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魔剣姫  作者: 天蓬元帥
17/26

第15話 晩餐

 身支度を調えた俺達はお姉ちゃんの部屋へ一度戻り、晩餐の準備が出来るまで待つ事にした。

 途中お姉ちゃんが俺に抱きつこうとにじり寄ってくるのをコリーンさん達に撃退されていた。お姉ちゃん落ち着きがないよ。


「ふう、よいしょっと、あーなんか疲れたなあ」

 あー、年寄りくさい、やっぱり第一課題は体力アップだな。


「姫様~お衣装が皺になってしまいますので~だらしなくされてはいけませんよ~」

 あ、そうか。折角の服が皺になったら拙いな。背筋を伸ばして椅子に座り直す、以外と大変だなこういった暮らしは。

 

 すると、お姉ちゃんが俺の横に椅子を持って来てもらって、そこにちょこんと座った。

「ね、ローズマリー、手を繋いでもいい?」

 お姉ちゃんがそんな事を言ってきた、抱きついて服が皺になったりしないように気を遣ってくれているんだな。

 

「ん、いいよ」

 俺が手を差し出すと、お姉ちゃんが握ってきた、手の温もりが伝わってくる。抱きつかれるのと違い、何か不思議な気分になる。

「お姉ちゃんの手は温かくて柔らかいね、やっぱり女の子の手は違うんだ」

 俺は何を言っているんだろう。

「ローズマリーの手だって、小さくて温かくて柔らかいのよ、女の子だもの、ほら」

 お姉ちゃんが繋いでいる手を上げて見せる。現実が目の前に帰って来た、ほっとする。でも、小さいかあ、そうだよね。

「私ねローズマリーと手を繋いだ覚えが、あまりないのよ」

 多分、毎度抱きついていたからじゃないかな。

「だから、この手はもう放したくないの、ずっと一緒にいてくれるわよね、お姉ちゃんと一緒に寝てくれるわよね、ね」

 気持ちは判るけど、どうなんだろう、偽名だけどアロマとして行動をする事になるといつも一緒と云う訳に行くのだろうか。

 って一緒に寝るの?まあ、寝るぐらいならいいか、お姉ちゃんの願いだからね、抱き枕にさえされなければいいか。

「しばらくはお姉ちゃんの部屋にお邪魔する事になると思うから、いいよ」


「本当?有難うローズマリー、大好きよ」

 お姉ちゃんは満面の笑みだ、この笑顔は大切にしてあげたい。女の子は笑顔でなくちゃ。あの子も笑顔が可愛い……忘れよう。

 和やかな雰囲気の中、しばしの静寂が訪れる。

 そこへ、晩餐の支度が出来たとの知らせが来たので、お姉ちゃんの部屋を出て晩餐の席へと向かう。コリーンさん達は待機だそうだ、一緒に食べられれば良いのにな。

 行き先は多分ダイニングなんだろうね。そこに着くまでの間、お姉ちゃんは俺の手を握ったまま嬉しそうにしていた。


 ・・・


 扉を開けるとやっぱりでっかい部屋だった。しかも明かるくて煌びやか、部屋の真ん中に真っ白なクロスが掛かった長いテーブルがでんと置かれ、更にテーブルの上には紅白の薔薇があちらこちらに飾られていた、目出度い色合いだ。

 テーブルの両側には空間がいっぱい、壁際には、同じような服を着込んだ人が何人も控えている、給仕をしてくれる人だろうか、やはり贅沢だと思うが慣れねばいけないんだろうな。改めて思う、ここはすごい所なんだな、何もかもがでかくて派手だ。ただ俺は気後れを感じてしまう、まあ庶民だから仕方ないだろ。

 テーブルの一番奥を見るとお父さんが立っている。その隣は王妃様だよな、明るい所で見ると昨日の夜と違い穏やかな笑みがはっきりと見える、俺でも判る位、とっても綺麗な人だ。やっぱりお姉ちゃんは王妃様の娘だな、どことなく感じが似ている。あと王妃様は…大きいんだ、動きづらくはないのだろうか。

