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魔剣姫  作者: 天蓬元帥
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第24話 身体強化魔法

 障壁の展開が間に合って良かった。まさに間一髪のタイミングだった。

 ミランダさんの様子は、心此処にあらずといった感じだが、さっきの様に呆然としているのではなく、何かを考え込んでいるようだった。


「ミランダさん、何故逃げようしなかったんですか」

 鐵の杭が障壁に弾かれた時、確かにミランダさんは驚きを口にしていたようだった。けど、考えてみればミランダさんには魔法があったんだ、何かの魔法の準備中だったのかも知れない。となると、俺はミランダさんの邪魔をしてしまったか。

 しかし、魔法の無音発動と溜の時間はこう云う時に何をやろうとしているのかが読めなくて甚だ不便だな。


「以前私が使った『鐵杭創成射[パイルドライバー]』は長さは同じくらいだけど、杭の太さが私が使ったときよりも太かったの。多分、姫様の魔力を補填した分だけ魔法力が影響したのだと思うの。それに障壁が異常に硬かった。これも姫様の魔法力が影響してると思うわ。だから驚いてしまって、本当にご免なさい」

 それで驚いた訳か。けど、あんな時に呆然とするなんて、俺にはとても信じられない。

 俺はこういったトラブルの時には、反射的に体が反応するように鍛えて来た……訳なんだが、それは死んだ俺の体の時の話だ。よくもまあ、この体が反応をしてくれたもんだと褒めてあげよう。


「所でこれは障壁?………………姫様?」

 頭上に迫った所でぴたりと停止している鐵の杭を見上げて呟くが、応えがないので俺の方に視線を移し、自分で自分の頭をなでなでしていた俺を目撃したミランダさんは不思議なものを見る目をしていた。


「あ、いいえ、何でもないです、気にしないで下さい。この障壁は俺が張ったんです」

 頭をなでなでしていた手を後ろに隠し、愛想笑いを浮かべ、俺も頭上を見上げた。なに恥ずかしい事をしてたんだ俺は。


「そうですか、助かりました。まさか障壁に弾かれて此方に倒れてくるなんて思わなかったから、狼狽してしまって。魔法を教えている筈の私の方が姫様に魔法で助けられるなんて、姫様に魔法を教える資格なんてないわね」

 がっくりと項垂れ、意気消沈するミランダさん。あー、そういや障壁を一枚破って真っ直ぐ落ちてくるとか言っていたか。

 いやいや、それは困る。落ち込むのは判らないでもないが、そんな事言わずに、是非とも色々と魔法を教えて欲しい。と口を開こうとしたら――


「所で、この障壁はどうやって張ったの。この程度の大きさの障壁でもあの一瞬で張ることは出来ないわ、姫様自身が障壁を張った時も此程速く障壁を張ることは出来なかったでしょう。どうやったの」

 項垂れたと思ったら素早く立ち直って、障壁の方の話を振ってきた。意外とタフだな、ミランダさん。

 俺はその言葉に頷いた。確かに障壁を張った時は、ミランダさんよりは速かったかも知れないけれど、五十歩百歩といった所だった。


「二枚目の障壁を張った時に出入り口を開けるのを試してみたら、すんなりと開いたのが面白かったので障壁を色々と動かして試してみたんです。そうしたら自由自在に変形出来たので、なにか起きた時の為に、此処に親指の先程の小さい障壁を作って置いたんです。それ位の小さな障壁はすぐに張れましたから。実際に一度展開を試しておきましたしね、使えるだろうとは思ってました」

