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第一話-3

「そんな面白イベントが行われていたなんて。俺もサッカー部じゃなくてUMA研究部に入ればよかったな。俺のかすみちゃんが待ってるなんて」

「鴨音先輩に一字一句間違いなく伝えておくよ。『俺のかすみちゃん』のところは特に入念に伝えておく」

「冗談だよ、冗談!って言うか、それは勘弁して下さい」

 翌日の昼休み、本気は級友の桂城隼人と教室で話していた。

 隼人は本気の小学生からの友人で、成績は今少しというところだが、その運動神経は超高校級という言葉を体現している。本来なら普通校の北高ではなくスポーツの盛んな西校に行くべき人物だが、何故か北高にこだわっていたので本気も受験勉強に協力していた。

 今でも授業について行くので精一杯のようだが、北高サッカー部ではすでに欠かすべからざる存在になっていて、他にも西校に行かなかったエース級選手もいることもあり、今年は西校を倒して全国大会に行けるかも、と期待されている。

 明るい性格のスポーツマンであり、身長も高く体格も良いため女子生徒からの人気も高いが、本人はかすみの大ファンである。

 かすみの存在を知った時にはすでにサッカー部に入部していたのでUMA研究部とは無縁だったが、本気とかすみと神楽が仲良く下校しているのを見つけて激しく後悔したらしい。

 卒業した今でもかすみの大ファンらしく、本気と話している時には時々「俺のかすみちゃん」呼ばわりしているが、かすみ本人とはまともに話したことが無い。

「なあ、本気。今からでもサッカー部に入らないか?お前が本当に本気出したら絶対サッカー部でも通用するって」

「隼人みたいにはいかないって。俺はゆるゆるやってく方が合ってるんだよ」

 UMA研究部がユルいかと言えば、ベクトルに問題もあるが体育会系のツラさはないのでユルい部類だと言える。

「あ、そうだ。今度の日曜日に西校と練習試合があるんだ。UMA研究部の美少女達連れて応援に来てくれよ」

「まだ四月なのに、もう練習試合か?」

「まあ、合同練習ってとこかな。新入生にどんなのが入ったのか知りたいみたいだぜ?ほら、向こうって特待生とかいるのに普通校に負けられないんじゃねえの?」

 気楽に言う隼人だが、昨年まで連戦連敗、勝負にすらならなかった西校相手に金星を上げた立役者は彼である。もちろん一人の力で勝てるほど集団競技は甘くはないのだが、陸上部が喉から手が出るほど欲しがった瞬足は素人の目に見ても異様なレベルだった。

 西校としても全国予選などで負ける訳にはいかないので、早々と相手に探りを入れたいのだろう。

「それにウチの監督って実戦主義だから、強豪の西校相手となれば喜んで試合組むよ」

「でもウチの連中じゃ、ジャマになるんじゃないかな。いろんな意味で」

 かすみも神楽も黙っていれば美少女だし、一般的な応援の仕方をすればさぞかし華やかになるだろう。

 だが神楽は中学時代に私物の全身ガチャピンスーツで応援に来て周囲をドン引きさせた実績があるし、かすみに至っては応援するために何をしでかすか分からない。

「後輩の子も可愛いんだろ?何でだ?何でお前の周りには美少女が集まるんだ?一体どんな主人公補正だ!」

「女子の人気ではお前の方が圧倒的に上だろう」

 何分外見は良くても、それ以外でのマイナス補正があまりにも大きい。

 ガチャピン好きの神楽にはまだ譲れるが、プライベートでかすみに会いたいとは思わない。さらに後輩の美少女に至っては人間では無い可能性さえあるのだ。

「まあ、応援の件は話してみるよ。UMA探しているよりは有意義な時間だし」

「ちゃんと竹取も呼べよ?っていうか、何で本気と竹取って朝一緒に登校しないんだ?幼馴染みだろ?」

「けっこうそんなもんだよ。少なくとも隣りに住んでるからと言って窓から入ってきたり、朝起こしに来てくれるとか、弁当作ってくれる様な愉快なイベントは無いな。お前だって小学生からの付き合いだから幼い頃から馴染んでると思うぞ、一般的には」

「でも俺、隣りの家に住んでる訳じゃないから幼馴染みのパーツとしては弱いんだよな。住んでる町とかも違うし」

「何を期待してるかは聞かないが、幼馴染みなんてそんなモンだって」

 と二人が話していると、教室の扉がバーンと開かれる。

「本気くん、発見!」

「せ、先輩?何で?」

「いいから、ちょっと来なさい!友達くん、ちょっと本気くん借りていくわよ」

 隼人が答える前に、相変わらず制服姿のかすみが本気の腕を取ってズンズンと歩いていく。

「ちょ、先輩、一体何事ですか?」

 教室から拉致されるように部室に連れて来られた本気は、まだ誰も居ない部室でかすみと二人っきりになる。

 昼休みに誰もいない部室で二人っきりのシチュエーション自体は悪くないのだが、相手に問題があってどうしても嫌な予感しかしない。

「あの、先輩?」

「本気くん、ちょっとここで待ってて。二、三分で戻るから」

「は?あの、先輩?」

 呼び止めては見たものの、かすみは凄い速さで部室から出ていく。

 何なんだ?

 かすみを理解するには自身の常識を破壊しないといけないが、そう簡単に常識から外れた考えが出来る様にはならない。

 今度は何だ?