 他にミランダさんと男の人と女の人が向こう側に立っている。もしかしたら俺達が一番最後か、風呂場でバタバタしたのは拙かったかな。


「来たか、ローズマリー、フローラル、まずは紹介だけしておこう、ミランダの隣の二人がフレグランス伯爵夫妻だ」

 お父さんの言葉を聞いた途端、お姉ちゃんが俺の手を更にぎゅっと握った。


「初めまして、わたくし、カラドゥス王国第1王女フローラル・フィリアリア・ラーブフェルトと申します」

 お姉ちゃんが、にっこりと微笑み、優雅な仕草で挨拶をする。でも眼差しだけは厳しい、何でだろう。所でお姉ちゃん、挨拶するときは手を離そうよ。

 俺も挨拶しなきゃ駄目だろうな、お姉ちゃんの真似を…出来るかな、恥ずかしいし。出来れば微笑みはなしでお願いしたい。

「ローズマリーはあなた方には渡しません。私は繋いだこの手をもう離したくはありません。晩餐の席はご遠慮させて頂きます。失礼します」


「ちょっとちょっとお姉ちゃん、いきなりそんな言い方したら駄目だよ。フレグランス伯爵夫妻が困ったような顔をしてるじゃ無いか、あれ?フレグランス?」

 俺がそう言った途端、お姉ちゃんは伯爵夫妻をそっちのけで俺の方を向いて声を荒げた。

「もうっ、アロマ・フレグランスって偽名を使っていたのはローズマリーじゃないの」

 あのさ、俺が使おうとして使っていた訳じゃ無いんだけどな。あ、いや男らしくないな、はいその通りです、使っていたのは俺です、すいません。

「ここにその伯爵夫妻がそろって居るって事はローズマリーを連れて行く気なのよ、私からローズマリーを奪うなんて、そんなの許せる訳ないじゃない」

 そんなオーバーな。最後の方のニュアンスもちょっとおかしくない?

「お姉ちゃん、ここに居るからって俺が連れて行かれると決まった訳じゃないよ」


「じゃあ、何故ここに居るのよ」


「それは…例えばお家の名前を借りるから、矛盾とか出ないようにお家の説明を聞かせてもらうとかさ」


「えーそんな事の為に伯爵夫妻がそろって態々来たって言うの。だったらローズマリーが行けば済む事じゃないの」

 なんか段々と言ってる事が子供っぽくなって来てる。きっとこれはあれだな、伯爵夫妻がいる事自体が気に入らないんだな。


「良いの俺が伯爵家に行っても」


「駄目よ、絶対駄目、あんな所に行ったらローズマリーはお姉ちゃんの所に帰って来られなくなっちゃうもの」

 お姉ちゃんはどんどん伯爵家に対する印象が悪くなって行くな。


「そんな事はないよ大丈夫だって」


「ローズマリーは甘いわ、私はお父様に騙されていたのよ、伯爵も結託していたらローズマリーだって騙されちゃうのよ、少しは疑いなさいよ」

 あーお父さんも根に持たれているよ、可哀想に。

 ああそうか、ミランダさんの妹さんが伯爵夫人だから、繋がっていない事もないのか。そう思って見ると、なるほどミランダさんに似ているな。


「いい加減にしないかフローラル、口が過ぎるぞ」

 お父さんのお出ましだ、苦虫を噛み潰した様な顔をしている。対して王妃様もミランダさんも伯爵夫妻もにこやかに微笑んでいる。


「でも、お父様――」


「私は今、至って空腹なのだ、つまらぬ事で食事を遅らせるな、早く席に着きなさい」

 お父さんの強権発動でそれぞれが席に着いて食事を始める事になった。お姉ちゃんはほっぺたを膨らませている。お客さんが居るんだよお姉ちゃん。

 しかし、至って空腹ってそんなに腹が減っていたのか、やっぱりお風呂でバタバタしたのは拙かったみたいだな、申し訳ない、後で謝っておいた方が良いかな。

 結局俺は挨拶しないまま席に着く事になったのだが、これは何だろう。

「ねえお姉ちゃん、この椅子だけ他のと違わない?」


「あ、その椅子はお姉ちゃんが小さい頃使っていた椅子よ、懐かしいわ、今度からその椅子はローズマリーが使ってね」

 え、俺の椅子?嬉しいけど、子供用…だよね。膨れていたお姉ちゃんの機嫌はいきなり直っていた。

 でもどうやって座ろうか、座面が高くて直接は座れないぞ。

 

