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第二話-5

「ちょうどココに思春期真っ只中の少年がいるわけよ。あの眼鏡、歳は三十かもしれないけど、頭の中は中学生とか高校生くらいだから、ここの思春期の少年を誘惑出来ればマスターもイチコロじゃない?」

「どんな理論ですか」

 本気が横から口を挟む。

「一見堅物に見えるけど、この本気くんは年相応にスケベなくせにそれを隠しているムッツリスケベだから、彼を誘惑できればほとんどの男を誘惑できる自信がつくわよ」

「なるほど、勉強になります」

 と言ったのは神楽である。

「ならねえよ。先輩、意味がわかりません」

「あ、あの、どうすれば良いんでしょうか」

 おどおどとだが、淫子がそんな事を言う。

「騙されてるって!先輩の言う事の九割八分は嘘と暇つぶしで出来てるから、聞き流した方が良いって」

「ぬっふっふ。ココは常識人ぶっている本気くんより、同性の超頼れる美少女先輩であるこのかすみの方が信用されているという事よ」

「そんな事は無いです。いたいけな下級生が、胡散臭い卒業生に騙されているだけでしょう。インコちゃんも騙されてるんだって」

「あ、あの、私も一応サキュバスですから、男性の誘惑のやり方は今のうちから身につけておいた方が良いかな、とも思いますので」

「騙されてる!そういうのは焦って身に付けるものじゃなくて、人生経験を積んで人としての魅力を磨き上げてから」

「ぬるい!何を負け犬理論を振りかざしてんの?本気くん、恋愛をなめてるでしょ?そんな生易しい事言ってるとあんたも魔法使いの仲間入りよ?それに女にとって、男の誘惑のやり方ってのは武器なのよ!ねえ、竹取さん?」

「先輩、何か嫌な思い出でもあるんですか?」

 急に熱を帯び始めたかすみに対して、話を振られた神楽が尋ねる。

 かすみの場合、下手に誘惑がどうこう言うより黙っていた方が有利な気はするのだが、本人の性格上余計な事を言わないと気がすまないのだろう。そして、彼女が口を開いた場合どういう失敗になるかは予想できないが、失敗になった事だけは確信が持てる。

「嫌な思い出は特に無いわね。私って恋愛で苦労していないから。っていうか恋愛って良く分からないのよね。あんまり異性が近くにいないから」

 それはそうだろう。

 と本気は思ったが、そこは黙っておく。

 ついでに言えばUMA研究部以外あまりかすみの近くにはいないのだが、これも本人のために触れないでおくことにする。

「でも、シェイクスピアから十八禁まで色んな文献で知識は豊富だから、何でも聞いて」

「うわ、超頼りない。やっぱり騙されてるよ」

 今でも淫子に抱きついたまま離れようとしないのも、やはり異性になれていないのか、同性が好きなのかは判断しかねるところである。

「でもインコちゃんがマジくんを口説いて良いんですか?」

 と尋ねるのは神楽だった。

「練習台には手頃じゃないの?」

 酷い言われようである。

「でも、先輩とマジくんって付き合ってるんじゃないんですか?」

「はあ?」

 と、気の抜けた声を上げたのは本気である。

「俺が先輩と?」

「あら、バレちゃってた?」

 かすみがようやく淫子から離れて、頬に手を当ててわざとらしく恥ずかしがる。

「バレるって何が?どう考えてもありえないだろう。俺にだって選ぶ権利はあるから」

「でも本気くん、私に誘惑されてUMA研究部に入ってるよね?って事は私の誘惑術は実績があるって事じゃないの?」

 それを言われると弱い。

 だが、考えてみるとあの時のかすみは黙って微笑み、最低限の情報のみを伝えてきた。なのでつい興味を持ってしまったのだが、あの時にいつものように「うへへへへ」と笑っていれば、おそらくは付いていく事は無かっただろう。

 やはりかすみの場合、下手に口を開かない方が遥かに誘惑の可能性を高める。

「え?違うの?」

 驚いている神楽があまりにも意外だったので、本気は驚いた。

 どちらかといえば、本気は神楽と付き合っていると言われる事の方が多かった。さらに神楽も恋愛などに疎そうなイメージを本気は持っていたので、誰と誰が付き合っているといった高校生的恋話にはまったく興味が無いと思っていたためである。

