6話 チキチキ! トーナメント 後編
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シーン4

 初めは非常時とはいえ城内であるからと早足でリュング城伯の下へ向かっていたルリーナと衛兵だったが、廊下の隅、柱に隠れるように倒れている侍女の一人を見て、顔を見合わせる。

 幸い、息はあるようだったが、どうやら既に襲撃者は先に進んでいるようだ。


「部屋は何処か」

「は、はっ、部屋はこの先を右に曲がり二つ目の扉であります」

「貴官は増援を呼びに行って欲しい」

「はっ!」


 本来、衛兵としてはルリーナの指示に従ういわれもなく、職務的には部外者を一人で歩かせるのも論外であったが、ルリーナの有無を言わせぬ口調と雰囲気に押され、思わずその通りにしてしまう。


「警備が心配になりますねー」


 自らも襲撃を受けているし。ルリーナはやれやれ、と首を振ると、言われた部屋に向かって駆け出す。

 初めに見た侍女以外にも、数人の衛兵が既に倒され、転がっていた。

 意識の有る者はどうやらいないようで、但し如何なる手段を用いたか、血も流れていない。

 息が有るかを確かめている場合でもない。と、ルリーナが部屋の扉に手を掛けると、中から何か堅い物を打ちつけ合う音が聞こえた。

 一つ深呼吸。鞘を払った剣を片手に、一息に扉を押し開ける。


「おっじゃましまーす」


 緊張感に欠けた声に、部屋の中で剣を振るっていた女性と、それと向き合ったメイスを握った男が一瞬動きを止めた。

 互いに顔色を伺い、どうやらどちらの知り合いでも無い事を確認しているよう。

 男の方は大柄な体格に鎖帷子。覆面を付け、防御力を高めるためか、右腕に鎖を巻いた如何にもな不審者の恰好をしている。

 女性の方を見て、ルリーナははっと息を呑んだ。

 手入れを怠っているのか多少痛みながらも、それでも艶やかな白銀の髪を肩の辺りで切った髪が、少し汗ばんだ白皙の肌に一房張り付き、凍土の湖を思わせる猛禽の瞳が鋭く敵を睨み付ける。

 引き締まった体を男物の鎧下に包み、すらりと伸びた手足は正に肉食獣のそれ。手に持つのは武骨な、しかし良い鋼を用いているのが見ただけでも解るような細身の片手半剣。

 その背には貴婦人、エレインを庇う。まさに、騎士といった風情だ。


「ルルさん!」


 数瞬、時間が止まったかのように感じていたが、エレインのその声にルリーナは気を取り戻す。


「ルリーナ・ベンゼル! 義によって助太刀します!」

「有り難い」


 女性の声はまた、鋭い刃を思わせる物だった。

 しかし、よく見ればエレインにそこはかとなく似ている気がする。

 話には聞いていなかったが、エレインの姉か親族だろうか?

 

「ちっ、他のヤツは何をやってやがる!」


 前後を敵に挟まれた、メイスを持った男がエレインの姉に向かって力任せにそれを振るう。

 そのまま受けるのは愚策。細身の剣はおられるやも知れぬ。かといって、後ろにはエレインが居るので下がる訳にはいかない。

 どうするか、と見れば、すっと剣尖が動いた。

 手首を下から支えるような動き。そのままメイスが振られていれば、男自らの力でその手首を両断していただろう。

 咄嗟に下がった男に、今度はルリーナが突きかかる。

 男は地面を転がるようにして、これもまたどうにか避けた。

 これは好機。ルリーナは男を壁に追い詰めるように対峙する。


「エレイン様を連れて今のうちに!」


 そう言われて、エレインの姉は数瞬考えるような顔をした。

 確かに、今ならば扉への道は確保されている。


「ふむ、良かろう。ベンゼルと言ったか。ここは任せた」

「はい!」


 傷ついた友の望みを継ぎ、貴婦人を逃がすために戦う。

 これほど、騎士に相応しい戦いが有るだろうか。

 何処にいるか解らないリュング城伯の事は、頭からすっぽ抜けていた。

 既に逃れた後だろう。くらいに思っておく。


「武運を祈る」

「ルルさん、どうか御無事で……」

「ありがとうございます!」


 ただそれだけの一言ではあったが、ルリーナからすれば元気百倍といったところだ。

 ついでに言うと、危ない感じに頬が紅潮して、顔がゆるんでいたのだが、幸い、背を向けていたお陰でエレインたちにそれは見えなかった。

 扉から彼女らが出ていくのを確認したルリーナは、表情を引き締めた。


「さて、貴婦人を襲う悪人さん。覚悟は良いですか?」

「畜生、小娘が調子に乗りやがって」


 メイスを持った男は忌々しげにルリーナを睨みつつ、幾度目か解らない舌打ちをする。

 目の前の小娘の隙を観察しても、どうしても逃がしてくれるような隙は見つからなかった。

 そもそも、正面からの戦いになった時点で、失敗だった。そう思った所で後の祭りだ。


「くらえ!」


 出方を伺うように繰り出されたメイスの一撃を、ルリーナは容易く受け流す。

 受け流しながら、ルリーナは彼我と周りの状況を再確認する。

 間合いの長さで言えば、ルリーナが小柄な分を加えても、剣の方が上。

 しかし、それが必ずしも利するとは限らない。

 部屋は狭くはなかったが、上に振り上げれば、容易く天井に剣が当たるだろう。

 そこここに置かれている立派な調度も、今は剣を振るう邪魔にしかならない。

 しかも、目の前の男は鎖帷子を着こんでいる。一方ルリーナが纏うのは布の服だけだ。


「まぁ、大して変わりません……ねっ!」


 次はこちらの番だ、と言わんばかりにルリーナは担ぐように剣を振り上げた。

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