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ブラッディ・フィアー ―血染めの戦慄―  作者: らぷたー
act1―A incident―
3/9

談笑

 昼休みを迎える。自由を得た生徒達はそれぞれが机を動かし、合わせ、いわゆるグループ形態になって昼食をとっていた。グループと言えば聞こえは良いが、それぞれの人数は等しくない。紗綾はと言えばなかなか衝撃的な行動をとったためクラスの笑い者にこそなったが、女子グループに加わることに成功していた。どのグループでも、ピエロは必要なのだ。ドジだが明るく、憎めない。そんな紗綾はこの役回りに最適だった。


「それにしても、千羽さん。今日面白かったわね」


 突然の振り。南原ではそれなりに名の知れた家の娘であり、その為にクラスのお嬢様ポジションである林風館香保里からだった。弁当をつついていた紗綾はあわてて答える。


「あ……あはは、もとから低血圧で朝弱くってさぁ」


 だが多少的外れだった。千鶴がまた助け船を出す。


「違う、紗綾、そこじゃない」

「え?」

「突然笑い出したことよ、寝てるのに。ね、どんな夢見てたの?」


 占い好きの小早川直美が目を輝かせながら「夢占い大全」なる本を取り出して紗綾に聞く。言えと言われておいそれと語れるような内容の夢ではなかったため、紗綾は躊躇した。しかし、占いとなれば夢が何を示していたのか分かるかもしれない。そう思った紗綾は記憶を手繰りながら口を開いた。


「えぇっと……なんか火がこうボーッと燃えてて、手に刀? 剣? とにかくそんなの持ってて、血がベットリで……そうそう、それ嘗めたらこう、何て言うのかなゾクゾクしてきてさぁ……ってあれ?」


 完全に引いている周囲に気づき、紗綾は口を止める。彼女自身はその奇怪な夢をなんとかオブラートに包んで話していたつもりだったが、如何せん女子高生の会話で「刀」だ「血」だのといったワードはあまりにも物騒だった。そのうえ「ゾクゾクしてきた」等は紗綾をアブナイ子に認定するに足る言動だった。慌てて弁解し、本音を吐露する。


「あああゴメンゴメン! もぉ、だから言いたくなかったのにぃ」


「そ、そーよね。いやぁ、私もそれくらいの夢見たことあってさぁ。たま~にあるのよね、そういう……その、グロいの。で、直美、夢占いだとどうなったの?」


 千鶴がまた絶妙な助け船を出してくれる。その千鶴から振りを受けた直美は「夢占い大全」をめくり、目を丸くしながら結論を下した。


「千羽さんそれすごい夢よ! 血の付いた刃物は思いがけない利益を得る兆候、火は生命エネルギーの高まりを表してるんだって!」

「へぇ、すごいわね。千羽さん。何か、新しいことでも初めて見たらどう?」

「それが良いよ紗綾。あ、そういえばまだ部活決めて無かったでしょ。そうだなぁ……居合道部なんてどうよ?」


 千鶴の提案を紗綾は少し考える。しかし、答えはすぐに出した。


「うーん、パスかな。低血圧だし、それに居合って男のイメージあるし」

「あら? 千羽さん知らないの?」


 香保里が人差し指を立てて説明を始めた。


「居合道部って女子部員が四割占めてるし、副部長も女子なのよ。名前は……」

「湯浅弥栄子。二年生で県大会三度優勝のエースよ。あ、今日見学に行こうよ。夢に刀出てきたんだしさ」

「うーん、でもなぁ……」


 渋る紗綾に、それまで話を聞いていた市川茜が一言付け加えた。


「その湯浅って先輩、美人で有名よ。あぁ、一度会ってみたいなぁ……」


 この市川茜という少女はやや同性愛の気があるのか、美人に目がなかった。尤も、茜のそれはクラスで普通に受け入れられており、彼女の眼鏡にかなうということはそれは相当の逸材であると言える。一体どれ程の美貌を備えているのか、紗綾は俄然、その湯浅弥栄子という存在に興味が沸いた。


「ホントに!? へぇ、気になるなぁ」

「ほんとほんと。この機を逃す手はないって。あたしは部活あって出れないから、代わりに見てきなさいよ」

「うん、そうするよ」

「じゃあ、放課後に武道場前ね。紗綾、忘れないでよ?」

「いやさすがにそれはないって」

「あら? でも千羽さんならやりかねないけど?」


 香保里の冗談で場が笑いに包まれる。からかわれた紗綾も、その輪の中に入っていた。四月の桜は彼女らを窓の外から見守っている。市立南原高校は今日も平和そのものだ。

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