第2話 魔力解析結果
「こ~こ~これは~!!!」
驚愕に震えるコリーンさんは、突然部屋を飛び出していった。どこいったんだろう?ま、いいか、行き先判んないし。ストレッチでもするか。
暫くストレッチをしていると、息を切らせたコリーンさん、アイリーンさん、ジェシカさんの部屋付きメイド3人とミランダさんが血相を変えて飛び込んできた。
「姫様!なんですか!この空恐ろしい魔力解析結果は!」
ミランダさんが勢い込んで聞いてくる。
「は?」
俺は体を捻った姿勢のまま固まっていた。空恐ろしい魔力解析結果と言われてもねえ。
「は?じゃないよ一輝君、君の魔力解析結果の事さ、とても尋常じゃない数値だよ」
ジェシカさんは赤い髪でロングウルフの宝塚男役系な雰囲気な人。言葉遣いもなんかそんな感じの人だった。しかも、俺を一輝と呼んでくれるうれしいな。19歳だ。
「私も驚いたわね、聞いたことすらない数値」
こちらはアイリーンさん、黒髪で右がかなり長めなアシメロングボブの人。理知的で落ち着いた感じの話し方をする人だ。20歳。3人では1番の年長。
「姫様の魔力解析結果は~普通では到底ありえない数値なんですよ~」
まだ説明してなかったね。コリーンさんはふくよかな感じの茶髪でウェーブのかかったロングヘア。17歳。
ついでだからミランダさんと俺も説明しよう。ミランダさんは黒髪つやつやロングヘア、今はポニーテールにしている、年齢は言わないほうがいいよね。でもラドックさんの葬儀はいいのかな?どうも聞きづらいよな。
そして俺、ローズマリー・フィリアリア・ラーブフェルト、8歳(しょぼーん)銀髪に紫色が半分混じった紫銀とでも言えばいいのかな?ロングのストレートはお尻の辺りくらいの長さ。そして目の色がオッドアイなんだ。右目が紅、左目が金、それでも8歳にしては背がやはり低めなような気がする。
ちなみに自分の姿を見たのはトイレから帰って来た時。心が折れかけていたので自分の姿をなんとなくで見ていたけど、今考えればとんでもねー、日本人の俺には到底信じられない色彩だ。
さらにこの顔の造作・・・なんでこんなに可愛いんだ。魂の時は色彩が無かったし、寂しそうな顔してたからよく解んなかったけれど、改めて見ると美・・・少女だよね、小学校2年生ぐらいだし、立派な少女だよ、うん。幼女はいやだ。でもそれが朝礼で一番前だったとしたら、幼女と呼ばれるのかな。いやだなーーー。
閑話休題。
魔力解析結果の知識はある。まず魔力容量、いわゆるMAXMPの事だ。そして魔力生成量、1時間当たりに生成される魔力つまりMPの回復量にあたる。そして魔法力、これは魔法が発動する時の最大出力だな。まあ魔法によってはあまり意味を持たない数値でもあるらしい。
「空恐ろしい魔力解析結果と言われても、俺はその数値が幾つかを聞いてないんですけど。コリーンさんに解析はしてもらいましたが、すぐに飛び出して行ったので」
「コリーン、解析結果を当人に知らせないでどうする気だったの、貴方」
「ごめんなさ~いアイリ~ン、私も驚いてしまって~姫様の魔力解析結果がこんなだなんて思ってなかったから~前の姫様は…」
「ちょっと待って、この部屋では一輝君と姫様は分けましょう。でないと話がしづらくなります。ところでジェシカ、あなた最初から一輝君て呼んでいたわね」
「あ…うん、実は僕は魂が見える時があるんだ。昨晩も見えててね、その時一輝君の魂も見えた。つんつん頭のやんちゃな感じだった。姫様は最後に微笑まれていたんだ。ラドック様もやり遂げたって感じのお顔でした」
「そう…有難うジェシカ、父の最期の姿を見てくれてたのね……さて、さみしい話は此処までで、肝心の魔力解析結果だけど、一輝君たとえばあなたの魔力容量は10億もあるんです」
「は?10億ぅ、ずいぶんと大きい数字ですね、確かに大きいですけど、それのどこに問題があるんですか?」
「ミランダ様、数字の大きさは理解しても、その意味が理解できないのではないのでしょうか」
「そうね、並べて見れば解りやすいかしら、アイリーン悪いけど書くものを持ってきてくれないかしら」
「はい、分かりました」
アイリーンさんが紙とペンを持ってくると(おー紙は在るんだ)皆してそれぞれの魔力解析結果を書き込んでゆく。
それによるとこうなる。
ラドック
魔力容量:50000
魔力生成量:2000
魔法力:80
ミランダ
魔力容量:35000
魔力生成量:1500
魔法力:70
コリーン
魔力容量:8000
魔力生成量:300
魔法力:35
アイリーン
魔力容量:7000
魔力生成量:200
魔法力:45
ジェシカ
魔力容量:1200
魔力生成量:25
魔法力:12
ローズマリー
魔力容量:1000
魔力生成量:8000000
魔法力:2500
一輝
魔力容量:1000000000
魔力生成量:10000000
魔法力:5000
「なるほど正に桁が違うって奴だ、これじゃ数値をただ単に見ただけでも『空恐ろしい』も強ち間違いではないですね」
「呑気に感心している場合じゃないのよ一輝君、過去これほどまでの数値を出した魔法師は1人もいないのよ」
