第5話 フローラル王女 その2
部屋の扉がカチャリと開いた。
「お帰りなさ・・・・・」
扉へ振り向いた俺の前にいたのは・・・・フローラル王女だった。
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・その少し前フローラル王女自室:
侍女達を行かせた後も私は考えていた。
ローズマリーが生まれたのは私が4歳の時、あの子は生まれた時から魔力がたくさん溢れ出て、周りにいる人たちが次々と魔力中りを起こしてあの子から離れていった。
新しく付く侍女やメイド達も直ぐにいなくなってしまう、その為あの子の周りには誰もいなくなってしまい、何事もなく近くに居られたのは宮廷魔術師のラドック様とその息女ミランダ様のお二人だけだった。
お父様もお母様もあの子の側には寄らなくなってしまった。
だから私が、私だけがあの子を、初めての妹を守ってあげたくて、時間があれば妹に会いに行って、抱きしめてあげたわ。いつもラドック様かミランダ様が一緒に居たけど。だって妹の部屋の鍵が開いているのはその時だけだったんだもの。
いつもあの子を見ていた、あの子を抱きしめていた。私だけが、あの子を見守ってきたのよ。それなのに2年ほど前に急に魔力中りが体に悪影響を及ぼすから、あの子に会ってはいけないと言われ。妹の部屋の鍵が開いている事は無くなってしまった。
それからずっと会えなくなっても、毎日、毎日、あの子の事を考えない日はなかった。会いたかった。だから私の侍女達に様子を探ってもらうことにした。
暫くすると、侍女達からローズマリーの部屋へ出入りする知らない人物の話が伝えられた。ラドック様やミランダ様と一緒にピンクのローブを着た小柄な人物がいると。
ただ、それが誰なのかは確認できなかったと。それは仕方ないわね、彼女達は単なる侍女だもの。でも今日ミランダ様と一緒にいたピンクのローブを着た人物はローズマリーにそっくりな顔をした別人だった。
本当に別人なの?頬に触れた感触は私が覚えているもの、抱きしめた感じは大きくなってはいるけどあの子のもの。どうしても信じられない、信じたくない。やっぱり突き止めなくては。
そんな事を考えていると、直にマシロが帰ってきた。
「姫様、私がミランダ様の居室の様子を伺って、直ぐに3名の侍女が退室しいずこかへ、先程メイドが退室、その後ミランダ様も退室されました。確かミランダ様の居室にはメイドが1名のみの筈ですので、残された者はアロマ様お一人になられたかと」
「それは本当?」
「はい、誠で御座います姫様」
これは好機かしら、好機よね、好機に決まっているわ。待っててローズマリー、おねーちゃんが直ぐにあなたの元に駆けつけますから。そこに居てねローズマリー!
「ミランダ様の居室へ参ります、マシロはここに居て」
「よろしいのですか姫様」
「これは私1人で行かなくてはならないの」
「畏まりました、お気を付け下さい」
私はミランダ様の居室へと向かった。
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・現在のミランダの居室:
俺は固まっていた。何故フローラル王女が此処に?しかも1人で来ている。何を考えているんだ?
すると突然、
「ローズマリー!ローズマリー!ローズマリー!ローズマリー!ローズマリー!」
うおおおおっ、名前を連呼しながら俺の方へ駆け寄ってくるフローラル王女、怖え!
今までの俺だったら考えられないことに背中を見せてしまった。地元じゃ敵無しと言われたこの俺があろう事か背中を見せてしまうとは、くう~。だって怖かったんだもん、本当に貞●が迫ってきたら逃げようとするだろ。
「ローズマリーつ~か~ま~え~た~」
「うわあぁぁ」
だが、8歳と12、3歳(推定)では話にならない。背中からがばっと捕まった。部屋の奥へ逃げようとしていた俺はその拍子にフードが脱げた。
「やっぱりローズマリーだ~、いっつも抱きしめようとすると逃げるし、捕まえると今と同じ悲鳴を上げてたもの、そんなにおねーちゃんの事嫌い」
フローラル王女!顔近い、近いって。俺の肩に顔乗せてこないで!
そりゃ誰だって同じ反応するでしょう。
いきなりあんな迫り方をされれば背中を見せて逃げるし。
捕まれば「うわあぁぁ」となるだろうし。って云うか姫さんも「うわあぁぁ」だったのか。実の姉でもよっぽど怖かったんだな。喋っちゃ駄目だ、喋っちゃ駄目だ、喋っちゃ駄目だ、どんなボロが出るか知れたもんじゃない。
「ふるふる」
首を振って誤魔化した。
「やっぱりローズマリーは、おねーちゃんの事大好きなんだねー。いっつも恥ずかしがって首を振るばっかりだもの、やっぱり変わって無いんだー」
そんな様な事を言いながらフローラル王女は俺を抱きしめたまま左右に体を揺する。
Oh!No!!なんてこったい!!!填められたのか!?!? 嫌い?と聞かれて普通、首を縦には振らないだろう?助けて~~~!
