第二章 鬼の棲む山(二)
北条氏康は配下からの報告を受けて柳眉をひそめた。
小田原城に賊を招き入れた裏切り者 本間近江守が、扇谷上杉家の居城 松山城に入ったことが明らかとなったからである。
これにより、小田原城襲撃を画策したのは扇谷上杉家であることが明らかとなったわけだが、本間の行動はもう一つの事実を指し示していた。
旧主である山内上杉家を出奔した本間の行動が、北条家を信頼させるための策略であったことはほぼ間違いない。その山内上杉家と扇谷上杉家は、関東の覇権をめぐって長享の乱で激しく争った仇敵同士である。
本間は旧主である山内上杉家ではなく、仇敵であるはずの扇谷上杉家の城に入った。それはつまり、仇敵の関係にある両上杉家が、北条家を敵として手を結んだことを意味している。
姉と同じ結論に達した綱成が忌々しげに吐き捨てた。
「かりそめにも関東管領を継承する一族が、戦でも政略でもなく、暗殺をもって事を為さんとするか。恥知らずどもが!」
「その恥知らずどもに、ここにいる全員がそろってしてやられるところでござった。このことは軽視すべきではござるまい」
そういって綱成の激昂を制した老将を多目元忠という。軍歴の長さは北条軍随一であり、統率、智謀、いずれにも欠けることのない宿将として、家中の者たちからは一目も二目も置かれている。
黒備えを率いる元忠は氏康と綱成にとって軍略の師でもあり、これは赤、青、白の備えを率いる武将たちも同様であった。
北条軍の事実上の元帥ともいえる元忠の言葉に、綱成は不承不承口を噤む。敵の卑劣なやり方に対する怒りはおさまらないが、元忠のいうとおり、そんな彼らにしてやられた事実は否定できない。また、彼らの策謀が先の襲撃で終わったという保証もない。敵を罵るより先に、同じ失態を繰り返さないように備えることこそ肝要であろう。
うつむきがちに何事か考え込んでいた氏康が、ここで顔をあげた。
「両上杉が手を結んだ以上、古河公方が無関係でいるはずがありません。そして両上杉と古河公方が同心すれば、関東の諸侯はなだれをうって彼らに従うはず。また、扇谷上杉家は甲斐の武田と誼を結んでいましたから、私たちが武蔵に打って出た隙に、甲州勢をそそのかしてこちらの背後を突く、という策も考えられます」
氏康の懸念に元忠も同意した。
「御意にございます。つけくわえれば、先代に駿河東部の地を奪われた今川家も、当家に対しては穏やかならぬ感情を抱いておりましょう。こちらにも朝定殿(扇谷上杉家当主)の手が及んでいるやもしれませぬ。あるいは今川の方から働きかけているかもしれませぬ。今川には太原雪斎がおりますれば、駿河の策謀にも注意せねばなりますまい」
先に扇谷上杉家を継いだ朝定は、氏康ほどではないがまだ若い。たしか二十歳を一つ二つ過ぎただけの年齢のはずである。
朝定の父である朝興は、関東の地をめぐって北条氏綱と幾度も矛を交え、生涯北条家と敵対しつづけた。遺言では「わしを弔う暇があったら氏綱を討て!」と息子に命じたとも伝えられている。
朝定はその遺言を忠実に実行に移し、父と同じように北条家と争い続け、氏綱亡き後、その憎悪はそっくりそのまま氏康へと向けられている。
今川家に関していえば、元々は北条家と深いつながりを持っていた家である。北条早雲は大名として自立する以前、今川家の客将であった。
しかし、北条家が伊豆、相模の地で独立すると、領土をめぐって両家は次第に険悪になっていき、今川家が北条家と敵対していた武田家と盟約を結ぶにいたって、氏綱は今川家との断交を決断、駿河東部に兵をいれてこれを奪っている。北条家が関東で兵を起こせば、今川家が旧領奪回の兵を催すのはほぼ確実であろう。