 そう言って、ミランダさんが立っていた位置から後方の、障壁が地面と接している一点を指さした。


「だから、あの一瞬で障壁を広げて、私達に被せたと云う訳なのね。全くもう、こうなって来ると一々驚いているのが馬鹿らしく思えてくるわね……」

 また呆れられてしまった。出来たから念のためにやっただけなんだけどなあ。

 と、その時。豪快な足音と共に雄叫びに近い叫び声が出入り口の方から聞こえて来た。


「ぬおおおっ! 今の轟きと地響きは何でありますか! うおっ、何だこの黒い塊は! おおっミランダ殿とアロマ殿ではありませんか! どうしま――のごわっ!」

 飛び出すようにして現われたのはゴルディア隊長さんだった。

 ゴルディア隊長は鐵の杭とミランダさんを見咎めると、こっちに突入しようとして、辺りに響く程の快音を立て障壁に激突した。頭を抱えてしゃがみ込み痛みを堪えている。うわぁ、これは痛そう。

 隊長さんという割には柔和な人好きのしそうな顔をしているが、意外と喧しい人だな。あっといけね、フード被らなきゃ。アロマは恥ずかしがり屋さん。お父さん達の姿も隠れているのか此処からは見えない様だしな。


「ぬうぅ、障壁か。マルカム、早く障壁を開けてくれ」

 大声でゴルディア隊長はあさっての方向に声を掛けた。誰かいるんだろうか。


「ゴルディアの旦那、私の方は既に入り口を開けていますよ。開いていないのはミランダ様が張られた障壁の方でして」

 老齢な男性の声がゴルディア隊長へと掛けられた。落ち着きのある、話し方をしている。

 マルカムと言う人は、一体何処から話しかけているんだろうか、姿が見えないな。


「おお、そうか判ったマルカム。ミランダ殿、済まないが障壁を開けてもらえないだろうか」


「ちょっと待ってゴルディア隊長、今障壁を開けますから」

 ミランダさんがゴルディア隊長に手で合図を送るのに僅かに時間が掛かった。ミランダさんでも障壁を開けるのは若干の時間が必要なんだ。道理で一瞬で障壁を展開した俺は呆れられた訳だ。

 合図に頷いたゴルディア隊長は障壁が開いたものと思い此方へと足早に踏み出した。


「ぐあっ!」

 が、俺が張った障壁があったので、ゴルディア隊長は再び障壁にぶち当たってしまった。御免ね忘れてた。


「ご免なさい、もう一枚張ってあるのを忘れてしまって……もう通れるわ」

 咄嗟に誤魔化したミランダさんが障壁を開けてと視線で語ってきたので、さっさと障壁の出入り口を開ける。

 ちゃんと二枚とも開けたよ、一枚残してもう一回ゴルディア隊長が障壁に激突するなんて天丼ギャグは俺はやらない。


「ううむ、この黒い物体は、障壁の上に見事に乗っている様ですね。ミランダ殿、これを退かせる事は出来ますか。それとも我輩が退けても宜しいですか」

 近寄ってきたゴルディア隊長は、目線より僅かに高い位置にある杭を見てそう言った。


「お願いできるかしら、ゴルディア隊長。多分相当に重いと思うのだけれど、一人で大丈夫なの」

 これ幸いといった感じでミランダさんはゴルディア隊長にお願いする。

 うーん、俺が障壁を動かせば落とせるとは思うんだけど、ゴルディア隊長も居ることだし、ミランダさんが障壁を張っているとも思っている様だし、ミランダさんに任せよう。


「勿論自力では無理でしょうが、身体強化の魔法を使えば、障壁の上から落とす位、我輩一人で十分でしょう」

 胸を張り、自信ありそうな声で答える。荒い鼻息が此処まで届いて来そうだ。ま、障壁があるから此処までは届かないんだけどね。

 この人はそんなに凄いのだろうか。材質は判らないけど地響きからしてトンの単位は優にありそうなんだが。


「でしたらその魔法の使い方をこの子に教えてあげられないかしら、先日ゴルディア隊長が街区の様子を検分しに行く時、身体強化の魔法を使用したでしょう。『すっごい速さで走って行ったの~ 格好いいの~』っでこの子が大喜びして、興味津々に魔法の事を聞かれてしまって困っているのよ」

