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シーン3

「取り敢えず、戦利品は剥いで、死体は埋めてください~」

「了解っす」


 盗賊側の死亡者は約三割、と言った所だった。

 半数は逃げ、負傷、気絶した者が六名。

 黒騎士達は馬で追いかけて数人を捕縛していた。

 彼らには聞かなくてはならない事も有る。

 負傷の度合いが軽かった四名もまとめて、持ち物を没収してから後ろ手に縛り上げる。


「さーって、捕まった皆さんに聞きたい事があるのですが」

「な、なんだ、何でも言うよ、だから命だけは助けてくれないか」


 既に助かる見込みのない者を、カメが主導して『処分』している様を見せられ、捕虜たちは血の気の引いた顔をしていた。


「そうですね~、とりあえず貴方達がどうしてこの馬車を襲ったかを聞きたいのですが」

「俺たちは何も知らねぇんだ! 親分が無理矢理」

「本当ですか?」

「本当だ! 神に誓っても良い!」


 必死に喚く捕虜たちの姿を見るに、嘘をついている様子はない。

 ルリーナは少し考えて質問を変える。


「じゃあその親分……私が殺したので間違いないですよね?」


 微笑みを浮かべたまま簡単に殺した、という発言をする少女に捕虜は震えあがりこくこくと頷いた。


「彼に最近変な所が有ったとか。例えばそう、見知らぬ人と話してた、とか」


 捕虜たちは怪訝そうな顔を互いに見合わせていたが、思い当たることが有ったのか、おずおずと話し始める。


「ああ、えらく辛気臭い顔した坊さんが来てな、何か見せたと思ったら急に親分が皆出てけって」

「何か?」

「多分、羊皮紙みたいな物だったと思う」

「それは今どこに?」

「多分、燃やしちまったんだと。俺らが戻った時には親分が何か火にくべてた」

「なるほどなるほど……」


 遺体を街道から離れたところに埋め終えた兵達が各々、戦利品を担いで帰ってくる。


「隊長、終りやしたぜ」

「ご苦労様、捕虜は丁重に扱ってあげて下さいね~」


 捕虜を彼らに任せると、交渉をしている黒騎士と隊商長の所へ向かう。


「すみませんね~、今日は川の辺りまでしか行けないかと」

「おお、そのあたりを話していたんだ」


 黒騎士が応じる。兜を小脇に抱えてその顔が露わになると、より戦場に似合わぬ優男っぷりが際立つ。

 どちらかと言うと、本陣で事務処理とかしてそうな感じ。ルリーナはそんな印象を受けた。


「隊長さんは気にしなくていいよ、これは不可抗力だね」


 隊商長が笑いながら言う。

 戦場でも慌てず騒がず、この事態でも朗らかに笑っている辺り、結構な人物だと言える。


「このような事態に巻き込んだうえで烏滸がましいのは重々承知なのだが……」


 隊商と傭兵隊を纏めて借り受ける事は出来ないか、と黒騎士は切り出した。


「勿論、相応の物は払わせてもらう」

「いやいや、私らはこのまま予定通り深き森の街に行くだけだから結構で」

「私達はそうですね~、頂けるなら頂いておきましょうか」


 隊商と傭兵隊で反応は真逆だった。

 隊商の方は恩を、傭兵の方は実利を取った形になる。


「では受けて頂ける、と言う事かな?」


 隊商長と顔を見合わせる。

 どちらにしろついで、で済む話である。

 受けない手はない。


「勿論です」

「助かる」


 ほっとしたように黒騎士は肩の力を抜いた。


「食料の大半は向こうの馬車でな、咄嗟に街まで逃げろ、とは言ったもののどうにも」

「あぁ、それは大変ですね」


 食事は士気に直結する。

 一日二日食べない所で死にはしないだろう、等と言う者は飢えを知らぬのだ。

 やむを得ない時でもなければ、避けたい所だった。


「有り難い事にこの傭兵隊と隊商が共に来てくれるそうだ」


 黒騎士が彼の仲間に声をかけると、一様に緊張が解けた様が窺えた。

 槍を手にしていた者は、隊商の馬車に近づくとそれを預けている。

 長く重い馬上槍は、それを保持しているだけでも疲れるものだ。


「どうします? ここからだと夜通しで行けば丸一日で行ける計算ですけれど」

「そうだな、重ね重ね悪いのだが、急いで戻りたい」

「丁度人数も多くはないですから、どうにかなりますかね」

「すまない」

「いえいえ~」


 思わぬ強行軍だったが、まぁ良かろう、とルリーナは兵を集める。


「怪我した人はいませんかー?」

「かすり傷程度でさ」

「上等ですね」

「こんくらい当然っス!」


 笑い声が傭兵達に広がる。


「戦利品は一度集めてますんで」

「ああ、ありがとうございます~。欲しい物有ったら取っておいても良いですよ?」


 集めた金品は、一度隊長が預かってから分配する様にしていた。

 そうでもしないと仲間内で諍いが生まれてしまう。

 戦場の習いとしては、敵を下したものがその所持品を取る、という物が多いが、それで統制が崩れてしまえば元も子もない。


「あ、じゃあ俺この革靴もらうわ」

「あー、お前のそれ靴じゃねぇもんな」

「じゃあこの戦槌は俺が」

「いや、どこで使うんだよ」

「この布鎧貰っていいっすか?」

「他にいねえか?」

「あっ、俺も欲しいっス」


 カメが主導して必要な物を選んでいく。

 敵が身に着けていた物で、傭兵達に使えそうなものを重点的に、だ。


「んー、隊商長さん、残った物買い取ってもらっても良いですか?」

「良いけど、二束三文ってところだろうねぇ」

「持って歩くよりずっと良いですよ~」


 服や靴、武器といった物は、悪くない値段になる物だった。

 新しい服、等と言うものは裕福な者しか着れない贅沢品だ。

 そういう者達が服を買う、といえば店売りしている物ではなく新しく誂える事を指した。


「取り敢えず、川辺まで行って大休止にしましょうか」

「そうだね、昼も回ってしまった所だし」


 戦利品を片づけると、隊商は再び移動を始める。

 四半刻もせず、小川が見えて来た。

 平原の中を緩やかに流れるそれは、川底が見えるほどに澄んでいた。

 時折、魚が跳ねる様が見え、小鳥が木に留まりさえずりの音が聞こえた。

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