とはいえ、今川家の主眼は西方――京への進出に据えられており、本格的に箱根の山を越えてくることは考えにくい。扇谷上杉家と違って、主体的に北条討伐の動きを起こす可能性は低いだろう。
やはり、早急に討つべきは扇谷上杉家。この認識において君臣の意見は一致している。
北条家としては、朝定の居城である松山城に攻め込んで速やかに禍根を断ってしまいたいのだが、朝定は父の死以来、これまで以上に軍備の増強に力を注いでおり、若い有能な家臣を抜擢して北条家との戦に備えているという報告が届いている。
松山城攻めに手間取ってしまえば、他の関東諸侯が北条軍の後背を塞ごうとするであろうし、そうなれば甲斐と駿河も黙ってはいないだろう。彼らの蠢動を未然に防ぐためには、短期間で松山城を落とす策が必要となるのだが、そんな都合の良い策がほいほい思い浮かぶようであれば、北条家はとうに関東を征服している。
結局、この軍議ではこれといった良案は出てこず、兵備の充実を急ぐことと、これまで以上に情報収集を密にすること、この二つの結論をもって解散の運びとなった。
◆◆
綱成をともなって氏康が私室に戻ると、それまで部屋の隅で寝そべっていた白猫がなーなーと鳴きながら氏康に身を摺り寄せてきた。
氏康が微笑んで咽喉をくすぐってやると、白猫は心地よさそうに目をほそめ、ごろごろと咽喉を鳴らす。
そんな白猫に氏康は優しく問いかけた。
「コタロー、今日は風間殿のところに遊びにいかないの?」
小田原城から姿を消していた間、白猫が風間の家で世話になっていたという話は、すでに風間の口から伝えられている。
氏康にしても、綱成にしても、幻庵が口にした「まれびと」の話をすべて鵜呑みにしているわけではないのだが、白猫が風間に懐いているのは事実であり、氏康などはすでに「そういうこともありえようか」と不思議に思いながらも受け入れつつあった。
白猫は氏康の問いに応じようとせず、かわりに綱成が口を開く。
「今日は弁千代と共に城下へ行っているはずです」
「そうだったの。何か用事でもあったのかしら?」
「小田原見物ということです。あれがどこから来た者にせよ、小田原の賑わいはめずらしいのでしょう」
ふふん、と北条の統治を誇るように胸をそらせる綱成。
もともと小田原は東海道に接する交通の要所に位置し、西から箱根の険を越えてきた者たちは大半が小田原へやってくる。箱根を越えて西へ向かう者たちが足を休める場でもあり、さらに関東の戦乱を避けてきた人々の流入もあって、小田原の繁栄は関東でも随一といってよい。
初代早雲以来、民政に意を用いてきた北条家の不断の努力の結実であった。
と、ここで不意に綱成が目を光らせる。
「私も一緒に行きたかった、などと思ってはおられませんよね、あね様?」
ぎく、と氏康が身体を強張らせるのを綱成は見逃さなかった。
「ましてや、今からコタローと一緒に後を追おう、などと考えてはおられませぬよね、あね様?」
胡乱げに問いかける綱成に対し、氏康は不自然なほど朗らかな笑みで応じた。
「もちろんです。今はそのような時でないことは承知していますよ、綱成」
「はい、それならば結構です。差し出がましい口をたたきました」
「けれど、綱成」
「なにか?」
「時には憂さを散ずるために城下をそぞろ歩くことも、決して無駄なことではないと思うの」
綱成は思案するように、ふむ、とおとがいに手をあてた。
「御意。たしかに時には民の暮らしぶりをごらんになることも必要でしょう。それでは護衛の者を集めて参りますゆえ、しばしお待ちを。わたしもお供いたしますゆえ、心置きなくそぞろ歩かれますように」
「いえ、それだと気が休まらな――」
何事か口にしかけた氏康に対し、綱成はにこりと微笑みかける。
「なにか仰いましたか、あね様?」
「……なんでもありません」