 椅子に座って大きく息を付くと、一分も経たない内にかすみが神楽の手を掴んで部室に戻ってくる。

「竹取さん?何で?」

「マジくん?先輩、一体何ですか?」

「聞いて聞いて!すっごい大発見なんだって!」

「先輩、めっちゃツバ飛んでますけど。それに近いですから」

 本気が眉を寄せて苦情を言うが、かすみには聞こえていないらしい。

「そんな細かい事はどうでもいいの!二人に確認したいけど、昨日ココでピンクの髪した下級生の色欲淫子ちゃんっていたよね?」

「酔っ払ってるんですか?」

「昨日先輩が超セクハラした新入部員でしょ?」

 二人がそう答えると、かすみは難しい表情でうんうんと頷いている。

「そう、そうなのよね。だとすると、とんでもない事かも知れない」

「どういう事ですか、先輩」

 さすがにいつもと違うかすみに、本気も何か感じて尋ねる。

「私の独自のルートでインコちゃんを調べてみたのよ。そもそも居ない人間を作り出すってそう簡単な事じゃないでしょ?何かしら、どこかしらに不自然なところが出てくるから、魔法で召喚したのか、いたいけな外国人をさらって洗脳したのかなんて簡単に調べられるのよ」

 どんなルートだよ。

 心の中でツッコミを入れるが、そう言う雰囲気では無い。

「で、どうだったんですか?」

「どうもこうも無いわよ。不自然極まるのよ。本当に、まったく本当に突然どこかから湧いて出た、存在しない子なのよ!」

「まあ、サキュバスですから」

 何故か受け入れている神楽が、あっさりと言う。

「え?それだけ?」

「え?他に何か?」

 かすみに対して、神楽が不思議そうに言う。

「だって先生が召喚魔法で呼んだサキュバスなんでしょ?昨日先生も先輩も散々言ってたじゃないですか。何を今さら」

「え?あの、え?ちょっと本気くん、竹取さんが変なんだけど?」

「まあ、今に始まった事では無いんですが、竹取さんはこう言う人なんです。それより俺としてはそれを信じても良いと思ってますよ」

「ちょ、本気くんまでそんな簡単に?」

「いや、せめて常識の通用しない存在にいてもらわないと、先生とか先輩とかが説明つかないと思いまして」

「ああ、なるほど」

 ポン、と手を打ってかすみが言う。

「じゃ、ない!どういう事?私も魔法で出てきてるとか思っているの?」

「俺の常識とか倫理観に照らし合わせると、そっちの方が精神衛生上良かったんですが、どうもそんな事は無さそうですね」

「本人にそんな事言えるマジくんが、時々本当に凄いなって思うよ」

 感心したように言う神楽に、本気は驚く。

 何だと?俺がこのメンバーと戦える?そんな馬鹿な。

「あんた達、意外と精神的にタフなのね。正真正銘の悪魔よ?もうUMAどころの騒ぎじゃないんだけど」

「まあ、完全に人型ですからね。せめて角とか翼とか尻尾とかその辺りのパーツが無いから、私は簡単に受け入れられますよ」

 神楽は事も無げに言う。

 俺は彼女を知っている気がする。悪魔?実在しない?だとすると俺は彼女の何処に引っ掛かっているんだ?

 本気は考え込む。

 当然悪魔に知り合いなどいない。そもそもそんなモノは信じていないし、魔法がどうとか言われてもとても信じられない。信じられないのだが、彼女がいる事は何故か受け入れられる。

 敵意の無さか、それともまったく別の何かがあるのか、今の本気にはわからなかった。

「と、言う事はよ?矢追先生は本当に魔法使いになったって事になるのよ?ココはついて来てる?」

「はい、バッチリ」

 神楽が大きく頷く。

「つまり、正しい術式だったり契約だったりを知れば、私達も魔法使いになれるって事じゃないの?」

「それは無いでしょう」

 これもまた神楽は当然と言わんばかりに、簡単に答える。

「竹取さん、なんでそんな風に考えるの?」

「先輩、魔法使いになる条件知ってます?あの条件は女の身の私達ではクリア出来ないんじゃないんですか?マジくんだって最低でも特殊な条件で三十歳にならないと」

「そっち?私的にはその条件はまったく必要無いと思ってたんだけど」

 俺もそう思う。この場合、先輩の言う事の方がありえそうだけど。

「まあ、先生が魔法使いになったって事でしょ?大騒ぎする様な事じゃないですよ」

「本気くん、竹取さんっていつもこんな感じなの?」

「そうですね、こんな感じですよ?いずれ月に還りますからね」

「あんた達凄いわ」

 かすみは溜息をつきながら言う。

 いや、先輩の方が十倍凄いと思うんですけど。

 大学に入学した後に卒業した高校の制服を来て顔を出すし、ミニスカートで教師にドロップキックするし、新入生にセクハラするし、怪しげな独自のルートで個人情報を調べられる様な人間から感心される様な事は何も無いだろう。

「これはもう本人に確認するしか無いわ」

「本人って、先生ですか?」

「いいえ、インコちゃんの方!」

「先輩!昼休み終わっちゃいますよ!」

 走り出そうとするかすみを、神楽がタックルする様に止める。

「って言うか先輩、衆人環視の元でセクハラするつもりですか?登校拒否になったらどう責任取るんですか?」

「わかった。責任取って私が嫁に貰う事にするわ」

「先輩、いい加減に卒業しましょうよ。大学は大学で楽しい事が一杯ですって」

 本気が優しく説得するが、かすみは不満そうである。

「わかった。じゃ、放課後に誰も見てないトコでなら、何をしてもいいわけね。うへへへ」

「ダメですよ、先輩。部活中には少なくともマジくんと先生の目がありますからね」

「竹取さんは見ないの?」

「場合によっては参加しますから」

「いや、そこは止めろよ」

 やっぱりコイツもダメな奴だ。

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