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シーン1

 朝、澄みきった青空に小鳥たちの囀りが吸い込まれていく。

 窓を開けば、豊かな日差しが街を照らしだしていた。

 赤い屋根瓦が並び、街の中央には教会の尖塔が天を衝くように聳えている。

 まだ人通りの少ない街は静やかで、実に清々しい……


「てめえら、さっさと並びやがれ!」

「応!」


 ……突如、やかましいがなり声が響いた。

 鳥は驚いて、清々しい朝の空気と共に何処かへ飛び去っていったようだ。

 ルリーナは窓枠に身を凭れて下の路地を覗き込む。

 聞き覚えのありすぎる声だった。


「全員揃ってるかー!」

「……何やってるんです?」


 つい尋ねたが、点呼を取っていたのであろうことは見れば解る。


「おう隊長! おはようごぜえやす」

「おはようごぜえやす!」 


 カメの声に合わせて男どもが大合唱である。

 ルリーナは頭痛を覚えて頭を抱えた。


「あのー、どう考えても近所迷惑だからやめません?」

「なに言ってるんすか! 朝になったらバリバリ気合入れて動かんと駄目ですぜ!」

「……何やってるんだ」


 ルリーナが諦めて空を仰いだ時にもう一人、路地に誰かが歩み寄ってきた。


「あら? 黒騎士さんじゃないですか。おはようございます~」

「ああ、おはよう、その、ルリーナ殿」

「はい?」

「その格好はどうにかならないかね……」


 恥ずかしげに目をそらした彼に、ルリーナが我が身を見下ろしてみると、いつも通りすとーんと下まで視点を遮らない、なだらかな曲線と、それにかかる薄布が見えた。

 そういえば、寝間着のままである。


「おっと失礼、少々お待ちください」

「あー、下で待たせて頂くよ」


 ルリーナは窓を閉めると、適当に服を着こむ。


「おわっ、なんだ君たち」

「てめえ隊長の寝間着姿を見やがったな」

「くそ、うらやましいな」

「妬ましい」

「許すまじ……許すまじ」

「畜生、俺らは見えなかったてのに」


 何だかわーわー窓の外から聞こえている気がするが、無視。

 編みもせずに寝たのでぼさぼさになっている髪を適当に束ねる。

 まぁ、別に良いだろう、相手はアレだし。

 靴紐も結ばずにつっかけて、階段を降りる。


「ふぁ、良く寝た……」


 あくびを噛み殺して、伸びをひとつ。

 軋む階段を降りると、黒騎士が傭兵達に囲まれて肩身が狭そうにしている。


「従者の方がいらっしゃるのではなかったのですかー?」

「あ、ああ。その筈だったのだが、少々厄介な事になってな」


 宿の下男を呼んで、エールを持ってくるように頼む。


「厄介な事?」

「ああ。一つ仕事の話、と言う事になるのだが……」

「はいはーい。皆さんちょーっと外に出ててくださいねー」


 適当に傭兵達を追い出す。

 ぞろぞろと列を為して出ていく傭兵達の列に下男は引き攣った顔でジョッキを持ったまま立ち尽くしていた。


「で、お話って何です?」

「……いやぁ、さっきから生きた心地がしないのだが。なぜだろうなぁ。はは」


 黒騎士は遠い目をしてぼやいた。

 ルリーナは置かれた木のジョッキを両手で持ち上げて、苦い液体を飲み下す。


「しかし、思ったより早い再会になりましたね~」

「あぁそうだ、どうやらこの街から出る街路で盗賊が暴れているようでな」

「ほう、そういえばこの宿にも人が居ないですね」

「そう、随分と厄介な連中のようなんだ」

「もしかしなくても……」

「昨日の連中だろうな」


 二人して目を合わせると、そのまま明後日の方向を見る。


「それはまた面倒ですね」

「ああ。面倒だ」

「領主の軍は何をしているのです?」

「それが、領主殿と軍の主力は今、出払っていてな。しかも襲撃は我々が真珠の港を出た頃から始まったらしい」

「はぁ、伝令も間に合っていない、と」

「伝令が襲撃される始末だから、な」


 昨日の盗賊の狙いは明らかにエレインだった。

 目的地への到着を阻むのが狙いか、或いは実際に危害を与えるのが目的なのか。


「思い当たる節、については教えていただけないのですよね」

「すまない。だが、我々が道義に悖る事をしている訳ではない、と言う事は信用していただきたい」


 黒騎士は剣に手を当てて、深く頭を下げる。

 騎士は誇りと忠義を何より重んじる物だった。

 余り騎士らしくない騎士ではあったが、彼の言葉は主の言葉。

 エレインの言葉であると思えば、疑う余地もなかった。


「で、依頼の件は?」

「盗賊の根城を探し出して、これを殲滅して欲しい」

「……簡単に言いますね」


 盗賊も人である。

 食事もすれば、睡眠もとる。

 略奪した物を集めておく場所も必要であるし、何処かに本拠地は有る筈だった。


「困難は承知の上だが、ルリーナ殿以外に頼れる者もいなくてな」

「私達は荒事専門とはいえ、猟犬ではないのですよ」

「賊の追跡、等と言うのは我々も出来ないからな……」

「そうそう、だから私達にも……あっ」

「ん? 何か思いついたか?」

「そういえば良いのが居ました」


 ルリーナはにやり、と笑って見せた。

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