しゅんとうつむく氏康を見て、綱成は内心で深々とため息を吐く。
もちろん、綱成とて義姉の望みはわかっているのだ。できれば好きにさせてあげたいとも思っているが、北条家の当主が護衛もなしに城下に出歩くなどと知られれば、いつ何時、変事が起こるか知れたものではない。
まして現在の情勢を考えれば、なおさらに氏康の希望を聞き届けるわけにはいかないのである。
かといって、氏康を当主の席に押し込めていては、それはそれで心身を損ねる恐れがある。病は気から、ともいうし。
考えた挙句、綱成はせめてもの代案を出すことにした。あまり気はすすまなかったが、すくなくとも氏康を一人で城外に出すよりマシであろう。
「弁千代たちが戻ったら城下の話を聞いてみてはいかがですか。風間殿は異邦より参った者ゆえ、わたしたちとは異なった物の見方をするかもしれません。城中の者が気づかないことに目をとめることもありましょう」
それを聞いた氏康が目を輝かせる。
「なるほど、それは確かにそうですね。客人の目から見て不備があるようなら、そこは改めなければなりません。それに、風間殿ご自身も城中での暮らしに不便を感じていらっしゃるかもしれませんし、この際、そのあたりもうかがってみましょうか」
「ここまでの厚遇を受けて、なお文句を言うようなら、城からたたき出してしかるべきと思いますけどね」
綱成はぶつぶつと呟いたが、心を浮き立たせた氏康の耳には届いていないようだった。
綱成の案は氏康を喜ばせたが、氏康にとっては残念なことに、この案は当分の間、延期を余儀なくされる。
これよりおよそ半刻(一時間)後、血相をかえた弁千代が戻ってきて、風間耕太郎の姿が城下から消えたことを報告したからである。
◆◆◆
簀巻き(すまき)にされる、という表現を聞いたことがある者は多いと思う。
しかし、実際に簀巻きにされたことがある者はそう多くないだろう。そう考えれば、俺は今、得難い経験をしていることになる。
こんな経験をさせてくれた相手に対して、俺は感謝の念を禁じえない――
「――わけないだろうが、おい! なんだこの扱いは!?」
牛車の荷台に転がされた俺がわめくと、その姿がよほど滑稽だったのか、御者をつとめていた人物がくつくつと笑った。
「すまないが、もう少し辛抱してくれ。干し藁を敷いているから、身体はさして痛まないだろ?」
「身体は痛まないが、せっかくの親切を踏みにじられて心が痛いわ!」
俺が言い返すと、その人物――見た目は十歳かそこらなのに、妙に大人びた話し方をする子供が感心したように目を瞠る。
「おお、これは一本とられた。しかし、驚いたのはこちらも同じなのだ。大小を差しておらぬからと思って油断した。まさか城の者だとはな」
「城の者といっても、別に武士というわけじゃないんだが」
「それはわかっている。オマエからは血の臭いがしないから」
だから余計にわからなかった、と子供は呟く。自分の不首尾を悔いている様子だったが、すぐに気を取り直したようにつけくわえる。
「しかし、オマエが武士であるか否かはこのさい関係ない。城の人間にわずかでもオレたちのことを知られるわけにはいかないんだ。命はとらないと約束するし、はじめにいったように、協力してくれれば礼ははずむ。事が落ち着いた後ならば、城に帰すことも考えよう。だから、しばらく大人しくしていてくれ」
「……断ったら、また絞め落とされるわけか?」
「なんなら荷台から放り投げて、地面をひきずってもいいぞ? オレが欲しいのは大兵(だいひょう 身体の大きな者)の者であって、オマエでなければいけないというわけではないからな」
「へいへい」
俺はため息を吐き、大人しくすることにした。しばらく気絶していたからよくわからないが、もうだいぶ町を離れてしまっているようだし、おまけにこの子供は追っ手を警戒して人目につかない山道を進んでいる。今から俺ひとりで城に戻るのは難しいだろう。