「こらローズマリー、どうしてこんな悪戯するの、おねーちゃんとっても悲しかったんだから、しかもフレグランス伯爵家の娘だなんて嘘までついて」
「ふるふる」
「もうローズマリーったら!いっつも困ると首を振るだけになっちゃうん・だ・か・ら」
フローラル王女は俺の体の腋の下から両腕を回しぎゅーとして更に左右に揺する。俺はテ●ィ●アじゃない。首振ってるの意味判れよ。ピーンチ、大ピーンチ、蟻地獄に引きずり込まれていく気分。誰か救いの手を、救いの手をこのわたくしめに!H・E・L・P!
「フローラル、そこまでにしなさい」
後ろから声が掛かる。
!俺を抱きしめたまま体を揺すっていたフローラル王女がピタリと動きを止める。やったー、祈りは通じた、神様はまだ俺を見捨てていない。
男の人の声、助かった~ なんか聞いたことあるような声だな、誰だろ?後ろが見えん。
「お父様!」
フローラル王女が鋭く振り返る。やめれ~俺ごと振り返るな、目が回る。国王陛下でしたか。
「何のご用ですか?お父様、今私はローズマリーをやっと取り戻す所なんです。邪魔をしないで下さい」
「邪魔とはな、フローラル、お前は伯爵家の娘を拐かすつもりか?」
「いいえ、この子はローズマリーです。伯爵家の娘なんかじゃありません、そーよねーローズマリー」
ここだ!チャンスだ!
「ふるふる」
「首を振っているぞ、フローラル」
「そんな、ローズマリーあなたは私のローズマリーよね?おねーちゃんの妹よね?」
すまんなフローラル王女。
「ふるふる」
「違うと言っているぞ、フローラル、さあその子を放しなさい」
「いやよ、やっとローズマリーをこの手で抱きしめられたんだもの、放さないわ」
言うかフローラル王女は部屋奥隅へと駆けて行き、壁にぴったりと背中を付ける、ついでに胸に抱えている俺を更にぎゅー。胸が苦しい、ギブギブ。いい加減諦めてくれ。
「我が儘を言うんじゃない。その子はローズマリーではないと言っているだろう、さあ放すんだ」
「この子がローズマリーではないと言うのなら、本物のローズマリーに合わせて頂戴、お父様」
「何だと!」
まずい!話を先に進ませるととってもまずい。これはとっても嫌だけど、仕方が無い。背に腹は替えられない。
「おじさん、たすけて、おうじょさまがわたしをいじめるの、おねがい、たすけて」
どうだ!フローラル王女!
「私が大切なローズマリーを虐める訳がないじゃないの!どうして判ってくれないの!ううっ、ぐすっ」
フローラル王女が泣きそうになっている。まずい女の子を泣かすのは嫌いだな、どうしようか。
「アロマ嬢もああ言っている、いい加減に諦めるんだ」
「そうですよ、国王陛下も、云われているのだから、もう諦められた方がよろしいのでは、フローラル王女殿下」
ミランダさんが追い打ちを掛けるように部屋に入ってきた。外で様子を伺ってたのか?でも、それって拙くないか?
フローラル王女はミランダさんを見た途端、泣きそうになっていた目がキッとミランダさんを睨んだ。
「ミランダ様、謀られましたわね」
「フローラル王女殿下の聞き分けが余り宜しく無い様なので、この様な手段を取らせて頂きました、あの時点で御自重されて下されば宜しかったのですが、私の部屋へ無断で侵入されてしまいましたので、この様な事に相成ってしまいました」
「なによ、御自重って、姉が妹に会いに行くのに何を自重しろと云うの」
「ですから、その子は私の姪です、フレグランス伯爵家の子ですと申し上げておりますのに」
やっぱりその展開になったか、折角流れを違う形に持って行こうと恥ずかしい真似までしたのに。
「だったら本物のローズマリーに会わせて!」
ほら来た!さっきその展開に走りそうだったから、俺が…以下略。
「うっ」
ミランダさーん、そこで『うっ』って何ですか『うっ』ってその先の対処はないんですか?国王陛下も『何だと!』だったし。
これ以上バタバタしてもしようがない。これ以上はフローラル王女を軟禁とかしないと止まらないでしょう。国の行事とかも有るだろうから流石に軟禁ってわけにもいかないでしょう。俺は国王陛下とミランダさんを見て首を横に振った。
それを見て国王陛下とミランダさんは顔を見合わせ、仕方ないといった顔をして溜息を漏らした。
「ではフローラルよローズマリーに会わせてやろう、但しその前に一つ聞く、その結果をお前は後悔しないか?」
その聞き方はちょっと狡くないですか?国王陛下。
「ローズマリーに会えるのだったら後悔しないわ」
速攻で答えるフローラル王女、きっぱりしてるな、でも辛いと思うぞ。
「そうか、では一輝君頼めるか」
おおっ、俺にその役回りを持ってきますか、ま、俺の事だしな、仕方がないか。
「了解です、国王陛下。フローラル王女、すまないがその手を放してはもらえないだろうか?」
「えっ?えっ?何なの?どうしたの?ローズマリー?言葉使いが変よ、あなた」
「俺は國枝一輝、ローズマリーじゃない、そしてローズマリーでもある」
フローラル王女がちょっと狂気に走ってしまいました。なんとコメントしたら良いものか。