「姫様、失礼致します」

 壁際に控えていた人が、思案している俺の腋の下に手を入れひょいと持ち上げて、椅子にゆっくりと座らせてくれた。スカートの裾をぴっちりと揃え、皺を伸ばしてくれる、至れり尽くせりだ、感謝しなければ。

 足がぶらぶらしてるが、これは仕方ない涙をのもう、そして首元に白い布が巻かれる、これ、やけに大きくないか。

「これ、大きくないですか」

 お姉ちゃんを見ると、俺のよりも全然小さい。


「お召し物を汚されるといけませんので、こちらをお使い下さい」

 にっこりと微笑んではいるが、その目は『あんたは幼女なんだから、服が汚れないように大きいのにしたのよ、黙って食べなさいよ、お嬢ちゃん』と語っているように見えるのは、俺の被害妄想だろうか。

 そしてテーブルに体がくっ付く位に椅子を押し込んでくれた。これで何とかご飯が食べられそうだな、しっかし床屋にでも来たみたいだ、この服を着るのに被った精神的苦痛は無駄だったのか。

 そしてお皿が目の前に置かれたんだけど、やっぱり箸がない。お姉ちゃんを見ると、フォークとナイフを使っている、あれかっ!

 左手にフォークで右手にナイフだな、よかった右手にフォークを持ってたぜ。俺も真似して食べ始める、昼はコリーンさんが世話を焼いてくれて、フォークかスプーンで済んだのだけどなあ。

 なんとか不器用ながらも食べて行く。食べながら、ふと気が付いた、食器類の向こう、目の前斜め右に一輪挿しの花瓶の様な物が置いてある。

「ねえ、お姉ちゃん、この小さな瓶は何?」

 カチャカチャカチャンと食器が当たる大きな音が聞こえてきた。ん?なんだろう。


「そうねローズマリーは知らないわよね、食事が美味しければ赤い薔薇、そうでなければ白い薔薇をこの瓶に一輪挿して置くのよ。料理人への感想みたいな物ね」

 ふうん、随分と大雑把な感想だね。

 次のお皿が出てきたとき、問題が一つ起きた。なんだこの黒くて丸っこい物は、葉っぱ類の野菜とチーズっぽいのと黒くて丸いのがお皿の中に入っている。サラダだよな多分。

 黒くて丸っこいものにフォークを刺して、意を決して口に入れる。

 うわっなにこれ、苦くて、酸っぱくて、渋い、美味しくない。お姉ちゃんの方を見ると、食べているように見せかけて、さりげなく左手でお皿を隠していた、隠していた左手を引いた後には、お皿の中に葉っぱが数枚残っている、きっとあの下に隠してるんだな。


國枝一輝(くにえだいっき)君は黒オリーブはお嫌いですか、嫌そうな顔をされてますね」

 声の方を見ると伯爵が笑顔でこっちを見ている。って俺か、一瞬判らなかった。やばい、姫さんの名前に馴染んでる。

 やっぱり伯爵は、事情を知ってるんだな。比較的フランクな話し方をする人だ、気は楽だな。


「苦くて、酸っぱくて、渋いんですよ、これ」


「生前、口にされた事は?」


「食べたのは今が初めてです、けど…」

 俺の家は和食中心一般庶民だ、黒オリーブなんて知らない。


「お口に合わないと、まあ子供の味覚では中々美味しくは感じないでしょう。以前もローズマリー姫はサラダの葉の下に隠して誤魔化してましたから、気にする必要はありませんよ」

 流石に姉妹だな、やってる事は同じか。

 だが、俺は違うっ!