いったいどうしてこんなことになったのか。
簡単にいえば、小田原の町を歩いていたら、この子供に声をかけられたのである。その時、俺は人混みのせいで弁千代とはぐれてしまい、彼の姿を探していたところだった。
物陰から姿を見せた声の主は、なんというか、実に不思議な格好をしていた。
年齢は前述したように十歳前後。服装は白い小袖に緋袴というもので、はじめに見たとき、俺は神社でみかける「巫女」を連想したものである。まあ、腰に鬼の面を提げた巫女さんがいるかは知らないけれど。
ただ、そういった服装以上にこの子供を特徴づけていたのはその外見であった。髪は雪のように白く、瞳は紅玉のように赤いとくれば、否応なしに目を引かれてしまう。長く伸ばした髪を頭の後ろで一つに結わえているのだが、髪を結っている布も橙色の高価そうな生地であり、見るからにタダ者ではなさそうだ。
なお、この子は容姿も端麗であり、陳腐な表現だが「中性的な美貌」というやつの持ち主である。正直、今もって男の子なのか女の子なのかよくわからない。『猪助』という名前からして、たぶん男の子だと思うが、氏康や綱成のような例もあることだしなあ。
ちなみに、俺が猪助の容姿にあまり驚かなかったのは、弁千代をはじめとした北条家の皆さんで慣れていたからである。
俺を呼びとめた子供は名を名乗ると、俺に仕事を持ちかけてきた。
なんでも、よんどころのない事情によって大兵の者が必要となり、俺に白羽の矢を立てたのだという。
率直にいって怪しいことこの上なかったが、だからこそ、俺は話を聞く気になった。なんというか、他人を騙すつもりならもっとうまくやるだろう、と思ったのである。格好にしても、話の運びにしても。
それに、一見したところ猪助は飄々として見えたが、その実、かなり真剣に話していることがうかがえた。こんな年頃の、しかも見るからにわけありの子供が必死になっているというのに、それを冷たくあしらうことは出来ない。情けは人のためならず、である。
――いや、まあ正直、謝礼の部分も期待はした。今は城で世話になっているとはいえ、いつ不始末をしでかして追い出されるかしれたものではない。それは措くとしても、衣食住すべてで頼っておきながら一銭も払っていないとか、無駄飯食らいの謗りを免れない。せめて自分の食い扶持くらいは自分で稼がなくては。
見たところ、猪助は相当に良いところの子供のようだし、と若干の下心を交えつつ俺が諒承すると、猪助はほっとしたようににこりと笑って(えらい可愛かった)礼を言った。
問題が起きたのはその後である。俺はてっきり仕事というのは小田原の町の話かと思っていたのだが――猪助がこの格好で街道を歩いてきたとは思えなかったので――目的地は箱根の山であるという。
さすがに無断で町を出るわけにはいかない。前言を翻すつもりはなかった俺は、一度城に戻るから、あらためてどこかで待ち合わせをしよう、と言ったのだが、途端、猪助の顔が驚愕に染まり――気づいたら、牛車の荷台で簀巻きにされていた次第である。正直、意識を刈り取られたときの記憶がほとんどない。やっぱりこの子はタダ者ではなさそうだ。
ともあれ、改めて冷静に振り返ってみると、避けようと思えばいくらでも避けられた災難である気がするが、今さら悔いても及ばない。
俺は気を取り直して猪助に訊ねてみた。
「で、協力というのは何をすればいいんだ?」
「話が早いな。お前にはある人物に扮してもらいたいんだ」
「ある人物? 察するに、それが『大兵の者』か」
「そのとおり!」
突然、声を高めた猪助は、仰々しい身振りで続けた。