 そう言ったミランダさんはフードの上から俺の頭にぽんっと手を乗せて、がっくんがっくんと俺の頭を揺さぶった。痛いよミランダさん。

 魔法を教えてくれるように言ってくれたのはいいけど、これじゃあ俺がとても困った子みたいに聞こえるじゃないか。それに、途中の滅茶苦茶舌足らずな話し方は何なんだ。幼稚園児じゃあるまいし、いくら何でもあの話し方は幼すぎるだろう。

 そう不満が湧いて出たのだが、エリックさんと会った時に自ら似たような言葉遣いをしていた事を俺はころっと忘れていた。

 俺はミランダさんに何か悪いことでもしたのかと思い、そっと様子を伺うと、ミランダさんの瞳には妖しい笑みが見て取れた。もしかして俺を苛める気なのか。


「アロマ殿、そんなに我輩はすっごい格好良かったのですか」

 上機嫌な声でゴルディア隊長が聞いてきた。人の良さそうな顔が、相好を崩している所為でだらしない顔に見えてしまう。

 でも、ゴルディア隊長手ずから教えてくれるのならその方がいいのかもしれない。何の隊長さんかはしらないけれど仮にも隊長さんだ、その内にこの人と手合わせが出来る事もあるかも知れないしな。

 とりあえず、アロマは恥ずかしがり屋って事だから、ゴルディア隊長に背を向けたまま、こくこくと縁起良く合計八回も頷いた。あー首が疲れる。


「おお、そんなにも我輩は滅茶苦茶格好良かったでありますか、我輩は大変嬉しいであります。所で、アロマ殿は身体強化の魔法の取得は済んでいるのですかな」

 

「この子はまだ取得していないわ、私が取得だけはしていたので、後で折りを見て魔法だけは教えるつもりだったの。ただ、身体強化系の魔法は特殊でしょう、運動が苦手な上に攻撃魔法や他の魔法を優先していたので、後回しにしていたのよ」


「では、アロマ殿は魔法の取得から始めなくてはいけませんね。しかしミランダ殿は数々の魔法に加えて、身体強化の魔法までも取得しているとは、やはり才女と云うのはこう云う事を言うのですな」

 感心して頷くゴルディア隊長。


「その言葉は、今一番聞きたくない言葉ね」

 ミランダさんは少しそっぽを向いて、ボソッと呟いた。今なんて言ったんだろう。


「何か言われましたか、ミランダ殿」


「いいえ、何も。折角だから、私も教えて頂いていいかしら」


「勿論喜んで。ミランダ殿に魔法を教えるとは些か僭越な気もして参りますな。ただ、障壁の白濁化が進んでますからな、まずはこれを退けて落ち着いてからにしてはどうですか」

 頭上を見上げると。障壁と杭の接触部分周辺が白濁している。白濁化はじわじわと浸食されて広がっているような印象を受ける。

 ゴルディア隊長が気にしていると云うことは白濁化は障壁の寿命を縮めている証だと考えていいんだろうか。この杭滅茶苦茶重そうだしな、さもありなん。さっさと落っことして貰うに限るな。


「その方がいいようね。ねえゴルディア隊長。出来たら無音発動は無しでお願い出来るかしら。魔法の取得もまだなこの子にはその方がいいと思うの」


「ふむ、それで習得が出来れば手間も省けますな。では、さっさとこの黒い物体を退けるとしようか」

 頷いて答えたゴルディア隊長だったが、途中から口調も雰囲気も真剣さの感じられる雰囲気にがらりと変わった。


「我が身に光の速さを!『加速』(アクセル)LV1(ワン)

「我が身に無双の力を!『剛力』(ストロング)LV55(フィフティファイブ)

「我が身に鋼の堅さを!『頑健』(タフネス)LV30(サーティ)

「我が身に安息の風を!『体力』(スタミナ)LV1(ワン)

