第9話 ♪おっ風呂、おっ風呂♪
浴場に行くために部屋を出た途端、
「♪おっ風呂、おっ風呂、ローズマリーとおっ風呂♪」
お姉ちゃんはとっても上機嫌で、足取り軽く体も弾んでいる。が、しかしここはちゃんと釘を刺して置かねばなるまい。
「お姉ちゃん、部屋を出て直ぐにそれですか、そんな事では、一緒にお風呂には行けませんよ」
足を止め、腕を組んで、睨み付ける。
「どうしたのよ、怖い顔をしちゃて、お姉ちゃんとお風呂に行くのが嫌なの?」
テンション上がると、ピントが暈けてくるお姉ちゃんに侍女トリオ、メイドトリオは些かうんざり顔になる。
「フローラル姫様~此方の方はお外では~アロマお嬢様なのですよ~ローズマリー姫様は病に臥せっているのですよ~」
コリーンさんがフォローを入れるも、
「あ、そーだったわね、♪おっ風呂、おっ風呂、アロマちゃんとおっ風呂♪さあ、早く行きましょう」
本当に聞いているのか、判らん返事が返ってくる、頼むよ、ホント。
幸いな事に途中で誰かと出会うこともなく浴場に到着。
「はいっ!とーちゃーく!一番大きい大浴場よ」
一番大きいって事は他にも大浴場なる物があるのだろうか?
扉を開けるとでっかい豪奢な部屋、お風呂に入るんだからたぶん脱衣場だろうと思うけど、脱衣場って雰囲気じゃあないよな。所謂サロンとか呼ばれる物だろうか。
脱衣場(推定)に入ると直ぐに、マユリさん達とコリーンさん達が服を脱ぎ始めた。やっぱ脱衣場なんだ。なんて思っている場合じゃない。
うわ、うわ、うわ、ぽいぽい服を脱いで行くよ、これ以上は男として見ちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ。
顔を手で覆い眼を塞いで俯いている俺に、コリーンさんが声を掛けてきた。
「あら~姫様はどうしてお脱ぎにならないのですか~服を着られたまま入浴されてはいけませんよ~」
この人の声はなぜこういう時にいやらしそうな笑みを浮かべた顔を連想させてくれるのだろう。
「え、あ、俺も一緒に入るの?でも俺男だよ?」
言った途端、全員からくすくすっと嘲笑を浴びた。
「何処に男の方がいらっしゃるのですか~この大浴場は人払いをしてありますので~私達以外いませんよ~」
「いや、だから俺が」
「何を言っているのよローズマリー、言っていいのよね、ね、貴方は私の妹なのだから女の子に決まっているじゃない」
『女の子に決まっているじゃない』頭の中で木霊の様に響く言葉に今更ながら心に刺さって痛い。朗らかに話すお姉ちゃんを恨む筋合いではないのだろうが、その話方が更に痛い。
そうだよね、女の子なんだよね、幼女なんだよね、変えられないんだよね、だから俺の前で皆が服をぽんぽん脱いでしまうんだよね。でも昨日の今日で男を捨てられる、忘れられる訳はない。お姉ちゃんやお父さんを受け入れるのとは違うんだ。そんな簡単に出来る訳じゃない、やっぱり未練がましいな。
とは言っても今後この体で生きて行く以上は慣れなくてはならない事は多々あるのだろう、でも出来れば少しづつ慣れていける様にして欲しいな。
いかん、いかん、弱気になってはいかん。弱っちいこの体もそして心も再び鍛えなくては。今からでも頑張るんだ!人生は戦いだ!再び死ぬまで戦い抜くんだ。
決意した俺は顔を覆った手を退け、上げた俺の目の前には・・・桃源郷が。
「うおぅえおあぁ!!」
情けない叫びを上げ後退り、尻餅をついた俺に、コリーンさんが迫り来る。
「ほらほら~ご自分で脱げない様でしたら、お手伝い致しますよ~」
「揺れてる、揺れてる。下も見えてるし」
コリーンさんのは服を着ている時よりも大きく見えた。着ている時には判らなかったな。いや、そういった眼で見ていた訳じゃ無いよ。