「身の丈は七尺二寸(216cm)、筋骨たくましく、眼は広く、口は大きく、黒きヒゲが顔を覆う。四本の牙で人と獣を問わずに食い荒らす、箱根の山の悪しき鬼。その名も風魔の小太郎! お前にはその小太郎になってもらうッ!」
力を込めて言い切る猪助。
簀巻き状態のまま、そんな猪助をなんともいえない表情で見上げる俺。
しばしの間、あたりには牛がのっそのっそと歩く足音と、荷台の車輪がからからと回る音だけが響いていた。どこか遠くでカラスの鳴き声――あほー、というやつ――がした気がしたのは、うん、たぶん気のせいだろう。気のせいということにしておこう。
俺はこほんと咳払いして口を開いた。そろそろ、頬を林檎のように赤くしている猪助が可哀想になってきたので。
「……まあ、その、なんだ。頑張れ?」
「ええい、なんで励ます!? あと、可哀想なものを見る目でオレを見るなあッ!?」
むがー、とお怒りになる猪助どん。
俺としては、これまでの意趣返しも兼ねて、からかわざるを得ない。
「いや、しかしだな。まず、そもそもの前提である背丈が全然足りないし?」
「う」
「目や口はともかく、ヒゲは生えていないし?」
「うう……」
「牙が生えていないのはいわずもがなだし?」
「ううう!」
「あ、鬼に関してはお前の腰のお面をかぶれば大丈夫だから問題ないな!」
せめてもの情けで最後だけフォローすると、かえってそれが向こうの逆鱗に触れてしまったようで、音もなく猪助は噴火した。
「そこまで落としたのなら、最後まで落としていいよ!? ああ、そうだよ、無理だなんてわかってるよ! というか、足柄山の連中が少しでもちょっかいを出しにくいようにと思って鬼だなんだと噂を流したら、いつの間にか聞いたこともない化け物に育ってて、かえってこっちが驚いたよ! でも、今のオレたちはそれを利用するしか手がないんだッ!!」
ぜいぜいはあはあと荒く息を吐く猪助の言葉で、俺は大体の事情を把握した。
それを声に出して確かめてみる。
「察するに、風魔小太郎ってのはお前なのか?」
「……うん、そう」
一度噴火したせいか、猪助の声はずいぶん大人しい。
俺は問いを重ねた。
「足柄山の連中っていうのは?」
「山賊だ。箱根の山を越える旅人を狙う輩さ。まあ、オレたちだってやってることは似たようなものだが、連中は容赦がなくてな。それは旅人に対してだけじゃなくて、縄張りを争うオレたちに対しても同様だ。もう何人の仲間が殺されたかわからない」
……なんだか思ったよりもずっとやばい雰囲気が漂ってきたが、ここでさよならと言ったところで猪助が逃がしてくれるはずもない。こうして話をしてくれていること自体、俺を決して逃がしたりしないという言外の警告なのだろうし。
まあいい。向こうがその気なら、こちらはこちらで気になっていることを全部訊いてしまおう。
「ちなみに本名はどっちなんだ?」
「猪助の方だよ。風魔小太郎なんてのは、芝居の役柄みたいなものだ」
「頭目はお前なのか? 見たところ、俺の半分くらいにしか見えないが、実は三十過ぎとか」
「そんなわけあるか。それだけ年をくっていれば、もうちょっとマシな立ち回りが出来ただろう。オマエが幾つなのか知らないが、たぶんオマエのいうとおり、半分くらいだよ。オレが頭目をしている理由は……まあ、里につけばわかる」
そう口にしたとき、猪助の顔に閃いた疲労は、おそらく肉体的なものではなく精神的なそれだろう。年齢に似つかわしくない大人びた口調や態度も、周囲の環境が猪助に子供であることを許さなかったから、なのかもしれない。
まあ推測はこのくらいにしておこう。
最後に、俺は今一番大切なことを口にした。
「最後にひとつ」
「なんだ?」
「そろそろ、この簀巻き状態をなんとかしてくれないか? 逃げ出したりしないから」