 魔法陣を魔力展開して呪文と発動キーを詠唱する。これを四回続けて行った。

 ん? 四回? 一回多いな。


「ふんっ!」

 杭は端を地面に、先端が鈍角で尖っているもう一方の端から五分の一の地点が障壁の上に乗り、斜めになった状態で止まっていた。

 障壁上から地面へと伸びている杭の横に両手を当て、気合いを込めて鐵の杭を押し出した。

 精一杯力んで、ようやく動くかと思いきや、拍子抜けする位あっけなく障壁の上から転がり落ちて、地響きを立てた。やっぱり音からすると1.5tから2tはありそうだな。とんでもねえな、身体強化の魔法の威力は。

 杭を阻んでいた障壁はもういらないだろうな。けど消したいが消し方が判らない。『明かり[ライト]』の時の様に消えろと意識を飛ばしてみたが駄目だった。自由自在に変形は出来るのに変な話だ。仕方がないので、小さくして最初に張った位置に置いておくことにした。邪魔にはならないだろうし、最大12時間とかって話だからその内に消えるだろう。

 ゴルディア隊長が杭を地面に落とした時、障壁の白濁化した部分がほんの一瞬で消えてしまったのを目にしたミランダさんは、呆れと驚きと冷ややかさをない交ぜにした視線で俺を見ていた。

 これで、身体強化の魔法は手に入った。正直言って滅茶苦茶嬉しい。小躍りしてしまいそうだよ、えへへっ。


「アロマ殿の口元が緩んでますな。もしかすると我輩の格好いい姿に喜んでくれているのですか」

 フードを被っているから口元だけしか見ないんだったな。笑っちまっていたか、仕方ねえよな。もし地球で八歳になっていたら身体強化魔法なんて役に立つものに出会う事なんでなく途方に暮れていんだからな。へへっ。

 そもそも地球にいたら八歳の幼女になる事はないだろう事もそっちのけで舞い上がっていた俺だった。


「うん、ゴルディア隊長さん、すっごく格好よかったの~、アロマもあんな事できるかな~、格好いいゴルディア隊長さんにアロマ魔法を教えて欲しいの~」

 教えて貰うんだから、フードを被ったまんまではでは礼儀知らずだよな。被っていたフードを脱いで、ゴルディア隊長を仰ぎ見る。舌足らずな口調と目一杯の笑顔で教えて欲しさをアピールをする。無邪気に笑えているだろうか、女の子らしく両手の握り拳を胸の前で合わせているが、可愛く見えているだろうか。一瞬、昔の自分の姿で想像してしまった俺は、のたうち回りたい気持ちに駆られてしまった。


 フードを脱いで露わになった顔を見せると、ゴルディア隊長は目を見開いて俺の顔をしげしげと眺めていた。その内に顔だけでなく俺の周囲をぐるりと一周し上から下まで丹念に眺め、髪が見たいと言ったので服から引っ張り出して見せる。

 やっぱり瞳の色と、髪の色が気になるんだろうな。この世界に来て会った人はまだ少ないけど、見る限りでは地球と変わりはない。どう考えてもこの体の色彩は異質だよなあ。ゴルディア隊長だってブラウンの髪と瞳だ。


「ほう、アロマ殿は見目麗しくとても可愛らしい姿ですな。将来はカラドゥスの至宝と呼ばれた王妃様と並び称される程に美しくなるやも知れませんな。いやはや将来が楽しみですな」

