第四話-2
「まあ、僕は淫子ちゃんのマスターなんだから、僕の目の届く範囲でなら全力で守るけど悪魔祓いってどうやって祓うものなの?それがわからないと対策を練れないんだけど」
矢追が情報を求めてくる。
悪魔祓いの方法はアリアとメッサーで別々の情報をくれた。それはおそらく悪魔祓いの種類は数種類の方法があるという事だろう。
メッサーは、悪魔を祓う方法は直接的にはおよそイメージ通りであり最終的に悪魔を消滅させると言っていた。さらに道具が無いと手が出せないとも言っていたので、メッサーの雰囲気には直接攻撃のイメージは無い。
一方のアリアの言う方法は、マスターと召喚されたものの繋がりを断つ事と、異界門というモノで魔力を吸収して祓うと言う、こちらも本人の性格には合わない間接的な方法と言えた。
方法の脅威で言えば、実はアリアの言っていた間接的な方法の方が危険である。
デメキンに効果が無かったようだが、その異界門と言うのが相当特殊なのか、このデメキンが本格的に例外なのかはイマイチ分からない。
そんな事より異界門と言うモノがどんなモノかも分かっていない状態では、守りようも防ぎようもない。アリアの口振りでは、異界門というモノの魔力の吸収は短時間で終わりそうだった。この家で生活している事を知っていれば、この近辺にその異界門を呼べば淫子とデメキンを消滅させる事もできそうなものである。
それを行なっていないという事は、デメキンはもちろん矢追の家が淫子にとっても拠点になっている事を知らないのか、それを思いついていないのか、異界門というものは何処にでも呼べるものでは無いのかも知れない。
矢追の言う様にどういうものかわからないと対策は練れないのだが、それに対して情報が少な過ぎるのである。
「バーちゃん、何か知ってる?」
「否。悪魔祓いは専門外である」
肝心なところで役に立たないデメキンである。
「先生、秘密の組織から悪魔祓いの情報は得られないんですか?」
神楽が矢追に尋ねる。
「うーん、状況次第だけど難しいかもしれない。淫子ちゃんの召喚に成功した事がバハムートの召喚士にも伝わってたから、完全な秘密じゃないんだろ。ただ、姿を消したと言う召喚士より秘密の組織から情報が流れている、と考えるのが今のところ一番自然だと思うから、そんなところに情報を貰おうとしても上手くいかないだろうね」
「私に良い考えがあるよ」
かすみがポケットから携帯電話を取り出す。
「この秘密の携帯電話のメモリーには、多分他の悪魔祓いの番号があるはず」
「先輩、それってもしかして」
「金髪女が落としてたみたいね」
かすみが悪そうな顔で本気に言う。
こいつ、いつの間に?
そもそも金髪女アリアは布団です巻き状態だったはずにもかかわらず、かすみはいつの間にかアリアの携帯電話を奪い取っていたらしい。
拉致監禁の上にスリまでやってたのか。ガチの犯罪者だな。
さすがに引く行為ではあるが、今のところ有効な情報源は無いと言えるので仕方が無い。
「あ、ほら、メッサーがあるよ。あの人なら話が分かりそうだし、ちょっと連絡してみる?」
まあ、携帯電話の出所を考えるとアリア本人には連絡の取りようもないし、アリアよりは数倍有意義な話を聞けるだろう。その分危険度も跳ね上がるのも事実である。
「じゃ、ちょっと電話してみるわね」
「確かに実力者ではあるだろうが、話は分かりそうな相手である」
デメキンも賛成したので、かすみは他人の電話を使ってメッサーに電話してみる。
その際にわざとらしく本気に擦り寄ってくるが、本気も会話の内容が気になったので我慢する事にした。
『はい?どちらさまでしょうかぁ?』
本人とわかる間延びした声が聞こえてくる。
「私、鴨音かすみと申します。先ほどのところで携帯電話を拾いましたので、もしかしたらと思って掛けてみました」