 我慢をしてサラダを次々と口に入れて行く、う、まじぃ、葉っぱとチーズだけなら美味しく食べられるのに、黒オリーブとやらが台無しにしてくれる。

 よしっ、完食したぞ!

 お姉ちゃんのお皿にはまだ葉っぱが残っている、ニヤリ。


「お姉ちゃん、まだ葉っぱが残ってるよ、食べないの」

 いいか、これは意地悪とは断じて違う、言ってみれば、そう、兄心と云う奴だ。


「え、ローズマリー全部食べちゃったの。あ、お姉ちゃんはね、もういいのよ、うん、もう十分なの」

 よしもう一押し、と思ったら次の料理が出てきてしまった、残念。お姉ちゃんは安堵の表情をしている。仕方ない今日はここまでにしてやろう、だが次はこうはいかないぞ、はっはっは。

 その後も料理は続いてゆく、昼の事もある、食べる量は程々にしとこう。



「國枝一輝君はこのままローズマリー姫の名を使い続けるのが難しい事は理解していますね」

 あ、本題かな。


「その前に、國枝一輝と云う名前はもういいです、所詮は死んだ身だし、ローズマリーと云う名前にもなんか馴染んで来ちゃったみたいだから、もういいんですよ」

 考えてみれば、あれだけお姉ちゃんに呼ばれていれば、慣れても来るよな。


「では、そうさせてもらう事にしましょう、それで?」


「対外的には部屋で臥せっている事になっているローズマリーが、人目に付くのが拙い事だとは判っているつもりです」


「結構、フローラル姫も同様に、理解していると考えて宜しいですね」


「それは勿論理解しているつもりよ、でも…」


「フローラル姫はローズマリー姫がそのままの名前でないと、お嫌だと言われますか」


「だって…ローズマリーは私の妹だもの、やっとこの手に取り戻したのよ、なのに…」

 お姉ちゃんにとっては2年もの間、取り上げられてたんだよな。その思いはとても強いんだ。でも、当事者となってしまっている俺が何かを言ってやれる訳もないし、困ったな。


「半年位前でしょうか、宮廷魔術師のラドック殿よりローズマリー姫が城下で魔法の練習をする為に、仮の身分を用意したいと相談を受けましてね」

 伯爵は唐突に説明らしき事を言い始めた。アロマ・フレグランスの件だろうな。

「そこで、我がフレグランス伯爵家でアロマと云う名の幼女を養女にした事にした訳です。幼女を養女にする、はは、これは良い、上手い事を言いますね私も」

 洒落たつもりかこの野郎、俺が嫌っているのを知ってて業と幼女と口にしたな、間違いない、こいつは性悪だ。フランクな奴だなんて思って大間違いだった。

「アロマの出身はクロトの村、王都より離れた、剣山山脈にほど近い村と云う事になっていて、マユリがその村の出身でなんですよ」

 あまりよろしく無い名を聞いてしまった。まあ、マユリには一発かまして置いたから、別に恨みは持ってはいない。あいつが反省してくれていればな。

 それとな、場所が全然判らんよ。

「我が伯爵家には10歳になる息子がいましてね、ローズマリー姫を養女にもらい、今の内からなじませて、招来は息子の嫁にしたいと思ったのですよ、歳も頃合いでしょう」

 お前今、さりげなく俺を養女にと言ったな、養女は偽名のアロマだろうが。しかもなじませるとはなんだ。

「ちょっと待て、俺をあんたの所の息子の嫁にだとっ!養女になればその息子とは義理の兄妹になるだろうがっ!結婚できる訳がないだろっ!」


「いえいえ、一度養女を取りやめれば、ローズマリー姫に戻りますから、晴れて姫を娶る事は出来ますよ、全然問題ありません、貴族ではよくある事ですよ、メリッサも姫の事は気に入ったかな」

