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シーン3

「さて、あなた達にはやってもらう事が有ります」


 翌日の朝、傭兵達は酒場に集まっていた。

 ルリーナはその中から元捕虜、盗賊達を呼び寄せる。


「なんでやすか?」

「あなた達は、この辺りが縄張りだったのですよね?」

「へい、森に潜んで……」

「じゃあ、森の事は詳しいですよね」

「そうでやすが……」


 ルリーナは依頼の内容を話した。

 盗賊団の襲撃に困らされている事、その盗賊団の本拠地を探し出して討伐すること。


「そいつは……ちょいとマズいですぜ」

「なぁ、賊同士お互いの事をバラした時には……」

「探し出してでも、血祭りにあげてやるって」


 元盗賊たちは及び腰の様子だった。

 盗賊には盗賊の取り決めがあるらしく、それを破ることは仁義に悖る、と言う訳だ。


「あなた達はもう盗賊じゃなくて傭兵ですよ?」

「それはそうでやすが……」

「大丈夫ですよー、あなた方の親分だってもう居ないのですし~」

「ひ、勘弁して下せぇ」


 元盗賊達の煮え切らない態度に、ルリーナは半ば諦めの調子だった。

 第二案も考えてはいたが、余りやりたくはない。


「うーん、仕方ないですねぇ。そうなると囮を……」

「……いや、大将、ちぃと良いですかい?」


 それまで黙っていた一人が顔を上げた。


「ここは俺たちに任せてくだせぇ」

「おい、何言ってやがんだ」

「うるせえ、黙ってろい!」


 他の者達を黙らせると、ルリーナに向き直る。


「大将、俺は感謝させてもらってるんでさ」

「ほうほう?」

「本当なら今頃奴隷かお縄を頂戴しているところ。拾って頂いたご恩を返させていただきますぜ」


 そう言うと立ち上がり、まだ不服そうにしている者達をどやしつける。

 意外と、盗賊たちの中では立場が上の者だったのかもしれない。

 渋々、といった風情ではあったが、確かに彼らは腰を上げた。


「おう、手前ら行くぞ!」

「じゃあ、私もいきますかねー」

「いや、大将は本陣にどっしりと構えていてくだせぇ」

「はぁ。夕刻までには戻ってくださいね~」

「うす。吉報をお待ちくだせぇ」


 付いていこうとするルリーナを押しとどめると、早速とばかりに外へと繰り出していく。


「いいんですかい?」

「まぁ、ここで裏切るようなら仕方ありませんからね~」


 不安げなカメに言葉を返しつつ、ルリーナは座りなおすと店主にエールを注文する。

 すっかり傭兵達の屯所の風情となっているそこに店主は複雑そうな表情をしていたが、他に客も居ないとなれば強く言う事もできなかった。


「どっちに賭けるよ」

「俺は帰ってくる方に賭けるぜ」

「つってもあいつら出てってもどうしようもなくねぇか?」

「そりゃ確かにそうだな……」


 相変わらず賭けをやりつつ暇をつぶしている傭兵達を横目に見つつ、何か本でも買っておけば良かったか、と考えを巡らせていた。

 待っているだけ、というのも意外と神経を使う物である。

 最初はがやがやと話し続けていた傭兵達も、半刻も経った頃には苛々とし始め、一刻も経った頃には重い空気が滞り始めた。


「おい、本当に大丈夫なんだろうな」

「途中でやられたりしてねーよな」

「縁起でもない事言うんじゃねえよ」

「ほら、隊長もああして気遣ってるんだ」


 ルリーナは腕を組んで俯いたまま黙していた。

 帽子に隠された表情は伺われず、胸甲までも着けたままだ。

 傭兵達はその誰も寄せ付けない、深く思案を廻らせているかのような姿勢を見ると、なんとはなしに安心するのを感じていた。


「あー、お昼ごはん何でしょうねー」


 なんて呟きも、聴こえてはいなかったのである。

 考えていても仕方がない。休めるときに休んでおくのもまた仕事だ。

 刻々と時間が過ぎていき、陽が中天に差しかかるころには、それまで緊張して待っていた者もぐったりし始めていた。


「さーって、お昼にしましょうか」

「うす……」

「元気ないですよー、腹が減っては戦も出来ぬ、ってやつです」


 そんな暢気な、等という者も流石に居なかった。

 傭兵達の様子におろおろし続けて疲れ気味の店主がその声に応じて厨房に入っていく。

 煮込んだひよこ豆と豚肉、そして黒パンといった食事がエールと共に供される。

 ほくほくとした豆と、繊維質の多い肉をエールで流し込み、固くなった黒パンを煮汁に浸して食べる。

 腹も満ちれば、張っていた空気も和らぎ、自然と元気も出る物で、ついでに眠気が来るものだ。


「そういやあんたは何でここに来たんだ?」

「農家の二男坊で領主の軍に徴集されてなぁ」

「あ、お前もか。戦が終わっちまってな」

「白薔薇か?」

「いんや、赤薔薇だ」

「もしかして戦場で会ってるかもな」

「それも敵でな」

「ははっ、あの時の敵が今は仲間とはなぁ」


 談笑している者もいれば、仮眠を取っている者も居る。

 昼下がりの穏やかな空気はのんびりと流れていく。

 そんな風に各々が時間を潰して、待つのにも空き始めてきた頃、酒場の扉が開かれた。

 斜めに傾いだ陽の光が、そこから射す。


「奴らの本拠地、見つけやしたぜ!」


 ルリーナは手元で転がしていたガラスのブローチを懐に入れると向き直った。

 そこには服のあちこちをほつれさせ、所々に木の葉を付けた元捕虜……いや、傭兵の姿が有った。

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