『それはそれは、ご親切にどうもぉ。お嬢さん、携帯電話見つかったそうですよぉ。新しいお友達に感謝ですねぇ』
実際には犯人からの連絡なのだが、声の感じではメッサーはそれを疑っておらず、善意での行動だと信じているように聞こえる。
これまでの言動でメッサーは良い人そうな印象を受けているので、騙しているのは良心が痛む。
「貴重な物でしょうから、直接手渡した方が良いかと思いましたので、よろしければコチラからお伺いいたしましょうか?」
かすみにもこんな話し方が出来たのか、と本気は感心する。
『それはそれは、ご丁寧にどうもぉ。ですが、そちらはサキュバスさんともお友達なので、こちらに来られると色々と不都合があるんですよぉ。コチラからお伺いしますので、場所を指定していただいてよろしいですかぁ?』
どんな場合でも自分に有利な場所というものはある。
メッサーの言い分は、善意からのものだとしてもホームの有利を手放す反面、相手に情報を与えないという点では悪くない選択である。
かすみの狙いもまさにソコだったのだが、上手くかわされてしまった。
でも、メッサーさんと話している時にそんな事を考えていると、自分がもの凄く腹黒く感じてしまうな。
「あ、その時にまた改めて悪魔祓いの事についてお伺いしてもよろしいでしょうか?」
『はぁいぃ。それで場所ですがぁ、どこへ行けばいいでしょうかぁ』
かすみは場所として、アリアを拉致した空家を指定した。
落ち着いて話が出来る場所であり、何より人目に付かない。メッサー自身は良い人だし話しやすいのだが、あの服装はあまりといえばあまりである。ファミレスなどで注目されるのもちょっと気分が良くない。
そしておそらく一緒に来るであろうアリアも、人の目を気にせず喚き散らすような気がしたので、人目に付かない事を最優先にしたらしい。
そういう所を考慮していくと、風船に擬態できるデメキンは喋らなければ誤魔化せるので、まだマシかもしれない。
『ああ、あのお嬢さんと遊んでいた所ですかぁ。すぐに行けると思いますが、そちらはどうですかぁ?』
「こちらもすぐに行けますよ」
『分かりましたぁ。三十分後にあの建物でお会いしましょう』
メッサーは軽く答える。
「じゃ、インコちゃんと本気くん、行きましょうか」
「はあ?」
普通に言ってきたので、本気は思わず声を上げる。
「何で俺とインコちゃんが?先輩一人で十分過ぎるでしょう」
「えー?か弱い女の子一人を行かせるの?」
「鴨音君の言う通りかな」
腕を組んで矢追は頷いている。
か弱い女の子は、同じか弱い女の子を拉致して尋問したり、誰にも気づかれずに携帯電話をスったりしないと思う。ましてす巻き状態の人間の体をくの字に折る程のボディーブローを放ったりしない。
「でもインコちゃんにとって、悪魔祓いは敵じゃないんですか?敵の前に標的を晒すのは良い考えとは言えませんよ?」
「大丈夫、私達が守ってあげるから」
「じゃ、俺いらないでしょ」
「大丈夫、私達を守らせてあげるから」
何を言っても無駄か。
本気は深々と溜息をつく。
「心配するな、明日唐君。僕たちは予備戦力として待機しておくから、何かあったら呼んでくれたまえ」
矢追はそう言うが、どう見ても面白がっている。
「それだったら先生が付き添うべきじゃないですか?インコちゃんにとって保護者みたいなものじゃないですか」
「でもマジくん、先輩とインコちゃんを一緒にすると、淫子ちゃんの危険は劇的に跳ね上がるんだけど、先生で止められるかなあ?」
神楽も面白がっているのがわかる口調で言う。
その問題があったか。
本来は矢追の方が圧倒的に立場が強いはずなのだが、かすみは矢追に対しては何の躊躇も無く実力行使に出る。
「じゃ、その金魚貸してくれよ」
「否。我は主を守る為に離れる訳にはいかぬ」
「私とバーちゃんと先生は予備戦力として控えておくから、先輩と行ってきて」