尻餅を突いていて見上げる格好なので、その、なんだ、所謂秘密の花園が。
「お仕えする方をお世話いするのが~私達の役目なのです~たとえ男性であっても何も隠す必要はありません~」
「うそだ、なにその王様設定は、俺達だって風呂で腰に手拭い位は巻くぞ。それが礼儀と言うものだぞ」
「私達は~高貴な方にお仕えするのです~体を隠すなどしてはなりません~さあ早くなさらないと私達が姫様の~」
俺は高貴じゃないぞ、あ、体か。でも高貴なんて良く解らないよ、人間死ねば残るは骨だけ、骨に貴賤など在るものか、と爺ちゃんが言っていたぞ。
焦っていた俺の視界にお姉ちゃんが見えた、やたっ、お姉ちゃんはまだ服を着ている。
「お姉ちゃんだってまだ服を着ているじゃないか」
「え、あらっ?何をしているのネム、早くなさい」
こっちを見ていたお姉ちゃんは俺に言われて気がつくと、直ぐにネムさんに言う、うー俺の馬鹿。
「申し訳御座いません姫様、直ちに」
言われたネムさんとマシロさんは直ぐにお姉ちゃんの服を脱がせに掛かる。やっぱり脱がせるんだ、もしかして俺も脱がされる?
「では~私達も~姫様の御衣装を~」
やっぱり!自爆だ~!
「判った、判りました、自分で脱ぎますから、お願い近寄らないで!」
これ以上近寄られると、もっと見えるから。
慌てて立ち上がって、ワンピースと内側の薄い布、両方の裾を掴み一気に脱ごうとしたんだが、肩の所でつっかえてしまった、あれぇ?
脱げなくてもがいている俺の肋骨を、後ろから両手でわしっと突かんでくる人物がいた。なぜ後ろからと言えるのか、それは前側に指が4本あるからだっ!
などと馬鹿な事を考えていないで、
「誰ですか、コリーンさん?」
「外れです、それは何を隠そうこの私…」
痴女だ!痴女が来た!変態痴女来襲!お姉ちゃんの服を脱がせるのを手伝っていなかったのは、これを狙ってやがったのか!
「言わなくてもいいです、何をしているんですか、マユリさん。しかも指がもそもそ動いていてこそばゆいんですけど、離してくれませんかね。それにあなたは触らずであったはず」
「ちっ、まだですか、光に誘われる羽虫のごとく、姫様のお体に誘われた私の両手が、図らずも触れてしまった事、誠に申し訳御座いませんでした」
なんだ最初の舌打ちは?まだってなんだ?
変態痴女のくせにぬけぬけと、なにが図らずもだ、意図したくせに。
「かくなる上はいかなる処罰も覚悟の上で御座います」
嘯くマユリさんに、
「じゃあ断頭台にしましょう。貴方をこのままにしておくと、世のよ、よ、幼女が大変な迷惑を被ります、野放しには出来ません」
くそう、幼女なんて口にしたくないのに!こいつの所為だ!
「そんなご無体な」
勿論冗談だ、少しは反省しろ。
「無体じゃありません!いつまで俺の体を掴んでいるつもりですか?こっちは服が脱げなくて困ってるんですよ、離して下さい!」
「その様な事をおっしゃられていて宜しいのですか、後悔なさいますよ、くすっ」
何を後悔するって云うんだ。変態痴女猛々しい。
「はいはい~いつまでも痴女してないでマユリは退いて下さい~姫様そのままでは脱げませんよ~後ろのボタンを外さないと~そのまま万歳してじっとしてて下さい~」
言われた通りに万歳したままじっとしていると、コリーンさんがつっかえた服を戻して、背中のボタンを外してくれた。女の服って面倒くさいな。
「はいどうぞ~」
これで服が脱げる。目の前には皆が、スッポンポン、そりゃ風呂に入るんだから当然だよな、俺からすれば壮観なる眺めである、はずなんだけど、なんか違和感が。いやいかん見ないように見ないように。
「姫様~まだ最後の1枚が残っていますよ~」
そうだった、最後の1まい?