 んな、無茶苦茶な。


「はい、とても素直そうで気に入りました、ベンゾインのお嫁さんに是非」

 伯爵にメリッサと呼ばれた公爵夫人が朗らかにそう答える、いや朗らかにそんな事を答えないで欲しい。

 息子はベンゾインと言うのか。

 いや、そんな事もどうでも良い。

「や、止めてくれっ!結婚なんて出来る訳ないだろっ!」


「冗談はそこまでにしておけ、ゼラニウム、もうすぐフローラルの我慢も限界だぞ、それにローズマリーが本当に怒れば、マユリの二の舞になり兼ねないぞ」

 お姉ちゃんを見ると、げっ、俯むいて、両手の拳がフォークとナイフを持ったまま大きく震えている。

 くそっ、夫婦そろって悪ふざけしやがって。

「それから、お前達がさっさと食べないと、次の皿が出ないだろう、それともまだ騒ぎたいのか」

 うわあ、お父さんの強権発動第二弾が出た。やっぱり、食事がらみなんだね。

 結局そのあとは、皆黙々と食べ、晩餐が終わった。思ったよりお腹に余裕があるな、何故だろう。


「さて、単に顔合わせのつもりで晩餐の席としてはみたが、食事だというのにお前達は騒ぎすぎだな、使用人達もやきもきしているだろう。席を変え、私の部屋で話を続けるとしよう」

 そういって、お父さんは一輪挿しに赤い薔薇を挿し、席を立つ。美味しかったんだ。お腹が空いていたなら余計だろう。

 給仕をしてくれていた人達も片付けの準備か、それを合図に退室して行く。

 俺もテーブルの薔薇の花瓶から、赤い薔薇を一輪とって、挿す、ちっと遠いな、一杯一杯に腕を伸ばしてようやっとだ。

 その間に皆先に出ていった、俺も行かないと。

 

「ローズマリー、私達も行きましょう、ほら」

 お姉ちゃんが待っていてくれて、手を出してくれるが、一杯一杯に押し込んでくれた椅子が邪魔で降りられない。

「うん、よいしょっと、うおっ、ずるっ、がしっ、ずずっ、がちゃんばさっ、びたんっ、ぶぎゃっ」

 説明しよう、順に、

 お姉ちゃんに答えて、テーブルに手を突き、降りようと椅子ごと体をひねる掛け声。

 バランスを崩し、上げた悲鳴。

 椅子からずり落ちそうになる音。

 テーブルのクロスを掴む音。

 でもやっぱり落ちて、クロスを引っ張る音。

 引っ張られたクロスの上に置いてあった花瓶等が立てた音。

 俺が床に落っこちた音。鼻打っちまった。

 俺が上げた情けない悲鳴。

 以上である、くそっ。


「ローズマリー大丈夫?」


「うん、大丈夫、大丈夫、それよりテーブルの上は?」

 鼻がちょっと痛い、さすりながら俺は答える。


「上?あっ、薔薇を挿してある花瓶が倒れて散乱しちゃってるわ、お父様の一輪挿しも倒れて、薔薇がなくなってる、あっ、私のも倒れている」


「お父さんだったら、さっき立つときに、赤い薔薇を挿していたよ」


「そう、赤い薔薇ね、判ったわ、さあ行きましょうローズマリー」

 お姉ちゃんはお父さんの一輪挿しを立てて赤い薔薇を挿した。


 申し訳ないが、後片付けはお願いするしかないかな、ご免なさい。

 お姉ちゃんに手を引っ張られて、俺たちはダイニングを後にした。


 ・

 ・


 俺たちが後にしたダイニングでは、食事の後片付けがすぐに始まっていた。食器類がてきぱきと片付けられてゆく。

 その中小さいかごを持った女性が、一輪ずつ薔薇を回収して行く、とある所で立ち止まった彼女は、それを見てくすっと微笑み、その薔薇だけはポケットに挿し込んで、ダイニングを後にする。心なしか楽しそうであった。


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