「あら、ライバルからも認められてたの?」

「ライバルって何ですか?どっちが先に月に還るか競ってたんですか?」

「本気くん、徹底的に否定するわね。いっそ既成事実を作ってしまえば、そうも言ってられなくなるんだけど、それだと淫子ちゃんがさらに練習し辛くなりそうだし」

「いや、俺が練習台なのは変更無しですか?そもそもマスターと恋愛関係にならなくてもいいでしょう。楽しい高校生活という望みから考えると、マスターを誘惑して恋愛関係になったら、あんまり楽しい高校生活は送れないと思いますけど」

「ソレとコレとは話しが別でしょ?」

 さも当然、と言うようにかすみが言う。

「何故に?本題はソコじゃなかったの?」

「違う違う。ぶっちゃけ、眼鏡はどうでもいいのよ。ここで淫子ちゃんが本気くんを一生懸命誘惑して、本気くんが困ってるところが見たいだけだから」

「ふざけんな」

 かすみが美少女ではなく、友人の隼人の様な人物であれば、間違いなく殴っていたところだ。

「あの、どういう事ですか?」

 話しについていけてない淫子が、困った様に言う。

「だって、この恥ずかしがり屋の淫子ちゃんが、一生懸命誘惑してる姿を想像するだけでも萌え死にそうなのに、本気くんが堅物ぶって困ってる姿が目に浮かぶでしょ?それがもう楽しみで楽しみで」

「確かに面白そうですね。ねえ、マジくん?」

「マジで殴って良いですか?」

「優しくしてくれる?」

「すっごく痛くします」

 かすみに対して思わず手が出そうになるのを、本気はグッと我慢する。

 落ち着け、本気。このヒトがこんななのは今に始まった事じゃない。こんな事でいちいち腹を立てていたら身が持たないぞ。

 クスっと僅かな笑い声が聞こえると、淫子が笑っていた。

「仲が良いんですね」

「でしょ?私達、付き合ってるから。ね、本気くん」

「付き合いって、どう言うモンなんですかね?例えば俺と先輩って、敵同士っていう設定なら付き合いもあるかな、と思いますけど」

「敵?何で?私がこんなにも愛してるのに、どうしてわかってくれないの?」

「あ、愛し合っているんですか?」

 顔を赤くして淫子が尋ねる。

「騙されてるよ。先輩の言う事はほとんど全てが嘘だからね。信じていいのは一年に三回くらいだよ」

「失敬な!十回はあるわよ!」

「十回もは無いですよ」

 それでも十分過ぎる程に少ないのだが、かすみとしては譲れないところがあるらしい。しかし神楽もそこは否定している。

「でも、仲は良いんですよね?ケンカするほど仲が良いって言うんでしょう?」

「先生の言いそうな事だな」

 あながち間違ってはいないのだが、そういう知識をまず教える辺りはいかにも矢追らしいと言える。

「仲は、まあ悪くは無いかも」

 これ程付き合いづらい先輩もそういないだろうが、それでも一年間はUMA研究部で共に行動し、卒業した今もこうして行動を共にしているのだから、嫌いでは無いのだろう。

「インコちゃん、お願いがあるんだけど」

 かすみが淫子に言う。

「は、はい?」

 本気には簡単に話しかけられる様になっている淫子だが、やはりかすみには苦手意識があるらしく、イチイチ警戒している。

「上目遣いで、コッチ見てもらえる?」

「は、はい?」

 淫子は怯えながら、逃げる様に身構えてかすみを見る。

「そう!その感じ!うわー、ゾクゾクする!」

「インコちゃん、この変態には付き合わなくていいよ。そろそろ先生も帰ってくるだろうから」

「眼鏡が帰ってくる前に、お願いインコちゃん。そんな感じで私を見て、『お姉さま』って呼んでみて」

「ド変態ですね」

 暴走気味なかすみを淫子から引き剥がしながら、本気がかすみに言う。

 次から第三話です。

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