「俺が最初の1人という事なだけですよ。何時だって一番が出る時はそれまでは誰もいないんですから、それに数字の一番なんて大して意味はないですよ、負けて死ねばそれで終わりです、一番だからといって、負けない、死なない、を保障するわけでもない。一番だからとふんぞり返る心のほうが問題です」
「クールだねぇ一輝君。僕のと比べれば天地の差じゃあないか」
「ジェシカさんも魔術師なんですか?」
「とんでもない、僕は剣士さ。民生魔法の初級クラスの幾つかは使えるけど魔法師の資格はないんだ」
魔法は誰でも学べ、能力があれば使えるが、それはただ魔法が使えると言うだけに過ぎない。
魔法を使う者は職種としての資格を持つことが出来る。
治癒魔法を一定以上習得した者を治癒師。
召喚魔法を一定以上習得した者を召喚師。
戦闘系魔法などを一定以上習得した者を魔術師。
民生魔法は日常生活用の魔法や各種職業用の魔法のことである。したがって民生魔法は資格取得条件には含まれていない。
そしてそれらを総括して魔法師と呼ぶ。
日常生活用の魔法には『明かり[ライト]』や『水[ウォーター]』などがある。
各種職業用魔法には鍛冶師が使う『研磨[シャープ]』や盗賊が使う『開錠[アンロック]』など、ただし職業専用ではないので誰でも習得可能。と知識にはある。
こっちの世界では科学技術の代わりに魔法が生活水準を上げているんだな。さっきトイレに行った時も見てくれは古臭いけど、上下水道完備だったし、どうなってんだろ。
「私は~魔術師です~」
「私は治癒師」
「皆さん資格あるのに何でメイドなんですか?こっちの方が収入がいいとか?」
「僕らは王国軍の所属なんだ、姫様は神託に告げられていたから、3ヶ月前に僕達が護衛として姫様の部屋付きメイドになったんだ、前任者との交代でね」
「前任者?」
「そう、姫様の傍らに居る者は姫様からの魔力中りで徐々に体調を崩して、半年ぐらいしか体が持たないんだ。コリーンの様に魔力結界を張れても四六時中という訳にはいかないからね」
「で、その魔力中りの原因はそこに書いてある姫さんの魔力容量:1000と魔力生成量:8百万にあるのかな?」
「じゃあそれについては私から、たとえば私の場合は魔力容量:35000魔力生成量:1500。魔力生成量が魔力容量より小さいから負荷にはならないわ」
「でも姫様は魔力容量:1000の所に魔力生成量:8百万、この負荷は相当なもので大量の魔力が溢れ出してたの、これが魔力中りの原因よ、またこの負荷が姫様の魂を蝕む原因だったの」
「というのが魔法国家ウィズダニアの魔法研究院が出した結論ね」
「魔力を生成するのは肉体で、魔力を蓄えるのは魂だから、魂が一輝君に代わって魔力容量も1億になったと、ただ不可解なのは魔力生成量が1千万に上がっている事ね」
「結論ということは確定事項ではないんですか?結論からいえば魔力容量が1億あれば魔力生成量が1千万でも負荷はかからないという事ですか?」
「確定事項でない以上、そういう事になるわね、姫様以外では魔力容量と魔力生成量が逆転している例は確認されていないから、それに魂を取り替えて肉体を維持したなんて前例もないから」
「うーん、お話は解りましたがやはり魔法を実際には使ってはいないので感覚的な物が理解できませんね、要は魔法の本は記憶にある、でも使ったことはないという状況ですからね」
「そうね、使って見ます?」
「いいんですか?」
「これだけの能力なら問題はないでしょう。姫様はお着替え下さい。魔法訓練場へご案内いたします。アイリーン、ジェシカ、コリーン、支度をお願い、あと同行もね」
「「「かしこまりました」」」
という訳でピンクのワンピースにピンクのローブを着せられて(『可愛いですよ~』と言われた。うれしかねえ)フードも被せられて、俺達は魔法訓練場へ向う。
訓練場は天井はなく壁で幾つかの区画に区切られていて、それぞれの区画が対魔法結界で覆われていた。攻撃系などの他人に類を及ぼす魔法は1人で使用するらしい(要は個室)。
で、俺達の個室のひとつを使った。
「姫様は~病で臥せっている事になっているので~人の目に付かない様に1区画取りました~」
だったらピンクでコーディネイトなんかするなよ、どう考えたって目立つだろうが、普通はカーキとかオリーブドラブとか藍色とかだろう。実際ミランダさんは藍色だし。
「さて、どうなさいますか姫様」
「まずは初心者用で」
「じゃあ基本で『明かり[ライト]』の魔法になさいますか」
「はい、手順をひとつずつお願いします」
「解りました、ではまず地面に白墨で魔法陣を描いて下さい」
地面に『明かり[ライト]』の魔法陣を描いてゆく日常生活用の民生魔法なのであっさりしている。でも始めての人はまずはここから始めるとの事なので俺も、初心忘れるべからず、何事も最初が肝心。
「手のひらを上に向けて、次に呪文を詠唱し、その後に発動キーを」
手のひらを上に向けて呪文を唱える。
「我が手に輝きを 『明かり』」
その瞬間、太陽が出現した。ミランダさん達の悲鳴が聞こえた。