第三話-4
「ななななな、何、何ナニナニ、何か用なの?言っとくけど、私は何も喋らないんだからね!」
す巻き状態から頭を出した金髪コスプレ女は、空家に拉致されたのを知ると、泣きそうどころか半ベソ状態、むしろ号泣一歩手前の状態で喚く。
「何も喋らないって言ってますよ、先輩。どうします?」
「言ってるわね、竹取さん。どうしてあげましょうか」
神楽とかすみは、金髪コスプレ女に二人揃って悪い顔で笑いかける。
デメキンは擬態しているせいか何も喋らないが、目は悪魔祓いを見ている。
「まずは名前から聞いておきましょうか。貴方、名前は?」
「な、何も喋らないんだからね!」
「そうこなくっちゃ。竹取さん、私はくすぐりで行こうと思うんだけど」
「いい考えですね。どれくらいイキます?」
「そうね。不眠不休で四日くらい?」
「長過ぎですって。シャレにならないでしょ。大体不眠不休で四日って、やる側もかなり過酷ですよ。せめて四時間くらいでしょう」
それも十分長すぎると思うけどな。お前ら、どこの拷問官だ。
ノリノリで話すかすみと神楽に、本気は心の中でツッコミを入れる。口に出して言わなかったのは、下手に安心感を与えて長引くよりさっさと話してもらって解放した方が良いと思ったのである。
「じゃ、間を取って四十時間で始めましょうか。うへへへへへ」
手をワシワシと動かしながら、かすみが金髪す巻き女に近づいて行く。
「まず、名前は?」
「フ、フン。名前くらい名乗ってあげるんだからね。アリアトリア・デ・ピニエストロンハルテンと呼ぶことを許してあげるんだからね」
金髪す巻き女が無理矢理表情を引きつらせて勝ち誇る顔で宣言したので、かすみが布団にボディーブローを軽く打ち込む。
「殴っていい?」
「先輩、私にも殴らせて下さい」
ポフポフと軽くではあるが、かすみと神楽がボディーブローを連打している。
「もう一回名乗ってくれる?」
「まったく覚えが悪い連中ね。特別にもう一回名乗って上げるんだからね。私の名はアリアトリア・デごふっ」
布団でカバーされているはずの金髪す巻き女が、苦しげにくの字に折れる。
可愛い連打の中の一発に、シャレにならない重さのものが混ざっていたらしい。
「長い。アリアで良いわね」
「なんですって!私の誇り高い名前を省略するなんて、有り得ないんだからね!」
「その語尾、ムカつくわね」
「先輩、顔は守られてませんから」
拳を振り上げるかすみを、神楽が慌てて止める。
「あ、あの、これは何かの儀式ですか?」
「いや、いい子は見ない方が良いんだけど」
淫子が困って本気に尋ねるが、これの状況を正確に教えるのはかなり難しい。
ついでに言えば、擬態も良いが常識のありそうなデメキンにもあの二人を止めて欲しい。
「さて、アリア。貴方は祓おうとしていた悪魔がどんな悪魔か、それくらいは知ってるのよね?」
ニヤリと笑ってかすみはプレッシャーを与えている。
「フフン、サキュバスなんてちっとも怖くないんだからね!」
「怖い?違うのよ、アリア。サキュバスの本領は、それこそ十八歳未満には正確にお伝え出来ないあーんな事や、こーんな事なのよ。うへへへ」
「ななな、何をいかがわしい顔をしているのよ。そういうの、変態って言うんだからね」
「ええ、よく言われるわ」
普通なら自分の言動を振り返ろうとするようなセリフだが、かすみはその程度ではビクともしない。
祓うべき悪魔をサキュバスと分かっていると言う事は、逆に言えばあのデメキンはバレていないらしい。布団のタイミングを知らせたダンディボイスの正体まで頭が回らない状態なのだろう。
「むしろアリアもコッチに堕としてあげるから、今から覚悟しておくことね。うへへへ」
「先輩、具体的に何をするつもりなんですか?」
神楽が警戒しながら尋ねる。
