第3話 魔法の威力
「我が手に輝きを 『明かり』」
空に向け広げた俺の掌に光の粒子が収束してゆく。それは際限なく続き、遂には超巨大な閃光程の光量を持つ光球が出現した。その輝きは太陽をも凌駕する程であった。
「キャアアアアア!」
「ウワアアアアアア!」
「アアアアアアッ!」
「あ~~~~~~~!」
「ぐぅおおおおおっ!目がぁぁ、目がぁぁぁ!我輩の目がぁぁぁぁ!」
あれ?男の人の声が聞こえる。だれだ?
辺りを見回すと、ミランダさん達が両手で目を覆って膝を突いていたり、うつ伏せに倒れたりしている。あ、アイリーンさん気絶してる。
「大丈夫ですか?ミランダさん」
「なに呑気な事言ってるの『明かり[ライト]』消して、消して!」
「あ、そうか、消すのはどうするんだっけ?」
「継続魔法だから頭の中で発動キーと停止を意識して」
【『明かり』よ消えろ】
超巨大光球はかき消すように消えた。
「ア~~きついわね」
「ウウウウウゥゥゥ」
「・・・・・・・・」
「あ~~~~痛い~~」
「ぐっぐうおおっっ」
やっぱり男の人の苦悶が聞こえる。隣の区画の人か?
それにしても困ったな、皆動けないんじゃ、どうしよう、目のダメージだから治療呪文とかはないかな・・・・見っけ、『眼球治療[キュアアイズ]』だって、意外と魔法の種類が細かいな。
えっと、さっきは全手順で魔法を使ったから、まずは魔法陣を地面に書かないで魔力で地面に展開描画する方法からやって見るかな。
ミランダさんの所に行って。
「ミランダさん、苦しいでしょうけど、手を離して顔を上げて下さい」
「こう?」
「はい」
魔法陣魔力展開。
「我が手翳す眼よ光を取り戻せ『眼球治療』」
俺の手に淡い光が灯る。と、その光が一気に拡大して、あ、終わりが解んないくらい広がって行っちゃった。何だ?
「あーきつかったわね、なにあれ?針で刺したような痛みってあるけど、あれはそうね剣で刺し貫いたような痛みとでも言えばいいのかしら」
「いやそれもう目が潰れてますよ、ていうか死んでますよ」
「それ位痛かったって事よ、『眼球治療[キュアアイズ]』掛けてくれたのね有難う、他の皆にも掛けてあげないと」
「それなんですが、ミランダさんに掛けた魔法ですけど、手に灯った淡い光がぶわぁっとどっか見えないところまで広がっていったんですけど」
「『眼球治療[キュアアイズ]』は個人用よ、手に淡い光が灯るけどそれだけのはずよ」
「でもほら、コリーンさん達も回復してますよ、アイリーンさんも気付いたようですね」
「うおおおおっ!何だったんだ、さっきの光は!」
うおっ、いきなり男の人が飛び込んで来た。誰だ?あ、この声はさっき聞いた声だ。
「あら、ゴルディア隊長。どうされました」
「どうされましたではありませんぞミランダ殿、先程の光いや閃光と云うべきか、こう目に矢が刺さった様な痛みが有りましてな、何と云うか、兎に角とんでもない物で有ります」
「ああ、それはこの子が『稲光[ライトニング]』の制御にちょっと失敗しまして」
「ん?おおっ、そのローブはアロマ殿ではないですか、いつぞやも『閃光[フラッシュ]』の練習で制御に失敗なされておられたが、此度のは以前とは比べ物にならぬ程強烈でございましたな」
やべっ、あのおっさん俺のこと知っていたのか、ん?アロマって誰のことだ?兎に角ミランダさんの後に隠れよう。
ミランダさんの後に隠れて、ローブにしがみついて、顔だけちょっとだけ出す。
「おおっ、相変わらず恥ずかしがり屋ですな、アロマ殿は目は大丈夫で有りましたか?」
こくこくうなずく。
「左様ですか、それは重畳」
「隊長、此方でしたか」
また新たに息を切らせた男の人が現れた。ゴルディア隊長さんより若い感じの人だ。
「おおっ、レイザーか、どうした」
「いや、どうしたじゃ有りませんよ、街区の方では結構な騒ぎが起きていますよ。短時間とはいえ、いきなり目が見えなくなった物だから、体を動かしていた連中は軒並み転んだり、怪我して血を流したりと」
「そうか、では我々も様子を見に行こう、我輩は先に城の方を見に行く。1小隊を城に回せ、残りはレイザーお前が街区の方を回れ」
「了解しました、隊長」
ゴルディア隊長とレイザーさんは訓練場を後にした・・・んだけど、何?あの早さ、ボルトさん以上か?
