シーン7
「世話になったな」
「いえいえ~、名前だけでも覚えておいていただければー」
朝早く、黒騎士らとエレインの乗る馬車は出立の準備を整えていた。
昨晩の内に報告を走らせておいたのだが、一日も待たずに出るとは随分と急いでいる様子である。
「忙しなくてすまない。何かあれば、リュングの城か……もしくはこの先で会うかもしれないな」
「この先どちらへ向かうのです?」
「広大なる平原の街だ。休戦となったので王が宴を開くのだよ」
戦での労をねぎらい、褒賞を与える事を目的とした宴で、彼らの主であるリュング城伯の正式な叙任もそこで行われるらしい。
「模擬試合も行われるのだが……ルリーナ殿も良ければ来てみると良い」
「ほう? 私も参加できるんです?」
「ああ、優秀な人材を探すのも目的だからな。やはり戦で……いや、なんでもない」
戦で減ったから、と言おうとしたのだろう。
気にすることもないのに、とルリーナは苦笑する。
「上手い事仕事が有れあば、そちらの方へ向かわせて頂きます~」
「ああ、そうすると良い」
からからと音を立てて、馬車が近付いてくる。
どうやら準備も整ったようだ。
「では、また会おう」
「ええ、いずれ」
黒騎士は一つ礼をすると、隊列に戻り歩み始める。
馬車の窓から覗いたエレインが、こちらに向かって手を振った。
大きな声を出すようなはしたない事はしない。
ルリーナも一つ、スカートを持ち上げる礼をして見せた。
如何にも仰々しい礼にエレインは微笑を深めた。
去っていく馬車と隊列の後ろ姿を見送って、ルリーナは背を向けた。
今日一日は諸々の準備で過ごすつもりだ。
まだ朝早く、店も開いてはいない。
遠ざかっていく蹄鉄の音が聞こえなくなると、僅かに鳥の囀りが聞こえるのみだった。
まだ涼やかな空気に一つ伸びをする。
「さって、もう一眠りでもしますかねぇ」
「おっ、隊長! 御貴族様方はもう行っちまったんですかい?」
ルリーナを探してか、カメが宿の方向から歩いてきた。
「あら、カメさん、傷の調子は良いのですか?」
「そんなもん唾つけときゃ治りますぜ!」
カメはそう言って怪我した側の腕をぐるり、と回して見せる。
平気そうな事を言いつつも、途中で眉を顰めた。
「熱とか出たら大変ですから、ちゃんと養生してくださいよー」
「へへっ、なに言ってるんですかい。これからパーッと飲んじまおう、って話をですね……」
「へぇ……」
ルリーナはカメの肩を強めに叩いてやる。
「あいった!」
「傷が開いても知りませんよ」
蹲ったカメに苦笑しつつ、ルリーナは宿への路を歩く。
閉じた扉越しにも、既に賑やかな声が聞こえていた。
「まぁ、今日ぐらい良いですかね~」
なんだかんだでいつもこんな事を言っている気もする。
まぁ、良いのだ。働くときは働いて、休むときは休む。
生きている内に楽しんでおいても罰は当たらないだろう。
街の中心に建てられた尖塔の鐘が鳴る。
昨夜のうちに運ばれた傭兵達の遺骸は、丁重に葬られるように頼んでおいた。
傭兵達は常に墓に入れるとも限らない。
戦場であれば、或いは野辺に朽ちるか、纏めて掘った穴に放り込まれるか。
故に葬儀に参加することも、納棺に立ち会う事もない。
ただ死者を悼んで一つ杯を机に打ちつけて、それで終わりだ。
「それでは一つ、戦友に乾杯です」
「乾杯」
明日をも知れない身なのは誰もが同じだった。
だからこそ、亡き戦友の事を忘れまい、とするとともに、その話題は口にせずにただただ飲んで、騒ぐ。
いつまでも、戦いの日々は続く。あるいは死する時まで。
だがそれは、彼らの選択だった。
突撃! 隣の盗賊団! 後編 終了
ルリーナ傭兵隊(仮)
総員:18名+2頭(内:基幹隊員4、歩兵隊4、弩兵隊3、未決定7名)
隊長:ルリーナ・ベンゼル(元貴族/無冠)
分隊長:カメ(歩兵)、チョー(弩兵)、コウ(斥候)
交渉係(歩兵兼務):ショー(元商人)
料理係(歩兵兼務):リョー(元宿屋従業員)
馬:スリーピー、スケアリー(ポニー/荷馬)
他:歩兵2名(損耗:2/死亡)、弩兵3名、未決定(元盗賊)7名




