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  作者: 浅野目 睦
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鏡像

 廊下の向こうから男が歩いてくる。黒いフードをすっぽりと被り、長いローブの裾を引きずりながら。フードが揺れ、白く尖ったあごが見える。しかし、枯れ枝のような黄色な手は、まるで死にかけた老人のそれ。若さと老いを一度に感じ、変な印象を受ける。掲げるランプの中で、炎が生き物のようにのたうっていた。

 ローレルは立ち止まり、男を呼び止めた。

「先生、」

 男は立ち止まった。廊下中の青白い明かりが震えたように感じた。

「死んでしまいました」

 ローレルは言った。教師の口から微かな吐息が漏れた。

「そうか、」

 ああ、またか、と言った気持ちが見える言い方だった。ローレルは教師に詰め寄った。

「先生、私が消えれば全てが丸く収まるのです。私は、私自身が罰なのです。いること自体が罪なのです。私も彼と共に消えたい。いえ、私が、消えたいのです。先生、私を許してください。私を消してください」

 シュンランが死ぬのはこれで十三回目になる。

 彼は、死んでも、死ねないのだ。

 教師が創り、シュンランへ植え付けた、ローレルと言う「罰」のために。

 シュンランが死ぬと、ローレルが復活する。

 ローレルが死ぬと、シュンランが生き返る。

 今はシュンランが十三回目の死を迎え、ローレルが十三回目の復活を果たしていた。

「私も苦しいのです、先生」

 ローレルはシュンランが死んでも死ねないようにするための装置に過ぎない。「存在するようで存在しない世界」から「外」へ脱出しようとしたシュンランに与えられた「罰」の一形態に過ぎないのだ。

 生き続け、死に続ける。死ねばそこで終わりではなく、むしろ始まりなのである。

 終わりのない始まりに、無限の命に、ローレルは疲れていた。いい加減、終わらせて欲しいのだ。

 ランプの中の赤い火が揺れる。

「駄目だ」

 死に続けなさいと教師は言った。

「どうしてですか。分かってください」

 シュンランに付き合わされて、生きては死に続ける「罰」の気持ちを分かってください。

 教師は何も言わない。

死に続けることが、君の義務だ。静寂が無言の意味を告げている。

ローレルは立ちすくんだ。

終わらせてくれない。

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