 けど、視点はそこじゃあなかった。この髪と瞳の色は気にならないのだろうか。


「お母さんと並び称されるなんて一番聞きたくない言葉だよ」

 はっはっはと豪快に笑うゴルディア隊長に俺は俯いて小さく呟いた。

 えらい事を言われたもんだ。勿論お母さんは嫌いじゃないさ、好きだよ。でもあの胸と並び称されるのだけは絶対に御免だ。


「何か言いましたか、アロマ殿」


「ううん、おっきくなったら美しい王妃様と同じになれるなんて嬉しいなって言ったの~ゴルディア隊長さん、アロマ早く魔法を教えて欲しいの~」

 無邪気な笑顔を装う。疲れるよなあ、早く魔法の説明に入って欲しいんだがなあ。


「おっとそうでしたな、アロマ殿、魔法の取得は出来たのですか」


「うん、全部出来たの~」

 無事取得済みだ。待ってました、さあ先へ進もう。


「なんと、それは凄い。ますますアロマ殿の将来が楽しみですな。時にアロマ殿は将来の伴侶などは決まってはいないのですか」

 なんだ唐突に。おいおいおい、本題に行くかと思ったら、何か変な雲行きになったぞ。

 大体、何故伴侶なんて事を聞いてくるんだ。ローズマリーは八歳なんだぞ、こっちの世界では八歳で結婚を決めるのか? 冗談じゃない。そもそも男相手に結婚なんて出来るもんか。

 こんな話しに拘わるとヤバいことになる。ここは逃げの一手と行こう。と云うか他に手はない。


「アロマよくわかんないの~伴侶ってなーに」

 えっと、こう云う時は、表情は上目遣いで、右のほっぺに人差し指を当てて、思いいっきり首を傾げて、後ろ手に手を組むんだったよな。で、左足を軸足にして、右足を踵辺りで交叉するっと。て、ほっぺに指を当ててたら後ろ手に手を組めないだろうが。まったくもう。まあ左手はどうでもいいや。


「伴侶と言うのはね、アロマちゃんが結婚をする相手の事なんだよ、お母さんから聞いていないのかなあ」

 ぐ、食い下がってくる。何故か子供に言い聞かせようとしている口調になっている。


「そんなの知らないの~」

 駄々をこねるような拒絶のポーズを取るんだけど、さらに幼くなってしまって面白くない方向に話が向かってゆくんじゃないかと内心冷汗をかく。


「そうなのかあ、ミランダ殿、アロマ殿に婚約者とかはいないのですか」

 お、口調がもとに戻った。


「なぜ、私に聞くのかしら」

 ん? 何故かミランダさんの声が固い。


「ラドック殿からはアロマ殿は孫のようなものだと伺っていたので、ミランダ殿の娘だとばかり、違うのですか」


「失礼ね、私はまだしょ……ゴホ、ゴホ、私はまだ将来を決めた相手はいないわよ。こんな子いる訳無いじゃないの」

 きつい口調でミランダさんは答え、言った後ではっとした顔になる。こんな子って……ずいぶんな言われ方じゃないか。

 咽せた振りして誤魔化した言葉を俺は知っている。お父さんとお母さんの夜のあれ(・・)を目にしたあの夜から、お母さんは寝る前にお姉ちゃんの部屋にやって来ると、俺の服を脱がせて女の子の体はどうのこうのと説明されたり、男という者はあーだこーだだの、狼男(ウェアウルフ)の目なのですだのと、終いには美しく可憐で可愛らしいあなたは狙われてしまうのですとか、襲われてしまうのですとか、そんな事を延々繰り返し聞かされたんだ。

 一緒に来たメイアさんとやらは慇懃な態度で王妃様の仰る通りですだの、王妃様に間違いは御座いませんとかばっかり言う始末。お姉ちゃんは喜んで話しに食い付くし、最後にはコリーンさんたちまで混ざってやいのやいのと喧しいことこの上なかった。さっきのポーズもこれらのレクチャーの結果だ。有難いが少し夜になるのが嫌になって来てるんだよな。いやいや、文句を言ってはいけないな。

 ミランダさんって結婚していないんだな。だったら子供は出来る訳無いよな……子供か、考えるだけでもおぞましい話だ。


「そうですか、ミランダ殿は決まった相手はいらっしゃらない。あっはっは、これは失礼な事を言ってしまいました。そうですか、そうですか」

 ミランダさんの答えにゴルディア隊長は随分と嬉しそうだ。

 そんなにアロマの母親が誰なのか知りたいのか、何でだ。そう云えばお母さんも俺に伴侶がいたかと聞いてきたな。こっちの世界では結婚の年齢は日本とは違うのかな、違うかもなあ。その内に聞いてみようか。あ、でも下手に藪を突いて蛇が出たらやだしなあ。