「うーん、このす巻き状態じゃ出来ることが限られてるから、ひっくり返してまずはズボンを脱がせるところから始めますか。そーれー」
かすみが本当にす巻きをひっくり返している。
「先輩、私に良い考えがあります」
神楽がかすみを止めながら言う。
「質問に対して答えなかったら、あの白い服に恥ずかしい落書きしていくとかどうです?」
「どういうの書いていくの?」
「そうですね、まずは『夜露死苦』とか『悪魔祓上等』から始めますか」
「それ面白いわね。大陸製猫型ロボットとか描いてみる?さて、アリア。色々聞かせてもらうわよ。答えなかったら、答えるまで色んな意味でヒドい目に合わせるからね」
かすみはニヤニヤ笑いながら、スカートのポケットからペンを取り出す。
「こんな事もあろうかと、油性ペンは持ち歩いているのよ」
それはそれでトラウマものだよな。
もし油性ペンを常に持ち歩く人物がいたとしても、こういう事を予想して持ち歩いているという事は無いだろう。
「ななな、何を?な、なんにしても私は喋らないんだからね!」
名前はわりと簡単に教えたけどな。
本気は心の中で言う。
「悪魔祓いって、具体的に何するの?」
「悪魔を祓うのよ。だから悪魔祓いって言うんだからね」
「どうやって祓うの?」
「色々あるけど、それが召喚に応じた悪魔なら、召喚者との繋がりを断ち切ればこの世界にいられなくなるから、悪魔を直接倒すより効果があるんだからね」
ん?それだとデメキンは何で存在できているんだ?アレは召喚士を見限ってフリーになって、今は神楽に飼われているはずだけど?
「具体的にどうするの?」
「異界門ってのを呼べば、ソレが魔力を吸ってくれるから、祓う悪魔の動きをしばらく止めてそこに異界門を呼ぶだけで余程の例外でもなければ祓う事が出来るんだからね。だから私でも悪魔を祓う事が出来るんだからね!」
「なんか回りくどいやり方ね」
かすみが腕を組んで言う。
あのデメキン、例外?インコちゃんもかなり上位って言ってはいたけど。
「悪魔祓いってそういう風にやるんですね。私、初めて知りました」
「インコちゃんも知らない事なのか」
「私、悪魔祓いってこの方しか知りませんから」
やっぱり悪魔も悪魔祓いもいないんじゃないか?常識的に考えて。あのデメキンは無駄に知能の高いUMAなのだろう。
淫子と本気は空家の入口近くで、三人のやり取りを見守っていた。
「でも、それは間接的よね。直接的にはどうするのか聞きたいけど、貴方、悪魔をまともに祓った事も無いんでしょ?」
「ななな、何を言っているのかしら?ちょーエリートだからね!」
「先輩、図星だったみたいですね」
「なんか、悪い事言っちゃったかな?」
「そそそ、そんな事無いんだからね!ちょーエリートだからね。恐れをなせば良いんだからね」
「えー?じゃ、確認のためにもっと色々聞いてみていい?」
「もちろん、私はエリートだからね。何でも聞いてみるとイイんだからね」
バカなんだ。
本気はすっかり話がまとまったのを見て、溜息をつく。
「じゃ、私達に付き纏うのは何で?」
「悪魔が召喚されたって事は、私達もつかんでるんだからね。その程度のゴマカシで逃げられる程、安いわけないんだからね」
「えー、どうやってつかんだの?」
「私が、ちょーエリートだからね」
「絶対嘘でしょ?」
「う、嘘じゃないんだからね!秘密の組織が召喚に成功した魔法使いがいるって言ったから、私が調べに来んじゃないんだからね!私がちょーエリートだから悪魔祓いを任されたんだからね」
全部しゃべっちゃってるよ。
喋らないと言っていたはずの金髪す巻き女アリアは、聞かれたことに対して気持ちイイくらいに答えている。
情報漏洩に気付いていない辺りも、随分と残念な感じである。
かすみと神楽がアリアを尋問している時、空家の入口をノックする音が聞こえた。
「ん?誰か来た?」