俺は後ろを振り向きこそこそした格好で、ぱんつを脱いだ。やっぱ恥ずかしいじゃん、女性の前でパンツ脱ぐなんて。ぱんつはよく小さい子が履いている様なかぼちゃぱんつってやつ?ああ、そういえば俺も小さい子なんだね。
「えへへへー、脱いだ、よ」
恥ずかしい気分を誤魔化すように、にへらっとして振り返ると、
「「「「「「「あはははははー」」」」」」」
7人分の合唱で笑われた。なぜだ?
「姫様それはいけません~女性が体を隠す場合は~この様にするのです~」
コリーンさんが例を示してくれた。右腕で双丘の頂を隠し、左手で秘密の花園を隠していた、なにげに品を作っている。
対する俺は両手で股間を隠していた。しょうがねえじゃん男の性だ。しかし内股なのが悲しい。出来ればこれも矯正しよう。
「いいんだよこれで、俺は胸にそんな邪魔な物なんて必要ない、そんな物があったら動きにくいじゃないか」
コリーンさんの胸を指すように顎をしゃくる、両手で股間を隠しているとやっぱ格好悪いな。
「その通りですローズマリー姫様、幼女は何も無いから美しいのです、さあその至高なるお姿でこの私の眼を楽しませて下さい」
来たな変態痴女。やなこったい、お前を楽しませるつもりはねえよ、俺は負けない!俺は挫けない!
「邪魔な物だなんて非道いじゃないですか~姫様、女の子はこれで男を釣るんですよ~餌が大きくないと大物は釣れないんですよ~」
おいおい今度はコリーンさんが変な事を言い始めたぞ。
「聞き捨てならないなコリーン、それじゃあ僕には大物は釣れないとでも言うつもりかい?」
両の拳を腰に当ててジェシカさんは仁王立つ、ジェシカさんはお胸の寂しい人だった。せめて仁王立ちは辞めて、見えちゃうから。
「そういうことになっちゃいますね~とっても残念です~でも大物を釣るだけが人生ではありません~前向きに生きましょうね~」
「貴方達、いい加減にして下さい。姫様方がお風邪を召されたらどうするつもりですか」
「あ~ご免ねアイリーン、はいはい~馬鹿話は止めにして早くお風呂に入りましょう~」
他人事の様な振りをして、馬鹿話に参加していたのは貴女もでしょう。
「そ、そうね、何か少し寒くなってきたものね早く入りましょう、さあ、さあ、行きましょうローズマリー♪」
俺はお姉ちゃんに背中を押されて一番前を行く、やたっ、これで隠す必要も、皆さんの裸も眼に入らずにすむ。女性の裸は見ないようにするのが紳士の礼儀だもんな。
風呂場に向かうその時の俺の耳にはあれの邪悪なる呟きは聞こえなかった。
「うふふ、もう暫くお待ち下さいねローズマリー姫様。ご自分が非力で幼女なお姫様であると云う事を解らせて差し上げますので、断頭台等と生意気な事を、後悔は先に立たないのですよ」
設定変更により
時刻を24時間表記に変更します
魔法発動キーの表記と魔法名の表記が同一になっているので区別するために、魔法名の表記を変更します。極端に変更するわけではありませんので、以前の分を気にする程ではないと思います。
上記理由により、プロローグ2、第1話~第3話を修正してあります。
第1話は冒頭の説明的部分も書き換わっています、内容的には大幅に変更してはいませんが、星に関わる下りは削除し、不明のままとします。後、学校を表記いたしました。
変更をしてしまい申しわけ御座いません。