 母親が誰かなのかを知らないとなると、ラドックさんはアロマと云う名前だけしかゴルディア隊長には話してはいなかったのかも知れない。


「それでは、アロマ殿の両親は……」


「アロマは私の娘ですよ、ゴルディア・レイアーク卿」

 なおもアロマの親を知りたがる素振りを見せたゴルディア隊長に、この区画の入り口の方から声が掛かった。この軽薄感のある声は……。


「フレグランス卿、何故この様な所に……はっ、陛下、それに王妃様。フローラル姫まで御一緒とは、一体これは……」

 ニヤけた表情の伯爵と、何故か顔が赤らんでいるお父さん、穏やかに微笑んでいるお母さん、こっちにすっ飛んで来たそうなのを止められているお姉ちゃん。勢揃いだった。

 その一同を目にして混乱していたゴルディア隊長ははっと気づき、慌てて右足の膝を地に着け、右手で左の肩を掴む。どうやらあれが国王に対する礼なのかな、エリックさんとはちょっと違うみたいだけど。考えてみればゴルディア隊長って何の隊長なんだろう。


「ミランダ殿が最近会得した最上級魔法を陛下に披露をする、と聞いたアロマが見たい見たいと駄々をこねましてねぇ、こうして見物に来てた訳ですよ。所でレイアーク卿はいったいどうして此方に?」


「我輩先日『明かり[ライト]』の魔法を取得しまして、部下達の手前、今更恥ずかしく言えませんのでこうして一人こっそりと練習を……」


「なるほど、それで此処にいた訳ですか。ではアロマに身体強化の魔法を教えるかわりに、アロマからライトの魔法を教えるというのはいかがですか、ミランダ殿も身体強化の魔法を学ぶ為に同行してくれるでしょう」

 残念だけど俺には教えられない。考えれば出来てしまう所為で、コントロールのコツ自体を知らないんだから。身体強化はミランダさんも教えてほしいみたいだし、ミランダさんにも来てもらわないと。


「おお、それは助かります、是非ミランダ殿にもお願いしたい。勿論アロマ殿にも」

 どうもミランダさんの方に熱が入っている気がする。まあミランダさんは魔法をいっぱい知ってるし、きちんと会得しているだろうし、ラドックさんの娘だし、八歳児に教わるよりはミランダさんを選ぶだろう、当然だな。


「ミランダ殿にお願いしたいと云うのは判りますが、何故アロマもなんでしょう。レイアーク卿は私の娘のアロマに何か思う所があるのですか」

 いつの間にか伯爵のニヤついた笑みが消えていた。至極真面目な顔をして尋ねる。伯爵はこんな顔もするんだ。


「そうでした、フレグランス卿のご息女とはつゆ知らず、大変失礼を致しました。我輩はアロマ殿を将来有望な娘と思い、嫁にと――」

 それに気押されたのか、表情を改めゴルディア隊長はとんでもない事を口にした。


「ローズマリーをお嫁さんになんて、そんなの駄目よ。ローズマリーは誰にも渡さないわ!」

「無論だ!貴様歳を考えろ!」


「あ、いや、我輩は、え? ローズマリー……姫?」


「あっ!」

「むうっ!」

 沈黙が辺りをを支配する。俺も言葉が出ない。嫁……だと、やめてくれぇぇっ!

 軋む音が聞こえてきそうな程のぎこちない動きでお姉ちゃんとお父さんは顔を見合わせた。交わされた視線は「どうしよう? お父様」「うむ、そうだな」といった感じに見える。

 伯爵は目眩を押さえるかの様に額に手を当て、嘆息した。

 全く、伯爵だけ顔を出せば良いのになんで二人も一緒に顔を出したんだよ。俺の苦労はどうしてくれるんだよ。しかも嫁だと、ゴルディア隊長は変態だったのか? 勘弁してくれ、俺はこの人に魔法を教えて貰っても大丈夫なのか?


どうも月一ペースになっています。もう少し次話は早く投稿したいです<(_ _)>

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