呆然として見ていると、
「あれは、『加速[アクセル]』と『剛力[ストロング]』と『頑健[タフネス]』の3種同時無音発動ね、しかも継続魔法だから魔力の消費量が馬鹿にならないけど、LV5ってとこかしら」
「3種同時無音発動?」
「そう、複数の魔法を同時に使用する事、ただし複数同時使用可能なのは継続魔法だけよ。特に身体機能強化系の魔法は継続魔法がほとんどだから重ね掛けができるの、ま、細かい所と無音発動の話は後でしてあげるわ」
「それよりも問題なのは民生用の単なる『明かり[ライト]』がなぜあんな戦略級として使えそうな魔法になってしまったかと云うことよ」
「戦略級だなんて言い過ぎじゃ」
「なに言ってるのよ、あなたが・・・そうだその前に先に言って置かないといけないわね。そのピンクのワンピースとローブを着ている時、あなたは私の妹の子で『アロマ・フレグランス』って名前になっているから覚えておいてね」
「それで続きだけど、あなたが『眼球治療[キュアアイズ]』を掛けるまで、私達もたぶん隣に居たであろうゴルディア隊長やレイザー副隊長も視力を奪われ、激痛に苛まれていたでしょう。そして多分街区の方までも」
「もしあなたが『眼球治療[キュアアイズ]』を掛けなかったとしたら、どうなったと思う?下手をすれば、この王都全域が行動不能になっていたかもしれないのよ。しかも『明かり[ライト]』一回で、これを戦略級と言わずに何て呼べばいいの?」
「さらに驚いたのは『眼球治療[キュアアイズ]』が広域魔法だったと云う事よ」
「広域魔法って自分を中心に効果範囲を持つ魔法の事ですよね」
「そうよ魔導書には対象1人って書いてあったけど、あなたが掛けた時は淡い光が広がっていったって言ってたわね」
「ええ、そうです」
「私も使ったことあるけど私の場合は手の周囲だけが淡く光っていたから、そうね、ちょうど料理用のミトンを着けた感じかしら、だから結局患部を手で直接触れなければならなくて、結局対象者は一人になってしまう。アイリーンはどうだったの」
「私の場合はもっと小さかったですね、厚手の手袋ぐらいでしょうか、広域魔法だったとしても対象者を一人に限定するしか有りませんね」
「私の魔法力が70でアイリーンが45だから、2例だけだけど比べてみれば、広域魔法とも考えられるわね」
「たぶん~大方の人がそうだったから~対象が1人限定だと思ってしまったのですね~」
「魔法力が5000もある君の場合にはその効果範囲が王都全域程にもなってしまった、と云うことかな?」
「そういう事なんでしょうね、さっきゴルディア隊長さんが言ってましたが、以前も『閃光[フラッシュ]』の練習で制御に失敗していたと、でも俺は当然初対面だから、それをしていたのは姫さん・・・以前の彼女と云う事になりますよね、そのときの魔法力が2500」
「単純に規模が半分になったとしてもそのままだったら多分それなりの大事になっていたんじゃないでしょうか、そんな事は前にありましたか?」
「覚えがないわね」
「と云うことは以前も彼女は魔法力を押さえて『明かり[ライト]』の練習をしていた訳ですよね、それも『閃光[フラッシュ]』の制御失敗程度ぐらいまでには押さえられていた。尤もそれがどの程度だったかは俺には解りませんけど」
「ああ、制御失敗は言い訳よ、魔法に於ける制御失敗は威力を押さえるのに失敗したと云う事よ、暴走する事は対象になってないわ、結局、『明かり[ライト]』を『閃光[フラッシュ]』よりも強力な程度には魔法力を押さえるのに成功していたようね」
「俺の記憶には魔法力を押さえる方法は有りませんよ」
「それは困ったわね、すべて魔法力全開となると『火[ファイア]』や『水[ウォーター]』などの他の民生魔法も王都炎上とか王都水没とかになりかねないわね、とりあえず魔法の練習は暫くは停止ね。安全そうな魔法を探して、それで魔法力を抑える練習を模索しましょう。とりあえず戻りましょうか、これ以上の話の続きは戻ってからにしましょう」
「はあ、解りました、帰りますか」
俺達は魔法訓練場を後にした。