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シーン6

 盗賊の死体は検める為にまとめ、友軍の死体は即席の担架を用意して街へと。

 再度洞窟を調べていると、寝床の奥はどうやら倉庫のようになっていた。

 そこには幾つもの袋や箱が乱雑に重ねられている。


「さって、おったからおったから~っと」


 アジトに残された収奪品は、傭兵団の物だ。

 真珠の港からの隊商を襲っていただけあって、金銀財宝とまではいかないものの、中々の財産になりそうだった。


「中々、悪くないですね~」

「これだけあればしばらくは安泰でしょうな」

「なかなか溜め込んでやがるな」

「ちゅーちゅーたこかいな、っと」

「でもこれって盗んだものなんすよね?」


 日和った事を言うリョーに、全員が生暖かい視線を返す。


「えっ、えっ、なんすか?」

「なんでもねーよ。おめぇはそのままで大丈夫だ」


 カメに肩を叩かれて尚、困惑を深める彼は放っておく。


「ショーさん、これ後で換金しといてください」

「明日一日使っても問題ねぇですかい?」

「ええ。この分は山分けで行きましょう」

「まじっすか!」

「自分たちの武具を揃えるのを優先してくださいね~」

「勿論解ってますぜ!」


 今から金の使い道について話し合う傭兵達が、本当に解っているのかと苦笑しつつ、ルリーナは後処理を指揮していく。

 戦闘に参加出来なかった上に初めての友軍の死があったが、報酬がある、と解れば傭兵達の動きは格段に良くなった。

 実に現金なものである。


「後は公儀のお仕事ですねー」


 ぱんぱん、と皮手袋を付けた手を叩いてルリーナは辺りを見回す。

 四半刻ばかりかけてそこはすっかり片付けられていた。

 それぞれに戦利品で一杯の袋を担ぎ意気揚々と引き揚げ始める。

 後に残されたのは、金にならなさそうな雑然としたものと整然と並べられ賊の死体だけだった。

 

「隊長! 裏に馬がいやしたぜ」

「おお、それは有り難いですね~」


 外に出ると、隠れる必要もなくなったために松明で明るく照らし出されていた。

 暗い中や、隠れて窺った時には広く見えた物だったが、光の下で見ると随分と手狭い印象を覚える。


「おいおい、落ち着けって」


 盗賊が飼っていたらしい小さなポニーは見知らぬ人間に囲まれているためか、随分と落ち着きの無い様子だった。

 落ち着きのない、というよりも怖がっているのだろうか。

 ふむ、とルリーナは顎に手を当てて、スケアリーと呼ぼう。等と考えていた。


「おう、大将。よくぞ御無事で」

「いやぁ、助かりましたよー」


 元盗賊の面々は、それぞれに周囲を張っていた。

 逃げ出した者も、新手の敵もどうやらいなかったようだ。


「見事な斥候具合でしたね」

「へへっ、これだけが取り柄でさ」


 曲がった背に痩せすぎの感がある彼は、真っ先に協力を申し出た男だった。

 ルリーナは彼を斥候のコウと勝手に呼んでいる。

 

「今後も、この調子でお願いしますー」

「へへぇ。頑張らせていただきやす」


 スケアリーをなだめすかして、白黒斑らのその背中に荷物を括り付けていく。

 行きと違い、明るく照らされてみれば歩き難いという事も無かった。


「しかし、失敗でしたかねぇ」

「何がですかい?」


 ルリーナの独り言を傍を歩くカメが聞き留めた。


「いや、無理に強襲しなければ、もっと被害を抑えられたのではないかなー、と」

「そんな事言っても始まりませんぜ、死ぬときゃ死ぬもんでさ」

「そうなのですけれどねぇ」


 少々、悔やまれる判断だったかもしれない。

 兵の死は仕方のない物ではあるが、効率よく死に時を作るのが指揮官の仕事だ。


「隊長を信じて死地に向かっているのだから、余りそういう事は」

「そうですね~」


 チョーもその話を聞いて苦言を呈する。

 兵がもし、を考えてしまっては死地へ赴くことも出来なくなってしまう。

 兵の死は避けられなかった。意味のある戦いだった。と思わせていなければならない。

 その上で自らが率先して危地へと飛び込めば、兵は付いてくるものだ。


「それは解っているのですけれどね」


 あるいは解っているつもり、なのかもしれない。

 ルリーナは独りごちると、スケアリーの首筋を撫でた。

 余り手入れが良くなかったからか少し毛はごわごわとしていたが、温かい体温は心地よい。


「帰ったら、しっかりブラシかけてあげますからねー」


 そう話しかければ、ぴくぴくと耳を動かす。

 それを見てルリーナは微笑んだ。


「いやしかし、帰りは早いものですね~」

「気分だけでやすぜ。余り変わりゃしないでやす」


 先導するコウはそう言うが、あっという間に森の終りが見えてきた。

 松明を煌々と照らした傭兵隊の列は、街へと向かって凱旋の路を歩む。

 月明かりを受けた街は静かに彼らを待っていた。

 誰しもがほっと息をつき、足取りも軽く門を潜り抜けた。

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