シーン7
「まったく、アイラのやんちゃ振りには困ったものですわ」
「ごめんなさい……お母様」
「この齢の子供なら、これくらい元気なほうが良いさ」
「貴方がそうやって甘やかすから」
王城の一室、豪奢な調度の並ぶそこで、アイラはその両親にお叱りを受けていた。
床には赤い絨毯が敷き詰められ、一つ一つの椅子でさえ、羅紗や絹を張られた柔らかそうなそれだ。
夜なお明るく見えるほどに蝋燭が立てられている。
お叱り、といっても母親は苦笑交じり、父親は笑い混じりだったが。
「申し訳ありません、拙者が付いていながら」
「いえ、いえ、ドミニクの所為ではありませんよ」
アイラの母は片膝を付き、頭を下げたドミニクに鷹揚に応える。
「ごめんなさぁい……」
アイラは如何にも反省した風に俯いた。
「ほら、アイラも反省しているようだし、今日はもう遅い。とりあえず寝ようじゃないか」
アイラの父はひらひらと手を振る。
巌のような顔の目元には、若干の疲れの色が見えた。
銀器の杯を開けると、目元を揉む。
「アイラ、もう勝手に出て行ってはだめだぞ」
「はぁい」
「まったく……おやすみなさいね」
「おやすみなさぁい」
部屋から出ていく父に従って、母親もおやすみの声を懸けると、一つ口づけをして離れていく。
二人の足音が消えるまで待って、アイラは口を開いた。
「……勝手に、じゃなければいいのかしら?」
「お嬢様」
ドミニクの咎めるような声に不貞腐れたような顔をする。
「毎日毎日、お城の中では気が滅入っちゃうわ」
「心中お察ししますが、どうか御自分の立場を考えて頂きたいものですな」
「そうは言うけれど……」
あーあ、とつまらなさそうに足を振る。
「でも、今日は良かった」
「あの傭兵殿ですか?」
「うん。あのお姉ちゃん、欲しいな」
くすりと笑ったアイラに、ドミニクは眼を光らせる。
「では、そのように……?」
「ううん、ドミニクは何もしなくていいの」
「御意に」
アイラはルリーナから渡された硝子細工を、蝋燭の灯に透かして見る。
「きっと、自分で上がってくるわ」
楽しみね、と言って笑うアイラに、ドミニクは深々と頭を下げた。
小さなお姫様 編 終了




