Mr.サンタクロース ~誰も知らないサンタの真実~
『サンタクロース』彼の名を知らない人はまずいないだろう。だが、サンタが12月24日‘以外’の日に何をしているのか知る人はほとんどいない。
実は彼は1年中、アメリカ合衆国大統領よりも忙しい日々を過ごしている。そのおかげで、スポーツクラブに通えずメタボリックな体型を維持している。実年齢より老けて見えるのも忙しすぎるためヒゲが白くなってしまったからだ。
彼は今日も忙しい一日を過ごしていた。
「Mr.サンタクロース。また子供から手紙が届いています」
「うむ、そうか。デスクの上に置いといてくれ」
デスクの上に積み重ねられた子供からの手紙はすでにビルディングのようになり、今にも崩れ落ちそうになっていた。サンタの秘書はそのビルディングのてっぺんに慎重に手紙を重ねた。
「今月は子供からのプレゼント要求の手紙ばっかりだ。もう、見るのもうんざりじゃ」
「Mr.サンタクロース。そんなことを言わず手紙を読んでください。それとも、子供の夢を裏切るつもりですか?」
「わっかておる。後で見るよ」
サンタクロースの元には一年中、熱烈なファンレターが届く。もちろん、全てに目を通さなければならない。そして、12月ともなれば、ファンレターの他にもプレゼント要求の手紙が山のように届くのだ。
サンタの仕事はそれだけではない。例えば、プレゼントの選択だ。おもちゃメーカーが持って来る膨大なサンプルの中から良品を厳選しなければならない。遊んでいて怪我をする可能性のあるものや、すぐに壊れてしまう様なおもちゃを選ぶ訳にはいかないのだ。
「今日のスケジュールはどうなっておるかな?」
「はい、Mr.サンタクロース。今日はサンタ代行の面接があります。」
サンタは世界中にプレゼントを配らなければならないが、とても一人では回りきれない。そこで代行のサンタを雇うのだ。
それだって気を使う。家に勝手に入るのだから、信用の置ける者でなければならない。もし、入った家の貴金属が無くなったともなれば、全世界に衝撃が走るだろう。そうなれば、人々の心理は冷え込み、株価は暴落し、世界大恐慌の引き金にもなり兼ねない。
それだけ、サンタクロースの影響は大きく責任は重いのだ。
「ああ、わしはもう疲れた。もっと、気楽な仕事はないものかのう……」
「Mr.サンタクロース。サンタ代行希望の面接の方がいらっしゃいました」
「ああ、どうぞ……」
ドアを開けて入って来たのはショートヘアーの細身の女性だった。
「あの、私、ジョアンナと申します」
「ん、女性の方ですか……」
「はい、女性ですが、問題はありますか?」
「う~む、まずサンタクロースというのは白いヒゲをたくわえていなければならない。それに、非常にハードな仕事だ。トナカイを使えるのはわしだけで、代行のサンタは走ってプレゼントを届けなければならない。それもイブの一夜だけでだ。そんな華奢な体で務まるかね?」
「大丈夫です、体力には自信があります。マラソンで鍛えました。白いヒゲは付けヒゲを用意します」
「だか、何故サンタクロース代行の仕事を希望するのかね? 給料だって安いのに」
「はい…… 実は去年のイブの日、私の息子が病気で亡くなりました。息子は息を引き取る間際までサンタさんが来るのを待っていましたが間に合わなかったのです。それで子供たちに少しでも早く確実にプレゼントが届くようにサンタさんの手伝いをしたいのです」
「そうだったのか。それはすまない事をした。なにせ、イブの日は街は大騒ぎで沢山の人が出ている。その中をかき分けるように大きな袋を運ばなければならないのでとても時間が掛かるのだ」
Mr.サンタクロースはジョアンナの熱意に押され、今まででは異例と言える女性を起用することになった。
彼女は準備の段階から懸命に働いた。プレゼント配布先のリスト作り、配布ルートの作成、プレゼントの仕分け等々、それも効率的に正確に配れるように工夫した。
そして、いよいよイブの日が訪れた。
「さあ、サンタ代行の諸君、今日は12月24日クリスマスイブ、本番だ! ミスのないよう、しっかりと頼むよ」
サンタ代行たちはそれぞれの担当地域に走っていった。
唯一の女性サンタ代行のジョアンナはその細い体で重い袋を担いで必死に走った。途中でパーティーの集団に道を塞がれようが、酔っ払いに絡まれようが、全力で走った。少しでも早くプレゼントを子供たちに届けられるように。
そして、全てのプレゼントが無事届けられた。
「諸君、御苦労だった。これで全てのプレゼントを配り終えた。予定よりも2時間も早く終わったよ。これもジョアンナのおかげじゃ」
「Mr.サンタクロース、お願いがあります」
「なんじゃね、ジョアンナ」
「そこに予備としてとってあるプレゼントを二ついただけないでしょうか?」
「ああ、かまわんよ。君はよくやってくれたからね。だが、子供たちには全て配り終えたはずじゃが?」
「一つは去年、手に取る事ができなかった私の息子に贈りたいのです。きっと、彼も天国で喜ぶでしょう。そして、もう一つはあなたに! メリークリスマス! Mr.サンタクロース」
Mr.サンタクロースは今まで数え切れない程のクリスマスプレゼントを贈ってきたが、自分がもらうのは初めてだった。
「ああ、ありがとうジョアンナ。プレゼントをもらうのがこんなに嬉しいとは……」
Mr.サンタクロースは来年のクリスマスイブに向けて、また一年頑張る決意を固めた。そして、どんなに忙しくとも、この仕事を辞めたいなどと口にすることは二度と無かった。
The End
“Merry Christmas!” サンタより